第百三十九話 テイクミーインフォメイション
今回、遂に黒幕が登場する!?
―前回より―
「あの女の見張り役になった新人の刑務官、死んだそうね?」
「はい。いじょうをかくにんしようとろうのなかにはいりこんだところ、うんわるくくいころされたようです」
部屋中を『萌え』の一色に染め上げたかのような部屋の中で、霊長種の少女が猫の着ぐるみを着た使用人と話していた。
少女の身なりというのは、所謂俗に言う『魔法少女』に似たものであり、フリルだらけで露出度の高いワンピースかドレスを着込んでいる。
「全く……運のない奴よねぇ。どうせあの女にいやらしい事でもして怒らせたんでしょ。これだから巨乳は嫌なのよ。あんなのモトを正せば所詮脂肪の塊じゃない、汚らわしい。最早腫瘍と同じようなものと言ったって過言じゃないわ」
「どういいたします、りぇんしゅあんさま」
「ありがとうね、爪。何時も私達真一族の味方で居てくれて」
「なんというありがたきおことば。こうえいでございます、りぇんしゅあんさま。しかし、おれいなどいりませぬ。われらしようにんのそんざいいぎとは、あなたがたいちぞくにおつかえすることだけでありますゆえ」
「そう、あなた達って一途なのね。この真恋双、あなたを一介の使用人だと見くびっていたみたい」
「よいのですよ、りぇんしゅあんさま。それでよいのです。それがしようにんの、しゅくめいですから」
「そう」
「はい。では、わたしはこれで」
「えぇ。これからもよろしくね」
使用人・爪が部屋を後にした所で、ふと恋双の携帯電話に着信があった。
「もしもし」
『私です』
電話口から返ってきたのは、恋双を初めとする真家の面々と協力関係にある男の声であった。
「あら、ダリアじゃない。どうしたの?」
『はい、実は先日私の部下が面白いモノを発見しましてね。粗末で汚らしい代物ですが、中々どうして使いようは十二分にあるようでして』
「使いよう?」
『はい。見て呉れこそ目も当てられませんが、しぶとく素早くその上強い。選りすぐりの精鋭部隊を派遣しましたが生け捕りにかなりの時間を要しました。しかしながらこの生命力とパワーがあれば、恐らくあれの代理としては十分昨日するものかと』
「そうなの? それは楽しみね」
『お任せ下さい。私樋野ダリア……己の持てる総てを只、真宝に、万宮に、真家に、そして何より貴女様に全力で捧げると、ここに固く誓います』
「ふふっ……期待してるわよ、ダリア……」
―『ポクナシリ』総本山―
「(こいつは凄ぇ…‥地下街だけでも驚いたっつうのに……)」
「(……これなら世界に誇る情報機関と呼ばれたって可笑しくない……)」
二人が案内されて辿り着いた先に広がっていたのは、ドーム型の壁一面を埋め尽くすモニターの数々だった。それらには細かく番号が割り振られ、ヤムタ各地の様々な場所をあらゆる角度・視点から的確に映し出している。
「よう、レプンカムイ。どうやら俺に客みてぇだな?」
「そうだ。お二人共、紹介致しましょう。この男こそ我らが頂点に君臨する『ポクナシリ』の総帥、キンムカムイです」
中央の回転椅子に座っていたのは、丁度アクサノで出会った供米神官より少し大柄な羆系禽獣種の男であった。外見や声から察するに、年齢は霊長種換算で40代と言った所だろうか。
「お初にお目に掛かります、キンムカムイ総帥。ツジラ・バグテイルと申します」
「相方の青色薬剤師です」
「ほうほう……誰かと思やぁあのド派手なラジオやってる奴らか」
「はい。本日は私ども二人だけですが、本来は八人程度で番組を作っておりまして」
「そうか。で、用件は何だ? ここを頼ってくるって事ぁ何かの情報が目当てなんだろうが……」
「単刀直入に申し上げます。真宝の、それも政府及び貴族全般に関する情報を頂きたい」
「真宝政府だと?」
