第百三十八話 デッドマンズ★アンダーグラウンド
晶に連れられ地下に潜った二人が目にしたものとは!?
―前々回より―
「まさか三咲町の地下にこんなスペースがあったなんて……」
「しかも内装の一つ一つから何とも言えない高級感が漂って来やがる……一体幾ら掛かったんだ?」
晶の案内で情報機関の本部に続く地下街を歩く二人は、その光景に驚かされていた。全体が地球で言う"和"の風味で彩られた豪華絢爛な地下街は、差詰め京都の歓楽街・祇園を思わせる。街道に立ち並ぶのは飲食店・雑貨屋等の他、賭場や風俗店らしき建物など多岐に渡る。
街道を歩く人々の種族や年齢、服装等から推測される出身地も様々で、組織のクライアントであろう裏社会の住民達や、店の客引きであろう者達の姿も散見される。
「驚きましたか? ここが情報機関『ポクナシリ』の管轄下にある地下街『アフンルパル』です」
「『ポクナシリ』の『アフンルパル』ですか……」
「独特な響きの名前ですねぇ」
「はい。北方の先住民族に伝わる神話に関する単語ですよ。『ポクナシリ』はその神話に於ける冥界―つまり死後の世界であり、『アフンルパル』とはその入り口を意味しています」
「情報機関が冥界を名乗るんですか?」
「えぇ。創設者である『キムンカムイ』氏は嘗てさる大国の国家機関で活躍する凄腕の諜報員だったそうでしてね。何らかの理由で組織を追放され組織の追跡から逃れるため、私財を投じてこの街を造り上げたと聞いています。あくまで噂ですが」
「何らかの理由、とは?」
「何でも『機密情報を外部に売り捌いていた事を組織に知られてしまったから』だそうですが、此方も真偽の程は確かでありませんね」
「成る程」
「その経緯から氏は最早表側の社会で生きることの出来ない自らを『表社会での死者』であるとし、そこに因んで組織を『黄泉』、その管理下にある歓楽街を『黄泉の門』と名付けられたと聞いています」
「確かにそれは言い得て妙、実に的確なネーミングですね」
かくして二人はアフンルパルの奥へと進んで行った。
―地下街『アフンルパル』最奥部・情報機関『ポクナシリ』総本部―
アフンルパルの奥深くにある合金製の重厚な扉の向こうに広がっていたのは、簡素だが広大で高級感を漂わせる一室だった。薄暗い部屋の中で、恐らくはヤムタの神話・伝説に起因するものであろう絵柄の描かれたタイルの床や柱が光沢を放つ。壁面は一面が巨大なアクリル水槽となっており、岩石や流木が置かれたその中を泳ぎ回っているのは、地球のニジマスを若干鮮やかにしたような大型魚であった。
「失礼致します、キンムカムイ様。十日町に御座います」
晶の呼びかけに応じて、べたりという若干湿ったような足音を立てて部屋の中からゆっくりと姿を現した者が居た。一見縮尺された肉食恐竜のようであるそれは、喪服にも見える黒いスーツを着込んだ大柄な鯱系禽獣種の男だった。
「……これはこれは、晶お嬢様でしたか」
「あら、レプンカムイ様。お久しぶりです」
恐ろしげな外見に反して奇策で紳士的な大男は、晶と他愛もない会話を交わす。
「ご令嬢、此方の方は?」
「ポクナシリ副総帥兼アフンルパル最高管理責任者のレプンカムイ様です」
「お初にお目に掛かります、鯱系禽獣種のレプンカムイと申します」
「此方こそ、初めまして」
「宜しくお願いします、レプンカムイ様」
レプンカムイが頭を垂れると、背中から生えた縦長の背鰭が顔を覗かせた。
「レプンカムイ様、此方はツジラ・バグテイル様と青色薬剤師様になります」
「バグテイル……かの破天荒なラジオ番組の司会者様ですな?」
「我々をご存じで?」
「それはもう、斯様な活動ともなればこんな老いぼれの脳にでもしっかりと残ります故」
「光栄に御座います」
「いえいえ。さて、それはそうとして……本日は晶お嬢様のご紹介で参ったとの事ですが、もしや次の収録場所は――」
「はい、ここヤムタに御座います。というのも、此方の十日町晶様からの投書で決まったことなのですがね」
「そうでしたか。では早速、キンムカムイの元へご案内致しましょう。着いてきて下さいませ」
かくして繁と香織はとうとう、『型月が世界に誇る』とまで言われた情報機関『ポクナシリ』の中枢部へと向かう事となった。
ポクナシリ総帥・キンムカムイとは如何なる人物なのか!?
次回、萌えという名の狂気に染まる真宝を支配する貴族・真家の面々が登場!