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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第百五十五話 ゼンバオ/カオスころしあむ




処刑大会、開始!

―前回より―


「だりあさま、しょけいたいかいのじゅんびがととのいました」

「うむ、御苦労。今日は『黄金郷』の皆様も来てお出でだ。失敗は断じて許されん」

「はい。こころえております」


―会場―


「遂にこの時が来たか……」

 乾いた土の上でぼやきながら空を見上げるのは、白い襦袢のような服を着せられた九条チエであった。

「どうした九条? 何やら物憂げな表情なように思えるが……これが狙いではなかったのか?」

 等というティタヌスの軽い問いかけに、九条は同じく軽々しく答える。

「物憂げであるものか。そもそも何を憂う必要性がある? 当初の目的を果たすことの出来たこの私は、恐らく今ここに居る中で最も幸運であると言わざるを得まい」

「ポジティブですね。これから死ぬって時なのに……」

「死ぬだと? お前らしくない下手な冗談だな。

『医師たるもの生を諦めるべからず』とはお前の座右の銘だろう?」

「これが冗談に聞こえますか、九条さん。何の作戦も無しにこんな所へ放り込まれた状況下で生きるのを諦めないとか無理ですわ」

「何の作戦も無しとは失礼な奴だな……まさかお前ら、私が何ら作戦も練らずに此処へ来たとでも――

「「思って ますけど」いるが」

「お前らなぁ……この九条チエともあろう女が、まさか此処まで来ておきながら無策である筈が――

「おっはろ~☆ みんなぁ~、げんき~!?」

「――っっっっ! ……今度は何だ?」

 処刑場内へと突然響き渡る、甲高く知性の感じられないアニメ声。

 余りの大音量に思わず耳を塞ぐ九条だったが、そこへ更に観客席から返答が響き渡る。

『げーんきだよーん!』

 拡声器などを使っていないにも関わらず、歓声は軽い空気の波となって九条達に襲い掛かる。

 第百三十五話に於ける処刑大会開始の流れが、再び巻き起こりつつあった。


―特等席―


「サプライズめいた不定期開催とは、小僧奴も粋なことをしよるわい。気を利かせるのはさほど上手くないと思っていたが、勘違いやもしれんな」

「そうでしょうかねぇ? 乱堂様に媚びを売る為の作戦かもしれませんわ」


 選ばれた賓客だけが座ることを許される特等席にて語らうのは、豪奢な服に身を包んだ鬼頭種の大男と、その部下らしき霊長種の女であった。


「金谷よ、それは考えすぎだろう。斯様な小僧如き、そこまで知恵の回る奴であろう筈もない」

「そうだわヨ。今の今まで公爵夫人として長らく世の中を見てきたアタクシに言わせれば、樋野ダリアは誰かを出し抜けるほど狡猾な奴なんかじゃあないワ」

「左様。あれなどは所詮典型的な成金型権力者よ。独力で真宝をこうまで己色に染め上げた所為で粋がっておるのだろうが、何れ足下を掬われる事になろうて。どのみち我等『黄金郷』に刃向かい害をなすようならば、こちらから出向いて殺してやるわい」

 鬼頭種・乱堂に続いてそんな事を言うのは、水死体のような色をした鯰系鰓鱗種の老女と、胴部が著しく肥大化した蛸系軟体種の男であった。


 民衆に『カタル・ティゾルに於ける悪の組織といえば何か』と訪ねれば殆どの場合『海神教』と答えるだろう。

 では、『資本力に優れた人物ばかりの集団と言えば何か』という問いかけの答えは何であるか?町中を往く一般市民などに声を掛ければ、十中八九『それは黄金郷という集団だ』と答えるだろう。

 ノモシアの伝説に伝わる古代都市の名を冠するこの集団の構成員は、皆総じて平均年収数十億単位というトップクラスの高所得者であり、その多くは貴族や大企業の経営者というような身分の者達であった。

 中でも会長を務める鬼頭種・乱堂豪傑の資産力は公表されていないものを含めればカタル・ティゾルでもトップクラスであるとさえ言われており、その驚異的な実力や風貌から『魔王乱堂』の異名で恐れられている。

 ホットパンツに革製のサラシという出で立ちの女・金谷は乱堂の秘書である。傲慢で自尊心が高く冷酷なこの女は、同時に典型的な拝金主義者でもあり、金銭を無上のものと捉える強欲な腐れ外道であった。

 残る二人も黄金郷の会員であり、当然世界各地で幅を利かせる大富豪なのだが、細かい説明については省略する。


―会場―


「『れっつ☆えくすきゅーしょん!』」


 間の抜けたような叫びを合図に、闘技場の両端からそれぞれ大きさの異なる箱のようなものが姿を現した。ほぼ同じタイミングで開け放たれた箱の中から飛び出したのは、あの竜属種の女と高志であった。


「ぬぅ……ふぅぁああ……あぁああああっ……」

「―――ッェァアアゥォオオオオァアアアッ! ッキヒィアアアッ、ガエアアアアッ、ォア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ッ!」

 竜属種の女が苦しそうに呻きながら辺りを睨み付け、高志が体を震わせ奇声を上げる。

 その度に多くの受刑者達は悲鳴を上げながら逃げ惑い、その様を見た観客達は嘲笑う。


「高志……相も変わらず何という姿だ……」

「何度見てもおぞましい……この国の政府は一体何を考えている……?」

「あぁ、高志……きっと助けてあげるからね……」


 かくして狂気の処刑大会は開始された。

次回、九条の考えた作戦とは!?

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