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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
152/450

第百五十二話 バレチャッターズ すまっしゅ。




ごきげん用心棒、本領発揮!

―前回より―


 かくして、街へ飛び出した武隷面頭の面々とごきげん用心棒による追走劇は幕開けとなった。

 一応初歩的な魔術や武術の心得こそある乾達であったが、そんな町中で起こる乱闘騒ぎで培った程度の技術や経験はごきげん用心棒―もとい、香織と繁の二人には遠く及ばない。


「豚猫がそっちに逃げた! 軽く脅かしてやれ!」

「了解! ロバ野郎は足捻った唐揚げ抱えてるから、一網打尽にするなら今だよ!」

「っしゃあ!」


 二人は現代っ子らしく携帯電話を用いて微笑ましいやりとりをしながら、カジノ周辺を縦横無尽に駆け巡る。その有り様は所謂『パルクール』というスポーツに似たものであり、軽快なステップはどこか楽しげでもある。

 対する武隷面頭の面々は対称的に、最早哀れとしか言い様がないほど無様に逃げ回っていた。挙げ句、メンバーの一人・鳥居崎に至っては逃亡中に足首を捻挫してしまい、驢馬系禽獣種に背負われていた。


 そこから紆余曲折を経て、物語は150話冒頭へと戻る。


―路地裏―


「ぎひぁああああああっ! クソっ、どういう事だってんだよぉっ!」

「おい(いぬい)てめぇっ、話が違うじゃねーか! どういう事だよ!?」

「お、俺だってしらねーよ! 前に来たときはどいつもこいつもひ弱な雑魚ばっかで、ちょっと脅すだけでどうにでもなってたんだ!」

「じゃあ何だったんだよあの変なマスクの二人組はぁっ! あんなのが居るなんて聞いてねーぞ!」

「全くだぜ! ごきげん用心棒なんてふざけた名前しやがって!」

 コンクリートの壁にもたれ掛かって毒づく四人だったが、ふと乾が言った。


「クソ! 思い出しただけでもイライラするぜ! こうなったら奴らに地獄見せてやるっきゃねえ!」


 その言葉には根拠も計画性も無かったが、乾同様根本からしてバカである武隷面頭の面々を元気付けるのにはそれで十分であった。

「そうだな! あんな連中、俺らでぶっ潰してやろうぜ!」

「そうそう! んな奴ら俺らが本気出しゃあっという間よ!」

「俺、奴らをブッ倒したらあの子に告白するんだ。もうラブソングだって作ってんだぜ……」

 等と言うのは、驢馬男に背負われている鶏系禽獣種・鳥居崎であった。

「鳥居崎……お前って奴は……」

「ウウッ……出会った頃は字も書けないヒヨッコだった鳥居崎が自分で作詞作曲を……」

「鳥居崎、頑張れよ! 気張っていけ! お前なら大丈夫だ!」

「ありがとよう、みんな……俺、頑張るよ! あの子に俺の手作りフライドチキンを振る舞う為――コケェッ!?」


 それは一瞬の出来事であった。鳥居崎の背後にあったコンクリートの壁が突如不気味に蠢き、賺さず鳥居崎の首に巻き付いて瞬時に飲み込んでしまったのである。


「とっ、鳥居崎ィィィィ!」

「畜生…ッ…鳥居崎ィ……!」

「鳥居崎……何でお前が――「アッー!」――と、鳥居崎!?」


 突如壁の向こう側から響き渡る仲間の悲鳴を聞きつけた三人は、必至で背後の壁を叩き壊そうとする。

 しかしそこでまた壁が液体のようにうねりだし、三人の腕を飲み込んでいく。三人は抜け出そうと必至に抗うが、抵抗も虚しく壁の向こうへと消えてしまった。


 その後、武隷面頭の面々がどうなったのかは定かでない。

 ただ、


「「「アッー!」」」


 悲惨な目に遭ったのは確かなようである。


―それから後―


 翌日、キンムカムイ直々の呼出に応じて再びポクナシリを訪れていた繁と香織。


「お前らの頑張りは最高だったぜ。辛かっただろうが、よく頑張ったと思う」

「いや、ちょっと待って下さいキンムカムイ様」

「ん?何だ?」

 珍しく突っ込み口調の繁が、キンムカムイに言う。

「我々の頑張りと言いましても、まだ最初の仕事すら終わっていないんですが。警備の仕事は三日の筈でしたよね?」

「いやぁ、予定より早く警備員の子が見付かってね! 君らには君らの用事があるんだろう?」

 等と宣う宏一は若干息切れを起こしているようだった。

「お心遣いは感謝しますが……確か仕事はカジノ警備以外にも複数ある筈では?」

「じ、事情が変わったのだよ。キンムカムイは君達の頑張りを評価し、格安で情報を提供しようというんだ。この厚意、受け取っておいて損はないぞ?」

「俺の厚意はレアだぜ」

「はぁ……それなら受け取っておきますけど……」

「情報機関のボスがそんなホイホイ情報差し出して良いんですか……?」


 何はともあれ真宝に関する情報を得た二人は、翌日より早速行動計画を練り始めることとして戻っていった。


「行ったか……」

「あぁ……」

「しかし、良かったんですか? あんなに軽々と機密情報を渡したりして」

 不安げな宏一の問いかけに、キンムカムイは冷静に答える。

「良いもなにも、あのままにしといたら逆に三咲町が荒れちまうじゃねえか。見ててつくづく思い知ったが、奴らはある意味でヒトを超えてやがる。並大抵じゃねえんだよ、あれらは」

「と、言うと?」

「鈍いな、レプンカムイ。奴らはある種の化けモンだ。上っ面じゃあの通り温厚な凡人を装ってるが、その実態は途轍もなく悪質な存在だろうよ」

 それは今の今までさまざまな者を見てきたキンムカムイだからこその発言であった。情報機関での長年にわたる経験は、見てくれだけで他人の内面を読み解く術を編み出したのである。

「特にツジラは……ありゃあ一日二日で得られるようなもんじゃねえ。恐らくは十数年を超える人生の中で培われ、熟成された悪意と邪知だ」

「糠漬けのようなものかい?」

「または、ワインのような?」

「いや、そんな綺麗なもんじゃねえ。どっちかっつうと三年間放置した炊飯ジャーだ」

「す、炊飯ジャー……?」

「さ、三年間って……」

「それもカサ増しの為に色々変なもん入れてんだろうぜ。ともかく、あんな連中にこれ以上三咲町で暴れまわられたら収拾が付かなくなるんでな。

ああいう手合いは無理に相手をするより、適当な所へ追いやって好き勝手やらせておく方が好都合ってモンだ」

次回、遂に真宝へ!

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