第百三十二話 とあるネットの報告会
人数が減っても賑わうチャットルームに現れたのは……
―前回より・チャットルーム―
入室者:3人
閲覧者:1人
デッドアイS[そんな事がありまして]
Vニャノダー[いやー、あの時は本気で死にかけましたよ]
義兄恋慕[それは大変でしたね……しかし、これを期に二人の絆も深まったのでは?]
デッドアイS[まぁそうですが、それにしたってあんな目には二度と逢いたくありません]
Vニャノダー[プラマイとするとマイが上回りますよあれは]
入室:ジョージ・ムロックス
入室者:4人
閲覧者:0人
義兄恋慕[今晩は]
Vニャノダー[こんですのん]
デッドアイS[ばんはー]
ジョージ・ムロックス[グッイヴニン、エヴィワーン。タイミングを逃してしまい軽く5分ほど閲覧状態でしたが、意を決して入ってみました]
デッドアイS[5分て]
Vニャノダー[長いwwwww]
義兄恋慕[相変わらずの忍耐力ですね]
ジョーシ・ムロックス[それ程でもありませんよ。我々の界隈ではこの程度当たり前です。特に私のような現場の者は、根気と忍耐力がなければどうにもなりませんから]
デッドアイS[相変わらずかっこいいですね]
義兄恋慕[まさしく研究者の鏡、ですね]
Vニャノダー[それで、最近はどうなんです?何か凄い収穫とかありましたのん?]
ジョージ・ムロックス[おっと、そういえばそうでした。私としたことがすっかり忘れてしまっていましたよ]
ジョージ・ムロックス[言うのが遅れましたが実は私、先日よりヤムタへ遠征調査に向かっておりましてね]
義兄恋慕[ヤムタにですか?ではもしかして、何処かで私と出会っていたりするのかもしれませんね]
ジョージ・ムロックス[そうだとすれば嬉しい限りですが、残念ながらそうとはいかないでしょう]
義兄恋慕[何故でしょう?]
ジョージ・ムロックス[今回の調査先はある大国でしてね。その国というのは今時時代遅れにも王侯貴族が世襲制で政治を執り行っていましてね、私のような怪しい身なりの者は特に門前払いを喰らってしまう。なので少しばかり荒っぽい方法で潜入したのです。故に安全圏にお住まいの義兄恋慕様と出会う確率は低いでしょうね]
ジョージ・ムロックス[さて、では今回の調査対象について語らせて頂きます]
Vニャノダー[待ってました!]
ジョージ・ムロックス[今回調査に向かったのは、ヤムタ東部の某大国。そこは数ある王制国家の内でも特に独裁が酷く、魔術によって土地に縛られた国民が日々苦しみながら暮らしていました]
デッドアイS[過去形、ですか?]
ジョージ・ムロックス[はい、過去形です]
義兄恋慕[と言うことは、今現在は何か変化が?]
ジョージ・ムロックス[はい]
Vニャノダー[まさか、反乱軍が改革を!?]
ジョージ・ムロックス[成し遂げてくれれば、話題に出すまでもなかったでしょうね。しかし実際はもっと酷くなっていました]
Vニャノダー[え?]
ジョージ・ムロックス[政府は倒されておらず、かえってより悪質な存在へと姿を変えていたのです]
―中略―
ジョージ・ムロックス[更に政府には、これら悪法を押し通す為の力も存在するのです]
デッドアイS[力……ヤムタに伝わる魔術か何かですか?]
Vニャノダー[それとも、最新の学術で作ったすごいメカみたいな?]
ジョージ・ムロックス[いえ、確かにあの一族は金にものを言わせてそういったものも持っているのでしょうが……切り札は別にあるのです]
義兄恋慕[まさか……ヴァーミン?]
ジョージ・ムロックス[……確定は出来ませんが、ヴァーミンか、或いはそれに匹敵するであろう異能の持ち主であるという事は確かです]
義兄恋慕[……]
Vニャノダー[そんなの、野放しにしていいわけない……]
デッドアイS[ジョージさん、その国というのは何という名で、何処にあるんです?]
ジョージ・ムロックス[申し訳ございませんが、それは流石に曝せません。この世界はただでさえ何処から見張られているかもわからない。普通ならここまでの会話さえ不可能なんですよ]
デッドアイS[あ……そうでしたね。すみません。
それで、どうなったんです?]
ジョージ・ムロックス[下手に動けば即死と考え、遠距離からのデータ収集に専念する事にせざるをえませんでした]
ジョージ・ムロックス[事が上手く進んだお陰で早く済みましたが、もう一日でも長引いていたら確実に死んでいたでしょう]
―適度に語り合った後、チャット会は無事解散した―
―深夜・ヤムタ某所―
「……由々しき事態だわ……」
高級感溢れるマンションの一室で、義兄恋慕ことヤムタ民の狐系禽獣種・十日町晶は頭を抱えた。よもや自分の生まれ育った大地にあれ程の脅威があるなど全くの予想外だったからである。
「なんにせよ早急に手を打たなければ……奴らを野放しにすれば他の大陸にまで害が及んでしまうわ。
当然、公的機関なんてアテに出来ない。もっと速攻性と行動力のある民間組織を味方につけないと……」
晶は考え、調べた。どうせ今日は仕事も休みで暇なのだし、この事態に対抗出来る存在と早急に結託すべきだと思い立ったからである。
そして明くる午前2時まで調べた挙げ句、一つの候補に行き着いた。
「やっぱり、ここしか無いのかしら」
晶は頭を抱えたが、最早迷っている余地などありはしない。
彼女は決意を固め、組織の定めたアドレスにメールを送信した。
次回、晶がメールを送った『組織』が、何時も通りに動き出す!