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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン5-ヤムタ編-
144/450

第百四十四話 デーツ1/3以下




新人使用人デーツ・イスハクル。その衝撃的な正体とは!?

―前回より―


「ふぅ……やっぱりまだ長時間維持するのは辛いわねぇ……」


 自宅(・・)に戻ってきたデーツは早歩きで備え付けのバスルームに駆け込み、シャワーのホースを手に取ると同時に力一杯蛇口を捻り水を出す。

 暖められていない激しい冷水が彼女の小さな身体に降り注ぎ、身体に吸収されていく。


―こぼれ話―

 流体種という種族が如何に奇妙な生物であるかは既にシーズン2で解説したが、おさらい程度にもう一度解説しておくとしよう。

 流体種はその名の通り九割が水である半個体状の肉体を持つ種族であり、一説に寄ればその起源はある種の刺胞動物であるとも言われている。

 生活形態は多種多様であり、海水で生活する者、淡水で生活する者の他、温泉内や極地の他、果ては乾燥地に暮らす者などその住処は以外にも多い。種族全体の共通点としては、体組織が極めて柔軟であるという事や、全身至る所からエネルギーを吸収できる事などが挙げられる。

 更に多くの固体は乾燥を防ぐ為に薄くも柔軟かつ強靭な外皮を持ち、体内には神経系及び軟骨からなる細密な繊維が通っている。この為大がかりな変形は不可能だが、それでも他の多くの種族には不可能な変形をこなし、更に治癒・再生力も強いため、小細工なしの素手や刃物などによる攻撃はほぼ無に等しいと考えるべきである。

 全身を支えるのは細い軟骨だが、その中枢部には硬骨からなる小さな球状の頭蓋骨があり、脳などはこの中に納められている。しかしだからといって知能が低いわけではなく、寧ろ平均的な知力は高い傾向にある程だという。

――


 開始から約二分半が経過して尚、デーツは水浴びを続ける。すると、それまではただ潤っているだけだった彼女の身体の一部分が不自然に膨張し始めた。普通の流体種ならば、限界を超える量の水など吸い込まずただただ流れ落ちるだけなのだが、デーツの身体は体積を超える量の水をもどんどん吸収していく。

 膨張を続ける部位はある程度の大きさまで膨らむと元通りになり、その度に彼女の体格は急激な成長(・・)を成し遂げていく。手足や背丈が伸び、頭髪や胴体のボリュームが増していく。それはまるで儚げな幼い少女が艶やかな成人女性へと成長を遂げるが如し光景であり、並大抵の流体種では先ず有り得ない事だった(魔術などの例外は少なからずあるが、此方は態々水浴びなどしなくても一瞬で体格どころか姿さえも変わる)。


 そうして水浴びを開始してから六分後、美麗で艶やかなモデル体型の美女へと姿を変えた流体種デーツ・イスハクルは体表面に残った水滴をも吸収すると、脱衣所にて洒落た浴衣に着替えてバスルームを出てリビングへと向かった。


「あぁ、マスター。戻ってたんスね、只今戻りました」


 デーツがリビングに入ると、学ランのような服装をした竜属種の男が彼女を出迎えた。

 男は両手から買い物袋を提げており、どうやら買い出しに行っていたらしかった。


「お帰りデッド。貴方こそ、随分と遅くに戻ったのね」

「いやぁ、すんません。マスターの好きな豆が中々見付からなくて。やっぱこの国、装いがアレなもんでどの店探しても粉末ココアだの紅茶だのしか無ぇもんですから、ちょいと遠出する羽目になっちゃいましてね」

「遠出って、何処まで行ったの?」

「何処って、蛇道(シュアル)ッスけど」

「しゅ、蛇道(シュアル)!? 蛇道まで行ったの!?」


 蛇道(シュアル)とは真宝(ゼンバオ)の南西にある中堅国家であり、近頃貴族政治からの脱却に成功した事で知られている。その名の通り元々は蛇系有鱗種の先住民族が暮らしていた地域であり、文化や産業等に於いて蛇と密接な関わりを持つ。近代化に伴い種族の多様化が進んだ今も国民の過半数が蛇系有鱗種で構成されている国だった。

 因みに真宝との距離はかなり離れているため、電車等の交通機関を利用すると(真宝が極端な貴族至上主義及び女尊男卑の思想に染まっていることもあり)洒落にならない額の交通費がかかってしまう。


「はい、蛇道まで飛びました。翼で」

「翼で!?」


 確かにこのデッドという竜属種の背中には、飛行に差し支えないだけの翼がある。

 しかしそれでも、真宝から蛇道まで飛んでいくとなるとかなりの距離である。


「だって、真宝・蛇道(ゼンバオ・シュアル)間の電車賃て馬鹿高いじゃないッスか。マスターのおっぱいのサイズと良い勝負ッスよ。1ミリ0.01円と換算すればほぼ同じくらいじゃないッスか」

「いやいやいやいや幾ら私でもそんな爆乳じゃないわー。っていうかもうそれは爆乳っていうか超乳のレベルだわー」

「あー……じゃあやめときますわ。超乳とか好きじゃねえんで。やっぱおっぱいは80~90、デカくて100が妥当ってモンですわ。79以下はふつっぱい、ちっぱいの次元なんで度外視しますが、兎に角デカけりゃいいってもんじゃねえ」

「デッド、貴方が見境のない無節操な男じゃなくて良かったってつくづく思うわ」

「当たり前ッスよ。俺ァどうしようもねぇドスケベの変態野郎ですがね、一応ドスケベなりの哲学だの矜持だのを以て動いてるんです。言うなれば性衝動哲学(リビドー・フィロソフィー)って奴ですよ」

「り、リビドー・フィロソフィー?」

「そもそも顔が整っててモデル体型でおっぱいデカけりゃ取り敢えずいい女か、っつうとコレも違う。かと言って今の真宝が無理矢理推し進めてる幼児体型至上主義ってのも正直つまんねぇ。そもそも乳に貴賤なんぞあるかっつう話でして、その点踏まえるとどうも超乳ってのはおっぱいに対する敬意とかが見えて来ねぇんです。あくまで俺個人での見解ッスけど」

「そ、そうなの?」

「そうなんッス。あとレイプとか調教とか拷問なんかは論外ですかね。あれらァそもそも俺の性衝動哲学(リビドー・フィロソフィー)的な意味での愛とか敬意とかが足りてねーんですよきっと」

「え、でも貴方確かそういうゲーム前にやってなか――「マスター! 誤解しないで下せぇ!」――え?」

「ありゃ話の一環として流してるだけであって、そもそも俺ってば強姦とか調教とかじゃ何故か勃たねーんスよ。マスターでなら強姦・調教・拷問系は俺総受け限定にすりゃ、シチュ問わず妄想だけで瞬時にイけるんスけど」

「あらぁ、そうなの――ってえぇ!? そうなの!?」

「そりゃそうッスよ。だって俺、あん時マスターに一生捧げるって誓っちゃいましたし、勿論他でも勃ちゃあしますがどうもグっとコないんス。やっぱあん時運命覚っちまっただきゃあるんでしょうかねー」


 等と軽く笑い飛ばすデッドだったが、対するデーツはそんな彼に始終圧倒されっぱなしであった。

 しかしだからと言って彼女はそれをマイナスに捉えはしない。寧ろそういったデッドの様子を見ていると、可愛い弟の成長を見ているようで楽しい気分になって来さえするのである。

次回、繁達がキンムカムイから受けた仕事とは!?

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