第百三十五話 今どき、処刑で賭博って!?
ツジラジメンバー、遂にヤムタへ到着!
―前回より―
「と、言うわけで……ヤムタの中でも安全に定評のある国『型月』に来たわけだが」
繁達が現在居るのは、ヤムタ一の先進国と称される大国『型月』の国際空港である。
「色々見て回りたいかもしれんが、実はそうとも言っとれん」
「あ、急がなきゃやばいの? 今回の依頼主って多忙だったりすんの?」
「いや、別にそうでもねぇらしいんだが、何分ネットで検索かけると大御所の百科サイトに顔写真付きで載ってるような、それなりの大物だからな。念の為にもなるべく早く向かった方がいいだろう」
「急ぐのは構いませんが、何処へ向かうというんです?」
桃李の問いかけは最もで、仲間達の誰もが聞こうとしていた事だった。序でに付け加えるなら、空港からの移動手段も気になるところである。
作中では(面倒なので)描写を省いてきたが、これまでは一応正規の交通機関を用いて収録場所へ向かっていたりする。アクサノへ向かうのに用いたヘリコプターはパイロット共々地方自治体公認の正式なものであったし、ジュルノブルには電車やバスといった陸路、ラビーレマやイスキュロンには船を用いて向かっている。空港に居ることから解るように、今回は旅客空港機を使って空路でヤムタまでやって来ていた(無論、周囲の視線を警戒している繁は殆どのメンバーに素顔を隠すような変装をする事を義務づけており、彼自身も変装や偽証には徹底していたが)。
「行き先は首都奈木ノ子の中枢に位置する大都市冬木市の巨大歓楽街・三咲町だ」
繁が口にしたその名前にいち早く反応したのは、変装の為リューラの身体を巨大な黒い獣の形で覆っているバシロであった。
「冬木市の三咲町か……懐かしい響きだぜ」
「知ってんのかバシロ?」
「おうよ。俺が高校ん時にやってた『HollyCupWars-蒼刃伝説-』って番組の舞台兼ロケ地だった場所だからな」
『HollyCupWars-蒼刃伝説-』とは、嘗てカタル・ティゾル全土で放送されていたテレビドラマである。魔術が廃れ忘れ去られた未来の時代、数少ない魔術師の生き残り達がそれぞれ世界各地に伝説としてその名を知られる英傑達の魂を使い魔として召喚・使役し、手にした者の望みを叶える謎の秘宝を巡って壮絶な戦いを繰り広げるという、典型的かつシンプルなストーリーの作品であった。
「あー、蒼刃伝説か。ギリギリ世代じゃねーけどレンタルで見たことあるぜ。主人公の銅衛士郎ってのが格好良いんだよな」
「ヒロインのスパーダことアルチュールも良かったよな。しかもあれがデビュー作だって聞いた時はぶったまげたぜ」
「まぁでも名キャラクターって言ったらサブで一番はギルギ・アメイウスでしょ。性格悪いしバカだしで最初はあんなに嫌な奴だったのが、終盤ではもうボロボロ泣いたもの。もう泣かされっぱなしよ」
「インパクトという意味でならフルCGのベルセルクも負けてませんよ。今見ても迫力満点ですし」
『迫力でしたらベルセルクには劣りますが、ランチェの槍術やマジーアの奇想天外な必殺技も中々でしょう。特にマジーアの放つ魔術は基礎魔術理論の範疇を超えた描写から魔術・学術での演出が不可能とされ、それ故にわざわざCGでの演出が決定した程ですし』
「眠らざる巨大歓楽街三崎町で繰り広げられる壮絶なバトル……いやぁ、色々燃え滾るのだ」
テレビドラマの話に花を咲かせる仲間達を見ながら、繁と香織は思う。
「(何つうか……アレだな……)」
「(こんなの思い浮かべて良いのかどうかわかんないけど……)」
「「((それって『F○te』 だろ…)じゃん…)」
かくして一行は、予め晶が用意していた護送車によって三崎町へと向かった。
