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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
149/450

第百四十九話 違法カジノと繁華街と医者




レクチャー開始

―前回より・雑居ビル内部―


「それで、仕事の方だけど」


 雑居ビル地下一階に案内された二人は、宏一からの説明を受けていた。


「君らにやって欲しいのは、ここの警備と監視だ」

「警備に監視、ですか」

「そう。さっきも言ったようにここの運営は非合法なものだ。んで、その所為なのか元々なのか、色々な所から色々な奴が集まってくる。ここに限った事じゃないけどね」

「はい」

「『色々な奴』というとどことなく聞こえはいいが、それは単なる産まれや種族、趣味趣向の違いだけに留まらない。金持ちも来れば庶民も来るし、カタギも来れば筋モンも来る。もしかしたら指名手配犯が混じってるかもしれない」

「確かに、一概にその可能性は否定出来ませんね」

「そうだろう?そしてそんな奴らが入り乱れて賭博に興じる―つまり、『金のやりとり』をするって事は、必然的に何かしらのトラブルを産む。特に危ないのは貴族系の金持ちと筋モン―つまり極道や任侠なんかだが、だからと言って庶民やカタギだって油断は出来ない。イカサマや暴力沙汰は勿論、乱闘騒ぎや強盗、スタッフの子へのセクハラなんかもかなりの頻度で起こったりする」

「それで、我々に賭場の警備をしろと?」

「そういう事。管理運営とか隠蔽とかただでさえ人手不足だから、警備とかにまで十分に人員を割けないんだよね。まぁ、そんなに難しい事じゃない。明日から丸々三日間、賭場の中でのトラブルの防止と鎮圧に努めて欲しい。場合によっちゃ武力行使も構わないけど、せめて相手の足腰が立つレベルまでで留めておいてね」

「それは構いませんが、三日で宜しいので?」

「あぁ。そんだけあれば十分な人員を確保出来るだろうからね。それに、あんた達にはまだやることがあるんだろ?」


 そう言って宏一は先程の鍵とA4サイズの冊子を手渡した。


「これはここの鍵穴全てに使えるマスターキーって奴だ。高いからくれぐれも無くすんじゃないぞ。

仕事の詳細はこのマニュアルにまとめておいた。お客への対応の仕方からイカサマの見分け方、仕事関係で解らない事があったら先ずこれを見るといい」

「有り難う御座います」

「出来る限り尽力します」

「期待してるよ~。それじゃ、俺は会社の仕事があるから」


 かくして二人の『仕事』は幕を開けた。


―同時刻・ヤムタ某所の繁華街―


「はい、これでもう大丈夫ですよ。向こう三日は安静にしていて下さいね」

「有り難う御座います。一時はどうなるかと思いましたが、まさかこんなに早く治療が済むなんて思っても見ませんでした」


 日が暮れた頃、霊長種・高橋飛鈴の営む診療所にて治療を受けるのは、細身に純白の鬣を持った馬系禽獣種の青年であった。とある一件で左腕を複雑骨折してしまった彼は、偶然にも近くに居合わせた飛鈴の知人によって助けられ、彼女の営む診療所にて治療を受けていたのだった。


「そいは当然ばい、お兄しゃん。アネゴにかかれば死人も忽ちゾンビに早変わりやけん。古代ヤムタ北東部に伝わる『(チィ)』ん力、まだまだこぎゃんもんじゃなかけんね!」


 等と自慢げに喋るのは、若干小柄ながらも成熟しきったような体格をした猫系禽獣種の少女・『瞬猫(スンマオ)』。

 名前通りの駿足を誇る彼女は数多い飛鈴の知人が一人であり、路上で腕を抱えながら行き倒れていた馬系禽獣種の青年を助けた張本人でもあった。因みに、何故彼女が博多弁を喋るのかは不明である(というか、あれこれ理由をつけて説明するのが面倒臭い)。


「ちょっとスン、それは医者じゃなくて魔術師や学術者の管轄でしょ?」

「そーやったっけ?」

「そうなの。御免なさいね、根は良い子なんだけど破天荒でちょっと頭が足りて無くて」

「構いませんよ。僕の仲間にも同じような奴が居ましてね、まぁ昔よりは大分理屈っぽくなってしまいましたが……何にせよ、治療して頂き有り難う御座います」

「いいえ、良いのよ。医者として、ヒトとして当然の事をしたまでだもの」

「しかし、貴方のお陰で僕が助かったのは確かですし。さて、財布財布っと……」

「あら、お金なんて要らないわ。これはあくまで人助けとしてやったのだから、治療費取るなんて私のポリシーに反するし」

「そーちゃそーちゃ。ここはアネゴん顔立とう意味ばってん払わんけんでいげてちゃ」

「しかしそれでは逆に僕の立場がありませんよ。お二人には危ないところを助けて頂いたわけですし……」


 青年は生来の誠実さと律儀な性格故に躊躇いを隠せずにいるが、それもその筈であろう。

 というか、こういう場合余程切羽詰まった状況でもない限り躊躇うのが一般的なものの考え方という奴であろう。

 飛鈴は熟考の末、そんな青年に対しある提案をした。


「そうね……じゃあ、治療費の代わりに情報を頂けないかしら?」

「情報、ですか?」

「そうよ。知ってる限りの事で良いし、話せないような事なら話さなくて構わないわ」

「まぁ、それでしたら構いませんが……それで、何についての情報をお求めなんです?」

「そうね……それじゃあ――」


―数分後―


「今日は本当に有り難う御座いました。また何時かお会いしましょう」

「此方こそ、面白お話を有り難う。感謝するわ」

「またね、兄ちゃん。今度会うっちきはなんかうまかぁもけんもご馳走しゅるちゃ」

「ははは、期待させて貰いますよ。それじゃ、僕はこれで――

「あ、ちょっと待って」

「ん、何です?まだ何か?」

「そういえば貴方、名前を聞いてなかったわね。私は高橋飛鈴、この子は瞬猫(スンマオ)っていうんだけど、貴方は?」

「僕ですか?僕は――」


 ギプスを填めた左腕を吊り下げた青年は、爽やかな笑顔を浮かべながら言う。


「――刻十(こくと)です。五真刻十(いつまこくと)と申します」


 かくして飛鈴と瞬猫に別れを告げた馬系禽獣種・五真刻十は足早にその場から立ち去っていった。

次回、仕事開始!

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