第百四十三話 超絶昆虫ボッケー・モス-傍観編-
舞台は変わってポクナシリへ……
―前回より・ポクナシリ本部―
「何だと? じゃあこの『オッシャー5』とかいうのが、残りのお前らの仲間だってのか?」
「えぇ。『オッシャー5』とか『サードフリーク』とかは十中八九完全に悪ふざけでつけた出鱈目に間違い有りませんが、少なくともあのヌスッターとかいう奴らがこれから散々な目に遭うのは確定的な気がします」
「ってェと、どうなるんだ?」
「あのかっこわるいマシンは修理余地が無いレベルまで破壊されるでしょうし、中に乗っているであろうヌスッター一味も重傷……っていうか、六割ぐらいの確立で死にますね」
「六割だと? その数字はどっから出た?」
「{元ネタ故の皆無+作者故の十割×(元ネタリスペクト故の五割/本能故の三割)}×√その他諸々の補正値という計算式から弾き出された数値を先月の総合ユニークアクセス数で割って適当な所で丸めたら0.6と出ましたので」
「その他諸々の補正値って何だよ」
「○木涼○が可愛いかったりエロかったりする場合上昇する作者のテンションを十進数に換算したものです」
「何でそんなもん敵の死亡率割り出す数式に使うんだ」
「それはこの『超絶昆虫ボッケー・モス』という話そのものがネタだからですよ」
「何時もはネタじゃねえのかよ」
「一応ギリギリでネタとは定義出来ない位置にありますね、私なりの勘ですけど」
「勘なのかよ」
「何を仰有いますかキンムカムイ様。青色の勘という奴は筋金入りの鋭さでしてね、ほぼ未来予知のように機能するんですよ」
「それもう勘じゃねえだろ未来予知だろ。未来予知って事にしとけよめんどくせぇ」
「いやいや、そこで敢えて勘としておく事で素朴な渋さが出るんじゃありませんか」
「お前みてぇな若造が渋さとか出すな。そういうのは三十路過ぎで良いんだよ」
等と三人が他愛もないやりとりを繰り返している間にデーレー・モスはオッシャー5の面々によって完膚無きまでに破壊され、生存率四割の所を奇跡的に生き残ったヌスッター一味はギャグマンガのような軌道を描いて何処かへ吹き飛ばされていった。
―同時刻・真宝の首都万宮某所―
「おにいちゃんおにいちゃん、おやつのじかんだよっ。いっしょにたべよー?」
辺り一面をアニメのポスターやフィギュアの棚などで埋め尽くされながらも清潔感の溢れる部屋の奥へ、尖耳種の幼い少女が呼びかける。その出で立ちは全裸に薄手の白いエプロン一枚のみという、無防備かつ変態的この上ないものだった。
「あぁ、もうそんな時間ですか。待っていて下さい、用が済んだら直ぐ行きますからね」
等と言いつつ部屋の奥から出てきたのは、細身ながらも筋肉質な体格の良い、霊長種の若い男だった。美しいショートカットのブロンドや温厚で紳士的な雰囲気や整った顔立ちも相俟って、男の風格は差詰め気品溢れる貴族や名家の御曹司とも言い表せるだろう。しかし少女を見送る男の顔は怪しげな笑みに歪んでおり、その内面には実におぞましくいかがわしいものを内包しているかのようだった。そももそも部屋の内装や少女の服装、口調などからして既に常軌を逸している為、その中で平然と動き回っているこの男が風貌に反して怪しくまたろくでもない者である事は確実なのであるが。
ひとまず男は自らを兄と呼ぶ使用人の少女達との茶会を楽しむ為、通路を進んでいく。
―暫くして―
「ん……? あれは……」
通路を歩いていた男は、ふと見慣れない少女の姿を目にする。薄手の白いエプロン一枚という出で立ちや幼げな体格から、男の管轄下にある使用人なのは間違いない。しかし何にせよ、見覚えがないのである。
「(おかしいな……流体種なんて居ただろうか……)」
せっせと通路の床を掃除する少女は、全身が美しい深紅の流体種であった。その体組織は不透明であり内部構造は窺い知れないが、長く伸びた頭髪(原則として流体種に体毛は無いが、便宜上ここでは頭髪と呼称する)や整った顔立ちは、深紅の身体も相俟って何処かミステリアスでもあった。
「(まぁ、真面目に掃除をしてくれているのなら良いんだが……色々聞いておくか)」
男は念のためにと、床掃除をしている流体種の少女に歩み寄って語りかける。
「はい……な、なにか……ごよう、ですか?」
ミステリアスな外見にそぐわず弱々しい喋りの少女は、恐る恐る聞き返してきた。
「(内気で挙動不審……か。この分だと内気で恥ずかしがり屋であるとも考えて間違いないな……)
えぇ、はい。失礼ながらお名前と何時こちらへ来られたのかを教えて頂けませんか? 近頃は少々忙しく、ついうっかり名簿をチェックするのを忘れてしまいましてね」
「あ……はい。おとといやってきました、りゅうたいしゅのでーつ・いすはくるです……」
「デーツさん、ですか。良いお名前ですね」
「あっ、ありがとう、ございます……。
きたばかりのしんいりですが、よろしくおねがいします……」
「はい。此方こそ」
「で、では…わたしは、これで……」
そう言うと、流体種の少女デーツ・イスハクルは逃げるように立ち去っていった。
「……フム、ああいう娘なのか……良いな、実にイイ……!」
その場に一人残された男はそう呟くきながら静かに歩き出した。
次回、新参者の使用人デーツ・イスハクルの衝撃的な正体が明らかに!?