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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第百二十八話 処女厨は神を騙る




さぁ、決戦だ!――と、意気込んではみたけれど!?

―前回より―


 あの後何とか戦意を取り戻した春樹は、母親としての勤め―この場合、子供を弔うと言うことを果たす為に繁達と結託。毒液や爆発物、更には孫の亡骸より発生する黒い粘液状の忠実な有機体などを詰め込んだ弾丸を射出する件のライフル(イリー作)による後方支援という形で戦線を共にすることとなった。


 かくしてシーズン4と同じように一時的にメンバーが増えることとなったツジラジだが、ラトとの戦いは彼らの想像を遙かに絶して過酷極まりないものであった。

 変幻自在に物理的法則を無視して襲い来る触手は華奢な外見に反して何れも桁外れのパワーを誇り、動作も肉眼での目視が困難な程に素早く、更にその上機関砲のように正体不明の弾丸まで飛ばしてくるとあっては、流石の繁達でも対応のしようがない。不老不死である筈のニコラでさえ気力の消耗が限界レベルに達しており、全身に力を入れることが出来ないでいた(それまでの戦いでの消耗分が突然ぶり返したという要因もあるにはあるが、それを抜きにしてもラトの戦闘能力は圧倒的だったのである)。


「あらあらどうしたの? ついさっきまではあんなに威勢が良かったのに、もう終わりなの? その様子じゃツジラジとかいうのも案外大したことないようね。どうせ今までだって、そこいらの三流小悪党を寄って集って一方的にいじめて優越感に浸っていたんでしょ?」

 繁達八人を軽々しく追い詰めたラトは、尚も余裕綽々としたマゾヒスト御用達の腹立たしいことこの上ない態度で言ってのけた。

「言い訳なんてしたって無駄よ? 聖なる儀式で生け贄から神聖な力を得た私は最早全知全能にして唯一絶対の神……この世界の有象無象全てを知り尽くした存在なの。どういうことか解る? つまり私の目の前―いいえ、この世界の何処に居たとしても、私を相手に隠し事を出来る者は居ないという意味よ。だって私は全知全能にして唯一絶対の神なんですもの。世界の全てくらい、簡単に見通せるわ」

 無論、これらの発言は自惚れから自己陶酔に陥ったラトの無意味な妄言に過ぎず、そもそも彼女が『聖なる儀式』と呼ぶ行為(即ち、処女に対する一方的な性的暴行及び殺害)に明確な実益と呼べるものは皆無であり、彼女の信じる『神聖な力』というものも、当然妄想から産まれた架空の概念でしかない。そんな事を知ってか知らずか、敗北四歩手前程度の状況にありながら尚も諦めずに軽口を叩く者が居た。我らが主人公ツジラ・バグテイルこと辻原繁である。

「そう、かよ。本当、に……何でも解るんだな?」

「えぇ。そうよ。何度も言わせないで頂戴。全知全能にして唯一絶対の神はあらゆる無駄を嫌うものなの」

「ほほぉ……そいつぁ失礼。じゃあよ、全知全能にして唯一絶対の神様よ……俺は今、右手をポケットに突っ込んで何かを取り出そうとしてる。それが何で、どう使うのか、的確に、言い当てられるよな?」

「何だ、そんな事? そんなもの決まってるじゃない。あなたが取り出そうとしているのは木の枝とコピー用紙で作った粗末な白旗。それを振って、私に全面的な降伏宣言を――

「んなわけねぇだろ、ボケがッ!」

「な、何っ!?」

 振り抜かれた繁の右手は、ポケットの中から取りだした何か素早く投げつけた。細長く透明な筒状であるそれはラトの左目に突き刺さり、何かを注入する。

「ゥッ……ァがぁっ……こ……れっ……っはあああ!」

「大したモンじゃねぇさ。NaCl水溶液……要するに単なる食塩水だ!」

「食、塩……水?」

「そうだ。テメェ等が塩分に弱いって情報は、既に掴んである。だがそれを安易に最初から使ったところで、覚られて何かしらの対策を取られちまう。だが、俺らを徹底的に追い詰めて悦に浸ってる状態なら、気の緩みが補正になって成功率は格段に上昇する。致命傷とは行かねぇまでも、それなりのダメージは与えられる筈だろ」

「ぐぅっ……んのっ……こ、れ、し、き、の、事ぉぉぉォォォォォォ!」

 ラトは左手を肉食恐竜の前脚が如し形状に変化させ、鋭い爪を苦痛で歪む顔面に突き立てる。そしてそのまま爪を突き立てた彼女は、塩分によって壊死した部位ごと左目に突き刺さった物体―食塩水入りのプラスチック製小型注射器―を抉り出した。

「あぁ、はぁ、っくへぁ……ぁあ……どうか、しらあっ!? これでもう塩におかされる事も無くなったわ! 私はラト・ルーブ! 全知全能にして唯一絶対の神! 完全無欠にして唯一無二の存在にとって、左の目玉をえぐるくらいどうってことないのよ!」

「すげえなぁ、お前。まさかそんな根性ある奴だとは思わなかったぜ」

「当然よ! 私はラト・ルーブ! カタル・ティゾルを支配する、全知全能にして唯一絶対の神ッ、完全無欠にして唯一無二の存在なのよッ! この程度の事出来て当たり前だわ!」

 言い争いを繰り広げる二人の傍ら、彼の仲間達もまた地に伏しながら再起の時を狙っていた。

 その中でも特に状況を意識していたのは、臨時にもかかわらず直ぐさま一同に馴染み、戦績はどうあれ初対面にしては奇跡的な連携を披露した少女・芽浦春樹であった。

「(……ツジラは凄いのだ。あんなボロボロになってもまだ、諦めずに戦線を維持して状況を巻き返そうと頑張ってるのだ。こんなに凄い男を倒そうなんて、我ながら僕はなんて馬鹿げた事を考えていたんだろう。どんなに強く硬い絆だって、徹底して張り巡らされた無駄のない作戦の前には為す術もなく崩れ去ってしまうんだって事、すっかり忘れてたのだ……)」

 春樹は改めて自らの安易さを思い知ると共に、新たな感情が芽生え始めていた。このツジラという男について行きたい。ツジラジという番組のメンバーとして制作に携わり、彼らと共にあらゆる地で戦い暴れ回りたい。

「(でも僕とツジラ達の関係は今限り……きっとこの戦いが終わったら、掴まって色々されちゃうんだろうな。仲間になんて当然、なれないんだろうなぁ……)」

 などと思った春樹だったが、だからといって彼女の決意は挫けない。

「(でもだからって、ここで戦わなきゃカタル・ティゾルが危ないのだ。僕をここまで育ててくれた世界に、掛け替えのない出会いをくれた世界に、死ぬ前にせめてお礼をしなきゃ駄目なのだ。ここでこいつを始末しなきゃ、死んでも死にきれないのだ……だから何か、打開策を……)」

 春樹がそう思った時、彼女の脳裏に声が響き渡った。

【―キ―――ルキ――春樹――】

「(この声は……)」

 春樹はその、柔らかで暖かみのある声に聞き覚えがあった。

 なぜならその声を出す事が出来るのは、彼女が記憶する内ではたった一人――彼女が生涯で最も愛した、唯一の恋人にして最愛の夫たる男だけだからである。

「(この声は……まさか、ズィトー?)」

次回、突如脳裏へ響き渡った声の正体とは!?

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