第十五話 大佐が主人公っぽいなんてぜんぜん思ってないんだからねっ!
注意:主人公はあくまで繁です。
―前回より―
『オップス大佐、状況説明を』
「はッ!先程突如障壁が解除された事により、城内への突入に成功しました」
『よくやった!』
「しかし、問題があります。幻術か罠なのか、城の内部が迷路のように入り組んでおり、中庭に辿り着けないのです」
『何だと?』
「更に言えば、城内部は我々の目に見える形で、建築学を乖離した凄まじい変形を繰り返しています。これでは中庭になど辿り着きようがありません」
『馬鹿な……我が軍の魔術部隊はあらゆる感覚干渉系魔術への耐性を身に付け、一級の幻術破りを習得させた者ばかりだというのに…』
「正直なところ鬼頭種である故に私も軍に入って長いですが、幻術や感覚干渉系魔術以外でこんな事をやってのける魔術師には会ったことがありません。確かに専用術式を用いれば建築物を変形させる事も可能ですが、それには建造段階での術式適用が必須ですし、そうだとしても決まったパターンの変形を定期的にこなす事しか出来ないというのに……」
『いや待て大佐……その例外というのは確かに存在するぞ』
「まさか!現代の魔術理論では神性種でも不可能だという事は既に実証済みですよ!?」
『そうだ……スプリングフィールド教授の打ち立てた現代式魔術理論では、神性種でも到底不可能な事だ。だがもし、発動されている魔術が現代魔術の定義に当て嵌まらないものだとしたら、どうかね?』
中将の言葉に、大佐は耳を疑った。
「まさか……古式特級魔術!?」
その一言は、それまで黙っていた兵士達の耳にも入る結果となり、討伐隊に動揺が広まった。
『ドライシス上級大将の受け売りだがな、しかしそうだとすれば納得が行くだろう?』
「確かにそうですが……しかし、古式特級魔術はもうかれこれ150年も前に習得方法を印した資料が根刮ぎ破棄され、関連教育機関でもその存在や術名・効果等の情報こそ歴史学びますが、習得方法の教育は完全に違法とされていましたよね?更にその殆どは現役の使用者が既に他界しており、生存していたとしても殆どは各大陸で厳重な監視の元保護されていますし、更に総じて高齢である事も相俟ってツジラ・バグテイルが招き入れる事は不可能だと思うのですが……」
『確かにな。だが魔術を学ぶ方法は、何も教育機関だけではあるまい?民間の魔術師に弟子入りする事で直にそれらを学ぶことも可能だ。当然それが、古式特級魔術であろうともな』
「確かにそうですがしかし、しかしですよ中将。あらゆる点で現代魔術理論を乖離している古式特級魔術を習得可能な逸材が、果たしてそう簡単に産まれるのでしょうか?」
『判らん。しかしながら、風の噂で聞いたことがある。異世界で産まれた者の中には、比較的高確率で優れた魔術的才能を発揮する者が居るのだとな。
しかもその才能の方向性は神性種などとは違う事が多く、現代魔術理論を逸した場合が多いとも聞く』
「異世界出身者……ですか。それは盲点でした」
『……そもそもだな、大佐。現状に於いてそんな事はさして重要ではないのではないかと、私は思うぞ』
「それは、どういう事でしょうか?」
『判らんか?つまり、習得者の発生率がどうであれ、現に我々の眼前では既に古式特級魔術が行使されているのだ。私もついつい熱く語ってしまったが、今重要なことは「如何にしてツジラ一味を捕らえるべきか」だ。それを忘れてはならんぞ、大佐』
「はい…了解であります、中将!」
予想外の出来事の連続で不安に囚われていたオップスは、再び奮起し決意を固め、部下達に言う。
「諸君、我々が今こうして立ち往生している間にも、かのツジラという男は国王陛下や女王陛下、そしてセシル王女のお命を狙っている!王族が命の危機にあり、また王家を護る為に警備隊の勇士達はツジラ一味の手に掛かり、尊い命を奪われているのだ!そんな状況下で、我等ルタマルス公国軍の誇り高き軍人ともあろうものがが、この『ツジラ討伐隊』の選ばれし精鋭ともあろうものが、たかが魔術程度に恐れを成して進軍を躊躇うとは何事かっ!我等討伐隊の軍人達よ!今こそ立ち上がって眼前の障害を果敢に突き破り、かの憎きツジラ・バグテイルのその首を、悉く刈り取ってやろうではないか!」
オップス大佐の言葉に感化された軍人達は、皆次々に雄々しく立ち上がり、種族それぞれに咆哮や奇声にも等しいほど凄まじい音量で、一斉に鬨の声を上げ、お互いの志気を高め合った。
男も女も、若手も古参も、霊長種も禽獣種も鬼頭種も羽毛種も流体種も有鱗種も、その他様々な種族の者達が、一斉に叫ぶ。
ふとそんな時、軍人達の志気が上がったのを見計らったかのように、城の変形が止まった。
これを好機と見たオップス大佐は、部下達に向かって叫ぶ。
「今だ!我々の力を一つにして、壁を突破するぞ!」
『うおぉぉぉぉぁぁぁあああああああああああ!』
魔術部隊がオップス大佐を含む武装部隊に持てる限りのエネルギーを注ぎ込み、それらをまず銃砲や弓など、遠隔攻撃担当の部隊が中庭方向の壁に向けて放つ。
そして続けざまに、武装部隊が一斉に全力での突進を繰り出し、障害物を悉く突き破っていく。
最後の太い石柱一本を突き破った末、討伐隊は中庭へと辿り着いた。
所々に前線虚しく力尽きた警備隊員達の亡骸が散乱する中庭は、本来の美しさや気品を失っていた。
そしてその中央に、オップス大佐は自らの宿敵であろう男の姿を見付ける。姿を見たことは無かったが、一度声を聞いている以上、鬼頭種の持つ気配察知の力を用いれば特定は容易い。
そして中央に佇み暢気に黄色い炭酸らしき飲料を啜る、頭に巨大な虫が丸々一匹貼り付いたような容貌の男・ツジラ―基、辻原繁―は、討伐隊に言い放つ。
「お前さん方、いい目をしてるな。殺すのが惜しいよ」
その言葉に対し、オップス大佐は果敢に言い返した。
「そうか。お褒めに預かり光栄だ。お前は私達を殺すのが惜しいと言ったが……私は少なくとも、微塵も躊躇わずにお前を殺せそうな気がするよ」
繁が立ち上がるのと同時に、オップス大佐は自らの武器であるウォーハンマーを構え、部下達もそれに応じて各々戦闘態勢に入る。『ツジラジ』の第一回で遂行された企画は、遂に最終局面へと向かい始めた。
注意:主人公はあくまで繁なんです。