第百五十四話 囲む円卓と衝撃の連続
看守によって明らかになる衝撃の真実!
―前回より―
「じゃっど。今まじゃああん竜属種のおなご一人じゃったのけんどん、次はもっとてげ奴を出すじゃあで」
「てげ奴というと、何だ? 山のごつな図体のばけもんとか、じゃあいうもんか?」
「のさんのさん、そげんなくだらんもんじゃあんぞ。もっとおぞましい代物でな」
「ほうほう、具体的にはどんげ奴やっつよ?」
「それがまだ噂の段階なのじゃあっきりとしたつ事は解らんんだけんどん、何でん飲み込む黒いヘドロのごつな怪物げな」
「(黒いヘドロ……だと?)」
その言葉を効いた九条は思わず息を呑んだ。
「黒いヘドロというと、流体種か?」
「のさん、実際に見た奴の話を聞くに流体種とはいっちょん別物だとか。常にギャアギャア騒いでばっかりで、何を言っちょるのかもいっちょん聞き取れんじゃっど」
「じゃっとよか。そらたまらんちゃがだな」
「まぁ、うちらには関係のん話だがな」
「じゃっどな」
看守達が他愛もない会話を続けながら歩き去っていく一方、衝撃的ながらも有益な情報を得た九条は床の中で作戦を練り上げる事にした。
―翌日―
「成る程。っつー事ぁ、やっぱりあの連中もこの国を……」
「うん、狙っていると考えて間違い無いだろうね」
「そもそも我々のやろうとしている事は彼らの真似事とも取れますから、目的が重複する確立は高かったものと思いますけれどね」
とある地下スペースでテーブルを囲んでいたのは、それぞれ種族の異なる三人の若者だった。
一人は学生服を着た赤い竜属種の青年こと、デーツ・イスハクルの部下、デッド・イスハクル。
その右隣に座るのは、紺色のタキシードを着込んだ白い馬系禽獣種の青年・五真刻十。
対してデッドの左隣に座っているのは、漆黒の鱗と巨大な金色の単眼が特徴的な蛇系有鱗種の女であった。
「そうは言いますがね生一さん、こいつぁどうして中々馬鹿に出来ねぇ事態ッスよ? 俺らは確かに総合的な火力に関しちゃ向かうところ敵無しですが、正直な所そんだけでしょう?」
「否定はしませんが、しかし私達がその『火力』を頼りに生き抜いて来たのも事実ですわよ」
「まぁ、基本的に火力で押し切っている感は否めないよね。特にデッド君はその傾向が極めて強い―あの赤い剣、何て名前だったか――
「『赤鬼剣アトラス』だぜ」
「そう、アトラス。あれを得てからというものの、デッド君の活躍は凄まじいの一言だった」
「お前の超高速無限斬撃にゃ敵わねぇよ、五真。それに生一さんの魔術だって、俺には真似できねーっつうか、俺には魔術の心得そのもんがねぇしな」
「それでもデッド君の力は圧倒的ですわ。あなたのお陰で我々の総合的な戦闘能力は、イスキュロン対陸軍の一個大隊にも匹敵するでしょう。
ただ――」
蛇系有鱗種・生一花音は、一拍ほど間を置いて言う。
「それがツジラ一味に通用するかどうかと言われれば、答えは恐らく否でしょうけれど」
「やっぱ、必然的にそうなりますよね? 無論奴らと必ず敵対するって訳じゃないでしょうが……」
「彼らが友好的であるという確証は当然ない。出会い頭に敵と断定され攻撃されると考えるのが現実的だろうね。張り巡らされた巧妙なトラップか、或いは暗殺・奇襲などのゲリラ戦を想定すべきだ。
そうなれば確かに、今の僕達のような火力主軸の戦術では対抗の余地などありはしない」
「だろ? となりゃ本格的に対策を練らなきゃ、何時寝首を掻かれるか解ったモンじゃねえ。
だから、俺としては――ん?」
デッドの言葉を遮るように、彼の胸ポケットが振動する。どうやら彼の携帯電話に着信があるらしい。
席を立ち部屋を出たデッドは、携帯電話の通話ボタンを押した。
「もしもし、俺だ」
『デッドさんですか? 私です』
「おぉ、アリサか。どうした? 何か新しい情報が手に入ったのか?」
電話の相手は外部にて活動中であるデッドの妹分、アリサ・ガンロッドであった。
『はい。例の映像についてなのですが、解析結果が出ました』
「何? それじゃ奴――あの処刑執行者の正体も?」
『はい。解りました。とは言っても得られた情報は僅かなものですが……』
「例え雀の涙ほどだろうと構わねぇさ。あの女はとんでもねー力を持ってる癖して完全にダリアの支配下に置かれてる。となりゃ、あいつをどうにかしなきゃ話は始まんねぇわけだしな……。
それで、奴に関する情報ってのは?」
『はい。では単刀直入に言いますが、彼女は只の竜属種ではありません』
「只の竜属種じゃねえだと? まさか……野郎も屍術を……」
『いえ、それがそうではないんです。確かにデッドさんに似た存在と言えなくも無いのですが……』
「ですが、何だ?」
『彼女は、あの竜属種の処刑執行者は――』
アリサの言葉を耳にしたデッドの手から、携帯電話が滑り落ちる。
『デッドさん? デッドさん? どうしたんですか?』
「悪ぃ、手ェ滑った。にしても、俄には信じらんねぇ話だな」
『私も最初は驚きましたが、どうやら嘘ではないようです』
「そう……か。有り難うよ。引き続き何か仕えそうな情報が有ったら連絡頼む」
『はい。勿論です』
―部屋―
「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。ついつい長話しちまったぜ――って、あれ? どうしたんだよ二人とも」
通話を終えて部屋に戻ったデッドを出迎えたのは、妙に神妙な面持ちの花音と刻十であった。
「あぁ、デッド君。お帰り」
「ちょっと、メールがありましたの」
「メール?」
「あぁ。僕の携帯電話に、レノーギからね」
刻十が口にしたのは、外部で暗躍する仲間の名だった。
「レノーギから?」
「そうだよ。まぁ、百聞は一見に如かず……とりあえず見てみると良い」
刻十から手渡された携帯電話を見たデッドは、驚愕の余り硬直した。
「何……『町中で暴れていた身元不明の民間人数名逮捕につき、明日正午より臨時処刑大会の実施が決定』っ!?」
次回、処刑大会遂行!捕まった犯罪者達とは一体誰なのか!?
そして、処刑執行者の女の衝撃的な正体とは!?