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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
13/450

第十三話 王家(やつら)は主人公(おれ)を嫌ってる



通称「やつおれ」

―前回より―


『ハイ!そういう訳で今回のメイン企画行ってみましょう!』

『『ェーイ!』』

 まさか軍で上級大将が動き出している事など露知らず、繁達はラジオを続けていた。

『先程も仰有ったとおり、この番組では視聴者の皆様から寄せられたカタル・ティゾルの謎や事件に、我々が体当たりで挑んでいきます!そしてその様子を生中継で皆様にお伝えすると、そういうコンセプトな訳です!』

『成る程!』

『本来は皆様から寄せられた情報を頼りにアクションを起こしていくのですが、今回は第一回記念という事で!何と、此方でご用意した企画を生中継でお届けします!』

 ツジラこと繁のそんな豪快過ぎる一言に、六大陸全土が沸き立った。

『そして今回此方でご用意した企画とは……』

『企画とは…?』

『一体何なの?』

『その名も「第一次ノモシア内戦 ジュルノブル奇闘編!~王家(やつら)主人公(おれ)を嫌ってる~」即ち、我々対ジュルノブル城の皆様&その他の方々での全面戦争って訳です!』

 その言葉に、視聴者達は言葉を失った。

『ルールは至極簡単!我々三名と、城の内と外に控えて居られる方々とで真っ向からのガチバトル!武装・魔術等戦術に制限無しで、開始24時間以内に相手チームの2/3以上を戦闘不能とした方が勝ちとなります!尚、参加資格を持つのは現在ジュルノブル城内部に居る方と、政府命令で派遣されてきた討伐隊の皆様、更にそこに加えて、王家・軍艦傾斜一名様に限らせて頂きます!そんなわけでェ~』

『『『開け、障~壁☆』』』

三人の言葉と共に、スタジオと城の周囲を取り囲んでいた障壁が消え去った。


―門前―


「大尉!障壁が、消え失せました!」

「何ぃ?良し!全軍突撃だ!陛下達をお救いするぞ!」

 こうして、進軍が開始された。


―スタジオ内部―


「そいじゃあまぁ……」

 繁は香織とニコラに指示を下し、自らも戦闘準備につく。

「企画スタートだ!」

 繁の言葉を合図に、スタジオは機械的に展開し、どういう原理か機材も地面の下へ潜っていく。そしてその場に残されたのは、何と繁ただ一人。

 能力のままにサシガメ型のフェイスマスクを被り、作業着の上に羽織った白衣の背にはデカデカと『生命万歳』と書かれている。

「どっからでもかかって来やがれ!」

 その言葉を聞いた兵士達は、冬眠開けの雑草か蛙が如く勢いで繁に向かっていく。騎士達は槍を構えて突進し、剣士達も一斉に斬り掛かる。

 更に建物上部で様子を伺っていた魔術師達も、炎球や氷弾、電撃等、要素こそ千差万別なれど皆想いを一つに攻撃魔術を放つ。

 一部兵力は王家の護送に当たったが、どのみち侵入者を殺したいという思いに違いはない。

 しかし、次の瞬間。

「『ワカバグモの切肉網』ッ!」

 辻原は叫びに伴いその場で華麗なスピンを決めると共に、溶解液を糸状にして周囲に放つ。空中でも尚彼の意志に従う溶解液の糸達は、蜘蛛の巣型の網となり、繁の周囲へと素早く広がっていく。

 そしてそれらは、最前列で突撃する剣士達に降りかかる。結果、剣士達は断末魔さえ上げずに血肉を撒き散らし、大振りな肉片へと変わり果てた。

 その様は、まるで人間版サイコロステーキとでも言えば良いだろうか。ともあれ凄惨な光景である事に変わりはなかった。

 突如無数の剣士が鎧諸共肉片と成り果てたことに動揺した騎士と魔術師の心に、一瞬の怯みが生じる。更に飛んできた炎や氷の攻撃魔術も、繁が脚を踏み鳴らしただけで地面から伸びてきた木材のような謎の触手によって打ち消されてしまった。

 しかしそれでも尚、残った兵士や騎士は突撃し、魔術師達も各々の弾丸や波動を放つ。

 対する繁は何処からか黄色い箱形の物体を取り出し、言った。

「ニコラ!上は任せた!」

 その直後、魔術師達が待機している屋根の上が一部波打ったかと思うと、液体を突き破るようにして現れた者が居た。ニコラである。

 ニコラは早速両手の中指と人差し指を銃身に見立てて拳銃の形にし、それを水平状態で魔術師達に向ける。それを見た魔術師達はというと、

「何だ貴様……思わせぶりな登場をした癖に、まさか輪ゴムで我々に立ち向かう気か?」

「いや待てボイセイ。奴は怪しげな呪術に手を出し悪魔を孕んだと噂される国賊のニコラ・フォックスだぞ?もしかしたら指先から光線でも打つのかも知れない」

 心底馬鹿にしたような態度で、ろくに攻撃魔術も撃ってこない。完全に此方を軽視した態度に、怒ると言うより呆れを覚えたニコラは、早速指先から空気弾を数十発放ち、それら全てを魔術師達に命中させた。

 それでも空気弾そのものの威力は控えめなので、やっぱり魔術師達の態度は変わらない。しかしある魔術師がふと空気弾の当たった自分の左脚を見た時、その空気は一変する。

 その魔術師は自らの左脚を見て、驚愕と恐怖の余り取り乱した。

「おい、どうしたんだ?」

「かっ、かかっ、かかかかかかっ……身体……からだがぁ!」

「身体……――ッ!?」

 取り乱す魔術師の言葉を頼りに、改めて自らの身体に目を遣った魔術師達は一斉に凍り付いた。

「これはまさか……『毒蛾の刻印』ッ!?」

「ご名答…よく判ったね」

「何故だ……ニコラ・フォックス……何故貴様がヴァーミンの有資格者なのだ!?何故貴様のような国賊が、よりにもよってヴァーミンの有資格者などに……」

「はぁ……知らんよ。というか、その印の意味がわかったって事は……宮廷魔術師なだけはあるねぇ」

「質問に答えろ、国賊!何故お前がヴァーミンの有資格者なのだ!?どんな呪術を使った!?何処の悪魔と契約したッ!?」

 女王イルヅによって歪められた真実を聞かされて育った宮廷魔術師達は、『ニコラが禁忌の呪術により悪魔と契約し不老不死の肉体を得て、その上先代女王(即ちエスティの母)の思い人を奪おうとしていた』という話を信じ切っていた。しかしそれは全くの嘘であり、そもそもニコラは産まれてこの方悪魔というものに逢ったことが無い。

「はぁ……何処の誰に吹き込まれたかは知らないけど、近頃の宮廷魔術師はアホばっかりかい。それと、一つ訂正。私は医者よ。国賊になったつもりはないわ。患者を生かす事、それが医者の仕事。でも完璧に患者を生かす為には、殺す方法も知っておかなきゃいけない。医者は患者を生かす方法と、殺す方法を知り尽くしてこそ、初めて医者として完成するの。だからさぁ、何て言うのかな。宮廷魔術師の十人や二十人殺すぐらい、私にとっては何ともないんだよ」

 刹那、ニコラの背後で山吹色に輝く蛾のようなオーラが揺らめいた。

次回、遂に明らかになるニコラの本領!

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