「はい。次の放送で我々はあの国に攻め入る予定でしてね。差し当たって下調べをしようと思い立った折十日町家のご令嬢から、貴男様がこの国で最も優れた情報機関を率いているとのお話を耳にしまして……」
「ほう、そうか。そいつは大したもんだ。真宝か。そうかそうか。あそは昔から脳味噌ん中で年中宇宙戦争やってるクソみてぇなバカ貴族共が治めてる国だが……そうだなぁ、確かにお前らみてぇな連中にとっちゃ、格好のマトだろうなぁ」
「はい、仰有るとおりで御座います。なぁ、青色?」
「えぇ、本当に。私達はみんな、何かしらの形で貴族や王族に対して怨みや敵意を抱いていますから」
「怨み、敵意ねぇ……そうか。成る程な……」
キンムカムイは熟考の末、二人に言った。
「いいだろう。あの国には下手に人員を割けねぇから確定的なネタは得がたいんだが、それなりの情報なら譲ってやんねぇ事もねぇ」
「本当ですか?」
「俺ぁ客相手に嘘は言わねぇよ」
「おぉ、有り難う御座います。それでは――
「但し」
繁の発言を遮るように、キンムカムイは付け足した。
「情報をお前らに譲ってやるのは構わねぇが、それには幾つか条件って奴がある」
「条件……?」
「何、そう難しい事じゃあねぇ。情報料代わりに少々仕事をこなして貰いてぇのさ」
「仕事、ですか」
「そうだ。まぁ、そんな大それた事は要求しねぇ。そこそこ簡単な――
「総帥ッ! "西のへ"から緊急連絡です」
組織の機関員と思しき男がキンムカムイに対して異変を伝える。"西のへ"とは、大陸中に設置された無数の監視カメラに振られた番号の一つであり、その番号に分類される監視カメラ数千台が見張っている場所は他でもない、ここ三咲町なのである。
「何ぃ? どうしたってんだ?」
「はっ。また例の奴ら――『ヌスッター一味』が現れたんですが……」
「なんでぇ、ヌスッター如きの何処が緊急事態だってんだ?」
「それが、何やら妙な五人組が現れて何か変な芝居を始めたかと思うと、二分と経たずに乱闘騒ぎに発展しまして、奴ら町中だってのに変なロボを繰り出して来やがったんです!」
「何だとっ!? まぁいい、その映像こっちに回せ!」
「はっ!」
「クソ……なんてこった……」
若干慌てた様子のキンムカムイは、頭を抱え込んだ。
「どうしたんです? 何か問題でも?」
「おう、悪ぃな。いや何、この近辺にゃ『ヌスッター一味』ってな詐欺商法で食い扶持稼いでるどうしようもねぇ三下のクズトリオが居るんだが」
「あぁ、はい。そいつ等の事なら以前ネットで見掛けましたが」
「そうかい、なら話は早ぇ。つうかさっき話したとおりだ。町中で変な五人組と、ヌスッターが作ったセンスゼロのダッセェロボがドンパチおっ始めやがったのよ」
「あらぁ……それは危ないですねぇ……」
「しかもどういう訳か、ロボ繰り出したそいつ等の前じゃ美咲署のポリ公共は手も足も出なくてよ。かと言って防衛隊が駆り出される程の事態でもねぇし。実言うと、お前らに頼みたかった仕事の一つってのがこいつらを適当に袋叩きにして組織をぶっ潰すって奴だったんだが……予定が狂った――
「総帥、"西のへ"二一六番の映像そっちに回りました!」
機関員の言葉を受けたキンムカムイは、素早くチャンネルを操作し回されてきた映像をモニターに映し出す。モニターには、街道で奇妙なロボットと謎の五人組、更に三咲町の住民達までもが入り乱れての大乱闘が映し出されている――が、次の瞬間。
「いや全く、こいつぁ酷――あ?」
「本当、早く止めないと――え?」
二人は思わず絶句した。
それもその筈であろう、モニターの映像に映し出されていた乱闘騒ぎの主犯格と思しき者達――ポクナシリ機関員曰く『謎の五人組』とはつまるところ
晶の意向により留守番を命じられた面々だったのである。
次回、三咲町で一体何が起こったのか!?