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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
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第百四十七話 作者の更新頻度もこの程度です

エレベーターで上った先

―前回より・プレアデスタワー23階―


「お待ちしておりました。ツジラ・バグテイル様、青色薬剤師様」

 エレベーターを抜けた二人を、黒スーツに身を包んだ猿系霊長種の男が出迎えた。その態度は極めて紳士的かつ温厚であり、ごく僅かな動作にさえも魅了されてしまいそうになる。

「お初にお目に掛かります。私はこの階層に居を構える『小杉救済(こすぎきゅうさい)』の社員が一人、沙流ヶ屋(さるがや)と申します」

「此方こそ初めまして、沙流ヶ屋殿。本日は『キンムカムイ様の遣い』なる方からお誘いを受けて急遽参ったのですが、貴方がその『遣い』の方ですか?」

「いえ。貴方様の仰る『遣い』というのは、我が社の社長の事で御座います」

「社長さん、ですか?」

「はい。詳しい話は社長室にて」

 深々と会釈した沙流ヶ屋はその場から三歩下がると、回れ右をしながら言った。

「平社員の私が言うのも何ですが、我が社は大変迷いやすくなっております。

私に着いてきて下さい。くれぐれも、はぐれて迷ったりせぬようお気を付けて」


 二人は沙流ヶ屋に案内されるがままに、迷路のように入り組んだ通路を進んでいった。


―社長室前―


「社長、件のお二人をお連れしました」

「おう、お疲れさん。適当に休憩したら持ち場戻っちゃって」


 ドアの向こう側から返ってきたのは、軽妙で気さくな印象を与える若い男の声だった。若いと言っても恐らく30代であろうが、平均的な30代とは何かが格段に違う。


「失礼致しました。では、私はこれで」


 そそくさと立ち去る沙流ヶ屋を見送った二人は、中の「社長」に促されるまま部屋へと入っていった。


―社長室―


 社長室に入った二人はその内装に驚かされた。そこは極めて庶民的な内装で雑然としており、『社長室らしさ』というものがまるで感じられない普通のオフィスそのものだったからである。


「いやー、すみませんねぇ散らかってて。まぁ、立ち話も何ですからそこのソファにでも座って下さい」


 奥の席に腰掛けていたラフな服装の羽毛種(暖色系の羽毛を持ち腕が翼のように発達しているが細かい種類は不明)の男は、立ち上がりつつ言う。その声は確かに先程ドアの向こう側から響いたものであり、若々しく軽妙ながらも独特の渋さがある声をしていた。


 二人がソファに腰掛けると、羽毛種の男―基、小杉救済の社長も茶と茶菓子を差し出しながら向かい側に腰掛ける。


「それで、あんた等が例の生放送番組の……確か……」

「ツジラジ、ですね」

「そう、それそれ。そのツジラジって番組の司会やってる人達で、合ってるんだよね?」

「はい。司会兼プランニング担当のツジラ・バグテイルと申します」

「副司会兼広報担当の青色薬剤師です。以後お見知りおきを」

「ご丁寧にどうも。俺はこの『小杉救済』って会社で社長をやってる小杉宏一(こすぎこういち)ってモンだ。キンムカムイには昔世話になってね、今じゃこの会社で慈善事業をしながら、奴の手下としても活動してるって訳」

「そういう事でしたか。して早速ですが、キンムカムイ様は我々に何をせよと?」

「あぁ、その件ね。ちょっと待って、今持ってくるから」

「持ってくる……?」

「そ。あの熊オヤジが今回アンタ等に押しつけた仕事で必要になるもんだよ。管理が厳重だから、取り出すの面倒でさぁ。ちょっと時間かかるかもしんないけど、適当に時間潰しててくんない?」


 そう言うと、宏一は瞬時に姿を消した。


「……とりあえず、待つか」

「そうだね」


 静まり返った部屋の中で、二人は冷め切った緑茶を口に含み、羊羹の包みを剥き始めた。


―ある夜・万宮地下―


「おぞましい……実におぞましく不気味で、また汚らわしく下卑た存在だ……」


 真家と結託関係にある政府の男・樋野ダリアが見下ろすのは、アクリル水槽にも似た特殊な地下牢の中で蠢く、質量の大きな黒い何かだった。

 不定型な黒い何かは訳の判らない金切り声を挙げながら地下牢内を暴れ回り、その姿を次々と変えてはどうにか脱出を試みる。しかし何をどうやっても、黒い何かが地下牢を破る事は出来なかった。内面に特殊な魔術が施され、あらゆるエネルギーを反射してしまうのである。


「ほんとうに、おそろしいいきものですね。いったいこれは、なんなのでしょうか?」

「何であっても構わんさ。重要なのはこれが"何なのか"ではない。"使えるのかどうか"という事だ。

この際生きているかどうかさえどうでもいい。尤も、"動き回ってヒトを食らう"という点から察すれば生物の端くれであるとは考えられるがね」


 蛙の着ぐるみを着た地下牢管理者の問いかけに、ダリアは淡々と答える。


「やはり、ほんきなのですか? これをしょけいたいかいにだすというのは」

「本気に決まっているだろう? 私はこういう時、嘘や冗談なんて決して言ったりしない。

予定通り、このヘドロのようなゴミのようなものは処刑大会の執行者として会場に放つ事とする。これは揺るぎない決定事項だ」

「さように、ございますか。しかしほんとうに、このものはなんなのでしょうね。

たいおんもなく、ちもでない。しかし、うごきまわりひとをくらう。いったいなんだというのでしょう」

「さて、なんなのだろうな……恐ろしげな怪物だという事は確かだが、もしかすればこの『カタル・ティゾル』とは起源を異にする存在なのかもしれん」

「うちゅうからやってきたとでもいうのですか?」

「安直な発想だが、確証が無いのであればそれも否定は出来まい。この惑星の外なる宇宙か、或いは別の惑星か、はたまた異界か異次元か、平行世界なんてのもあるようだが……」

「よしてくださいませんか、だりあさま。それではまんがやあにめのせかいです」

「それもそうだな……では一つ、それなりに現実味のある事を言おう」

「それなりの、げんじつみ?」

「そうだ。起源はカタル・ティゾルという事になるが、或いは――」


 ダリアは少し間を置いてから、静かに口を開いた。


「――『成れの果て』かもしれんな」

「『なれのはて』とは?」

「即ち、嘗てはごく一般的かつ普遍的な存在だったものが、何らかの要因によって斯様な存在へと『成り果てた』という事だ」

「なるほど。たしかにそれならば、まだげんじつみがありますね。

しかし、『なんらかのよういん』とは一体、なんなのでしょう」

「それが解ればここまで悩みはせんよ。まぁ良い、ともあれ次の処刑大会での執行者はこいつに決まりだ」


 そう言言い残して立ち去りながら、ダリアは呟く。


「出し物はよりハードに、エンターテインメントは過激でなければならない……。

さもなくば苛立った観客はクレームだけを残して立ち去り、劇場はその日限りで潰れるだろう……」


次回、物語に更なる進展はあるのか!?

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