第百五十六話 ゼンバオ/カオスころしあむ クラッシャー
さぁ、戦いだ!
―前回より―
新たなる執行者を加えての処刑大会の有様は、当然前回以上に熾烈なものとなっていた。
今まで以上の盛り上がりようの主立った理由としては、新しく起用の決まった執行者である高志・カーマインの存在に拠るところが大きいのは間違いないであろう。
――
以前にも記したことだと思うが、処刑大会を見に訪れる観客というのはほぼ例外なく暇を持て余した金持ち共である。金銭感覚が根本から狂っている彼らは、日々私利私欲の為に惜しみ無く金を浪費し続けており、その散財ぶりに際限というものは無いに等しい。
そしてそういった金持ちの中には時たま『金で出来る遊びはやり尽くした』等というふざけた輩も存在する。古来そのような金持ちの中には、その権威と財力を盾に裏で背徳的な行為―例えば拉致・隷属した民間人等に対する猟奇行為や性的虐待、違法薬物の製造並びに乱用、禁忌とされる分野についての研究等に興じる者も少なくなかった。
無論今もそういった金持ちは存在するが、その中に新たなる刺激として自ら進んで背徳行為に手を染める者は極端に少ない。倫理感や法の裁きに対する恐れ等からそういった行為を躊躇う半端な小悪党ばかりだからである。
そのような手合いが、しかし非道な悪行による刺激を求めるとするならば、果たして何を頼るであろうか?その答えは当然『自分以外の悪人に欲望を代行させ、擬似的な悪行による刺激を得る』という事に他ならない。
そしてここ真宝の首都万宮にて、そういった『悪行の代行』を行っていたのは、他でもない竜属種の女であった。比類無き力によって弱者を叩きのめした挙げ句惨殺する弱者の姿は、実力も実績もなく、覚悟さえ無い癖にプライドだけは無駄に高い金持ち達にとって最高の娯楽となり得るのである。
そして、回数を重ねる毎に処刑大会に味を占めた観客達は、より過激な見世物を所望するようになりつつあった。
そこへ唐突に現れた、絶大なインパクトを誇る新たなる処刑執行者―高志・カーマインの存在は、エスカレートする観客達の欲望を満たすのに最適であった。
―会場内―
「っぎゃああああああああああ!」
「だずげでぐれ゛ぇぇぇぇぇぇ!」
「俺がぁっ、俺が何をしたぁあああああああ!」
「おとぉぉぉやぁああああああああん!」
「クゥ゛ェアア゛ァ゛ア゛アアギィッ! ア゛アアァ゛ア゛ガアAAAAAHHhッ!」
「ホョォアアアルラバアァァッ! ッギヒヒヒィッ! アガバビポウッ!」
泣き叫びながら逃げ惑う罪人達を、奇声を上げながら次々と殺害していく二名の処刑執行者。
その惨状はまさしくパニック映画が如し有様であり、観客達の興奮も限界点へと達しつつあった。
「おい九条! 作戦というのはどうなったんだ!? まさか今更『ゴメンネ、実は無策だったニャン☆てへぺろ』等と言うわけではあるまいな!?」
飛行形態へと変形し、ジェット噴射による高速飛行で高志や竜属種の女の猛攻から逃げ回るティタヌスは、右腕で抱え込んでいる上司・九条チエに言う。
「まぁ待て、落ち着けティタヌス。今はそんな難しい事など考えず、如何にして奴らの攻撃から逃れるかだけを考えろ。
無論、私と高橋を落とさないようにな。何、品評会で中止になった飛行訓練の第三チャプターだと思えばどうという事はあるまい」
「相も変わらず非常時に限って無茶を言ってくれるな貴様! というかこれのどこが飛行訓練だ!? 仮に飛行訓練だとして、どう見ても第二チャプターと難易度が桁違いだろうが!」
「何を言う。数字が一つ進んだんだ、難易度が上がるのは必然だろ」
「そうじゃない! 私が言いたいのは上がり方が非常識だという事だ!」
「実際に見たこと無いので何とも言えませんけど、確かにこの状況ってどう見ても訓練とは呼べませんね」
「ほら見ろ! 高橋だってこう言ってるんだ! 解ったら早く作戦の指示を出してくれ!」
「あぁー、解った解った。解ったから騒ぐんじゃない、お前の大声は私の可愛い耳に一々響くからな。
とりあえず私と高橋で適当に奴の気を惹くから、ひとまずこのまま最高速度で真っ直ぐ飛べ。可能ならば最長距離―南西端から北東端にかけてのラインを、奴の正面を突っ切るようにして飛ぶのが望ましい」
「よし、解った」
「観客席の手前まで来たら私が合図を出すから、そこで上下左右の何れかにクイックカーブで素早く直角に曲がれ」
「了解した」
「くれぐれもしくじるなよ。動向を見るに奴の精神は最早ヒトであった頃のそれとはかけ離れている。
捕まれば今度こそ消化確定だろうからな」
「……任せろ」
―同時刻・ダリアの部屋―
薄暗いベッドルームにて巨大な薄型液晶テレビから流れる処刑大会の映像を肴に談話するのは、真宝政府の要人・樋野ダリアと、その愛人・真恋双であった。
ロリコンと年齢不相応の幼児体型という、お互いに不足分を補い合う関係にある二人の間には何時しか恋が芽生え、紆余曲折を経て今では愛人同士という関係と相成ったのである。
ちなみに今現在の身なりは両者共に全裸であり、雰囲気的に事後と見て間違いは無かった。
「どいつもこいつもくだらない欲望の為に熱くなっちゃって……哀れな連中ね」
「それを言ってはなりませんよ、恋双様。絶対的に我々より下であるあれらはそれだけで哀れなのですから、見下しては可哀想ではありませんか」
「フフッ、慈悲深いのねダリア。あんな奴らにまで優しく出来るだなんて、やっぱり貴方って最高よ」
「お褒めに預かり光栄です、恋双様。では、早速続きを……」
「あらあら、絶倫ぶりも相変わらずね……良いわよ。但し、私より先にイかないでよね?」
「……当然です」
次回、受刑者がまさかの大反撃!?