―同時刻・真宝の首都万宮―
「おゆるしください、おゆるしくださいぃぃっ! どうか、いのちだけは、ごかんべんをっ!」
「だまれ! じごくさえなまぬるいつみびとめ! おまえにはしゃべるけんりさえない!」
犬の着ぐるみを着た刑務官に引っ張られて狭く薄暗い通路を進むのは、白い囚人服を着せられた尖耳種の若い女であった。その身体には痛々しい青アザが見受けられ、何らかの罪を犯し逮捕された挙げ句取り調やか拷問で暴行を受けた事が見て取れる。
「さぁついたぞ。そら、さっさといけ」
暫く歩き続けた後、刑務官は鋼鉄製の扉から女を放り出した。
「うぁっ」
「そそうのないように、せいぜいおきゃくさまがたをたのしませるがいい」
―扉の向こう側―
「(ここは……どこなの?)」
女が放り出されたのは、日光の照り付ける渇いた土の上だった。その粒子は細かく、少し動いただけでも土煙が舞い上がりそうである。更に言えばその周囲は擂り鉢状の観客席によって円形状に囲まれており、差詰めローマの円形闘技場が如し内装と言えた。
「(一体どうなっているの? そもそも、こんな建物あったっけ?)」
女が辺りを見回すと、どうやら自分以外の囚人もこの奇妙な場所に送り込まれているようであった。しかもその数は一人や二人などというものではなく、軽く見積もっただけでも40人は居る。
「(そもそも私、何で逮捕されたんだっけ……)」
女が自らの記憶へと冷静に探りを入れようとした、その時。
「おっはろ~☆ みんなぁ~、げんき~!?」
『げーんきだよーん!』
上空に現れた幼女の立体映像が如何にも知恵の足りていないような声と喋りで呼びかけると、それに応えるかのように観客席に座っていた者達―大陸内外の各地域から集まってきた、王侯貴族等の老若男女様々な種族で構成される富裕層達―が一斉に大声で叫ぶ。
女が何事かと思い耳を傾けていると、何処からか幼女が歌うポップなメロディのアニメソングらしき曲が流れ出す。
「きょうはつきにいちどのこうかいしょけいたいかいにあつまってくれてありがとー! こんげつもみんなをたいくつさせないように、とってもすてきなひとときをぷれぜんとしちゃうよっ☆」
『いえぇぇぇぇぇぇっ!』
その言葉を聞いた女は、絶句した。
「(……公開処刑? そんな……何で私が……上の言うことにはちゃんと従ってきた筈の、私が……こんな目に……)」
炎天下で落胆する女を尻目に、会員制の円形闘技場で月に一度繰り広げられる『公開処刑大会』は進行していく。観客は専用の円形闘技場に丸腰の罪人数十名と処刑執行者(猛獣など)による一方的な殺戮を見世物として楽しむだけでなく、それらの行く末を賭博としても楽しむのである(これが『大会』と呼ばれる所以である)。
この賭博はその殆どが純然たる貴族で構成される真宝政府にとって大きな資金源となっており、関連商品などの売り上げも合わせればそこから得られる収益は計り知れない。
「それじゃあ、こんかいのしょけいをたんとうするすてきなしっこうやくをよんでみよう! じごくのそこからよみがえったごくあくひどうなあくまのけしん『どらきゅらごん』! みんな、はくしゅでむかえてねっ☆」
幼女が呼びかけると、闘技場の東側にあるトンネルから長方形の檻が運び出される。その中に入っているのは、全身を合金製の拘束具で縛られた挙げ句目隠しまでされた、爬虫類のようなフォルムのヒューマノイドであった。
「それじゃあみんな、せーのでいくよ?」
『うぉおおおおおおおおおおおおおお!』
「せーのっ、
『れっつ☆えくすきゅーしょん』!」
幼女と観客の叫び声を合図に、檻の中に入れられた処刑執行者の拘束具を解除する仕掛けが作動した。
狂気の公開処刑賭博、開催!