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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第百四十八話 非合法だけど人助け目的だから関係ないよねっ


宏一が持ってきたものとは……

―前回より―


「お待たせ~―っと」


 相変わらずの様子で戻ってきた宏一は、再びソファに腰掛けるとテーブルに何かを置いた。

 鋭く尖った小振りな板状の物体であるそれは金属製であるようで、複雑な溝が掘ってある。


「これは……鍵、ですか?」

「そう、鍵だ。小さく軽いが、同時に大きく重い。印鑑や各種書類なんかと同じで、場合によっちゃこれ一つで国を滅ぼしたり世界を動かしたりなんて事も出来る。

考えてもみなよ。こんなちっぽけな鉄の塊に、時には数千兆単位の大金や機密情報、挙げ句の果てにはヒトの命なんかまで委ねちまえるんだぜ?面白い話だとは思わないか?」

「確かに、考えて見ればそうですねぇ」

「キャッシュカードにクレジットカード、CDにUSBメモリ……情報を保存するものって、何でこうも脆そうな見た目のものばっかりなんですかね」

「いざって時に破壊しやすくする為じゃないかな。バラすよりは消し去った方が的な」

「「あぁ……」」

「――…っていうか、話が逸れたね。今回君達に依頼する仕事では、主にこの鍵を使って貰う」

「鍵を?」

「そうだ。うちは恐らくカタル・ティゾルで唯一の『慈善事業』を主体とする企業体でね、基本客から金は取らない。逆に災害救助支援なんかの為に金を使うくらいだ。

だが、金って奴の本質は『廻す』事にある。消費してばかりいたんじゃ何時かは底を尽くし、稼いだ分を溜め込んでおくのもある意味では賢くない。何故だか解るかい?」

「ちょっと、解らないですね……すみません」

「私もそういった話はよく聞きますが、貯金が悪いという話は聞きませんなぁ……面目ない」

「いやいや、謝んなくたっていいよ。解らないからどうとかいう話じゃないし、第一俺が個人的に思う持論だからね。

それに、俺は貯金が悪いとかそういう事は一言も言ってない。後先をちゃんと考え、得た物を効率よく活用する為に計画する事自体は充分良いことだ。結論を言えば貯金って行為そのものは美徳だし、欲に任せて考え成しに浪費し続ける事よりは当然優れていると言える」

「では、何故――

「けど、だからってただひたすら闇雲に金を溜め込んでばっかりで、それを使おうとしないってのは、俺個人としては愚行なんじゃないかと思ってる。

確かに貯金は美徳だが、それはあくまで『消費を前提とした管理計画』が入ってこそだ。貯金の真意って奴はそこにあるわけで、『計画する貯金』なら俺も文句は言わない。ただ、俺が嫌いなのは、そういう計画性のないただ単に溜め込んでばかりの貯金って奴だ。家計のためとか、非常用なんてのなら兎も角、溜め込むのが好きな奴はそういう『用途』さえ設定しない。

消費される目星のついていない金は金としての本質を失ってしまう。それはつまり、生き物で言うなら死んだも同じって事だ。金ってのは、あくまでモノを買ったりサービスを受けたりするための『手段』であって『目的』じゃない。世の中に明確な『目的』があるとするなら、少なくとも俺の中でのそれは『何かをすること』だ。決して金なんかじゃないんだよ。

『世の中は金が全てだ』とか思ってる奴はそこが駄目なんだ。そもそも金がその本質を保っていられるのは世の中の文明が明確に機能しているからであって、何らかの理由で文明の基礎が崩れれば金はただの紙切れや金属の塊、最近でなら数字の集まりに成り下がる――っと、ごめんよ。また話が逸れちゃったね」

「いえいえ、お気になさらず。中々に面白い話が聞けましたし、我々としては満足ですよ。なぁ、青色?」

「全くですわ。学生の社会科見学ではまずお目に掛かれないお話を聞けるなんて、私達は幸せ者です」

「ありがとう。――んで、何の話だったか――あぁ、そうだそうだ。うちの金についてだったね。

さっきも話したとおり、うちの会社は一方的に金を使って客を助ける。だがそのままじゃ、会社の金も何時かは底を尽く。これはごく一般的な、そして至極簡単な加減法の話だ。解決するには何らかの資金源が必要だが、慈善事業を騙る以上助けるべき相手から金をむしり取るなんて真似は当然出来ない。それじゃ普通の会社と同じだからね」

「では、何か別の資金源が存在するという事ですか?」

「ご名答。うちの会社には、もう一つの顔―っていうか、外部である施設を運営しててね」

「施設?」

「そう。その施設っていうのが、要するに会社にとっての資金源であり、今回の君らの仕事場なわけだ。

まぁ、そういう訳で――」


 宏一は鍵を手に取って立ち上がり、二人に言う。


「今からそこへ案内しようと思う。道順が複雑だからはぐれないように気を付けてね。何せ表沙汰には出来ないような施設だからさ」


 かくして二人は宏一に案内され、衛宮救済の資金源たる場所へと向かった。


―数分後・三咲町の外れにある雑居ビルの前―


「着いたよ、ここだ」

「ここって……見るからに寂れたビルにしか見えないんですけど」

「地図で見ても空白になってんなコレ……一体どういう事なんです?」


 疑問符を浮かべる二人に、宏一は淡々と答える。


「そりゃあ空白にもなるよ。何せここ、法的に認可されてない賭場だからさ」

「え!?」

「は!?」

「そんなに驚く事無いじゃない。違法行為なら君らだって慣れっこでしょ?」

「いや、確かに私らは慣れてますけど……」

「我々と違って社長は曲がりなりにも公人の端くれでしょう?」

「いやぁ、ポクナシリと関係持ってる時点で犯罪者みたいなもんだし、これが一番効率的に儲かるからねぇ。金銭感覚の狂った金持ちから効率的に搾り取ろうと思うと、こういう手段が一番かと思ってね」

「はぁ……しかし、賭場ってそんな儲かるもんなんですか?時たまごっそり持っていかれそうなんですが」

 賭博に興味のない二人としては、その辺りが今一不可解でもあった。

「その辺は大丈夫。勝ち負けとかは幾らでも操作出来るし、何かあったら取り敢えずイカサマ扱いしておけばそれなりに搾り取れる。本格的なイカサマなら魔術なんか無力化しちゃえばどうって事はないからね」

「「……」」


 救済と名乗っていながら、資金調達については容赦のない宏一であった。

次回、遂に仕事スタート!?

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