第百五十三話 巨乳は違法ですの!
一方その頃、九条一行はというと……
―前回より―
「噂に聞いては居たが、本当にとんでもない国だな……」
「あぁ。そして私の探知が確かなら、この国の何処かに高志は居る……」
「高志……待っててね……必ず助けに行くから……」
真宝首都・万宮の路地裏に潜む、三人の人影―もとい、九条チエ・ティタヌス・高橋飛鈴の三名。
紆余曲折を経て何とか真宝へと潜入した彼らは、作戦決行のチャンスを虎視眈々と伺っていた。
「兎も角今の状態で唐突に飛び出すのは不味いな。極めて不味い」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。私達はあくまで普通の観光客を装わねばならん。だが、普通の観光客が路地裏からいきなり飛び出して来るわけ無いだろう?」
「じゃあ何で路地裏に隠れようなんて言ったんですか?」
「……作戦を説明する」
「無視ですか、九条さん」
かくして三人は三手に分かれて作戦を開始した。全てはあの五真刻十という男から聞いた話の真偽を確かめるための行動である。
―数分後・ダリアのオフィス―
「ごほうこくいたします。さきほど、はんかがいほうめんにてはんざいしゃさんめいのみがらをかくほしました」
「詳しく聞かせてくれ」
「はい。はんにんはしんゆえをちゅうしんにやむたのかくちでかつどうしているふりーのろじょうあーてぃすとぐるーぷ『ぴん・くりんくす』をなのるものたちで、げんだいげいじゅつかいのかくめいじをじしょうしています」
「路上アーティストグループ『ピンク・リンクス』か……現代芸術界の革命児とは、酷い中二病患者のようだな」
「めんばーはそれぞれ、ねこけいきんじゅうしゅならびにれいちょうしゅのおんなと、つのりゅうけいのちりゅうしゅのおとこです」
「わかった。禽獣・霊長・地龍が各一名だな。それで、罪状は?」
「きぶつそんかいざいおよびないらんざい、ならびにきょにゅうざいです。
きんじゅうしゅのおんなとちりゅうしゅのおとこは、げいじゅつとしょうしわがくにのじゅうようぶんかざいにらくがきをしたり、はんかがいではかいかつどうをくりかえしました」
「霊長種の女は?」
「まちなかでろしゅつどのたかいかわのふくをきて、これみよがしにせんじょうてきなうごきであらわれたので、そっこくみがらをこうそくさせました。げんざいはぜんいんろうのなかです」
「そうか、御苦労。『ピンク・リンクス』の処遇については私が決定する。それまで余計な真似は一切するな」
「はい。だりあさまの、おおせのままに」
部屋から去っていく警察関係者―とは言っても、傍目から見た姿は犬の着ぐるみ―を見送ったダリアは、頬杖をつきながら呟く。
「さて、と。臨時の処刑大会でも開かねばならんかな……」
―さて―
真宝政府を裏で操るダリアが新たに設けた法律の多くは彼の本性と同じく歪みきったものばかりであり、その全ては『幼い女性を擁護する』という目的の元に存在している。
その中でも取り分け極端な部類にあるのが『巨乳罪』というもので、それは読んで字の如くバストサイズの大きな女性を、只それだけの理由で犯罪人として扱うというものである。当然社会的地位は低く扱われ、大抵は奴隷のような扱いを受けることとなる。
但しそれでは流石に法律として成り立たない面が在るため、ある程度の詳細な定義は存在する。
まず巨乳の定義自体が極めて曖昧であり、基準は樋野ダリアと彼の部下数名からなる「議会」によって定められる。議会の面々は総じて絵に描いたようなステレオタイプの幼女性愛主義者であり、幼女を崇拝する反面成熟した女体や男性を毛嫌いしている破綻者である。
故に「巨乳」の選定審議やそれらに対する扱いは、歪んだ私情による不当なものばかりである。
そういった「不当な扱い」を列挙するとキリがないのだが、代表的なものをここに明記すると、以下のようなものがある。
・巨乳認定を受けた女性は公共の場所で肌を露出させてはならず、衆人の前で肌を露出させる必要性のある施設を利用してはならない。
・外出時は拘束具等を用い、身体の起伏が目立たないようにしなければならない。
・社会的地位や権利の優位性はあらゆる国民の中で低辺にある。
・
・貴族など政府関係者に巨乳と定義可能な女性がいる場合、魔術・学術による肉体改造術で幼女然とした肉体にならなければならない。それを拒否した場合、その者を終身刑に処する。
―こういった悪法がまかり通る辺り、今の真宝がどれほど狂っているか解ると思う―
―同時刻・牢獄内―
「(犯罪者を装って逮捕されたは良いが……さて、これからどうするかな。
よくわからん魔術だか何だかの所為で通信系統はまるで役に立たんし、何時何をされるかわからん。
その上ティタヌスや高橋とも当然コンタクトが取れない……これはいかんな。高志がこの辺りに居ることは解ったが、もしかしたらしくじったかもしれん……)」
牢獄の中、チエは一人頭を抱えていた。
理由は至極簡単で、『何をすればいいのか解らなくなっていたから』の一言に尽きる。
「(あぁ、こんな事なら犯罪者を装って逮捕なんてされなければ良かったかも知れない。私としたことが、変なところで色気を出したら直ぐコレだ……仕方ない、今はひとまず寝て待つか)」
九条が備え付けの粗末なベッドへ横になるのと同時に、ふと向こう側から足音と話し声が聞こえてくる。
「(―……看守か?)」
何か有用な情報が得られるかも知れないと考えた九条は、寝ているふりをしつつ看守達の会話に耳を傾ける。
―通路―
「じゃあいえばわら、聞いたちゃか?」
「何をだ?」
「何をって、処刑大会の話に決まっちょるやろ」
異国から出稼ぎに来ている看守二人の話題は、真宝で定期的に開催される処刑大会についてのものだった。
「処刑大会?処刑大会がどんげかしたつのか?」
「あげん。何でんあば処刑役が来なるげなぞ」
「あば処刑役?」
「(あば処刑役……あば……確かある地方の言語で『新しい』という意味だったな……つまり、新しい処刑執行者が居るというのか……?)」
次回、処刑大会開催か!?