第百二十五話 英傑達の激戦 Part1
小蓬莱出張枠が新たに登場!台詞の資料が無いのでキャラ崩壊しまくりでしょうが勘弁して下さい後生ですから。
―前回より―
廃洋館周辺はまさに戦場だった。
「うあああああっ! た、助けてぇぇ!」
「おい、逃げるな! スィチン様への信仰心はどうした!?」
「信仰心より命だろ! いい加減にしろ!」
「落ち着けい! ここで逃げてもお前では信帝様に殺されるのが関の山じゃぞ!?」
地上・上空・地中を張っていた莫大な人数の信徒達は、アクサノ防衛隊が誇る新旧各英傑率いる精鋭達の猛攻に晒され、始終圧倒されていた。
軍用のヘリコプターから飛び出した飛行能力を持つ兵士達は同じく空を飛ぶ信徒達を次々に撃墜し、陸兵達は戦車や軍用ジープ等を乗り回したり、或いは飼い慣らした獣や大柄な仲間の背に乗って地上の信徒達を駆逐していく。
一見出番の無さそうな海兵達は、魔術によって創り出された地下水路を渡り、地中にて蟻の巣状の穴を掘って潜んでいた信徒達(外殻種や一部禽獣種・有鱗種等が主)を攻め落としていく。
信徒達は命惜しさに逃げ惑うが、それはあくまで気弱で臆病な一部の話。多くの者は如何に追い詰められようとも海神教への忠義を捨てず、持てる限りの力で敵に向かっていく。どうせこの場から逃れようとも、『海神教に於ける唯一絶対の法』たるラトによって殺されてしまうのだ。信帝の気に障る=死である今の海神教に於いて、この状況下で命を賭して戦うべき信徒が命惜しさに逃げ帰ってくることは、処女でさえも死に直結する愚行なのだ。
一方そんなややこしい事情など全くない防衛隊の面々は、一丸となって群れを成し効率的に戦いを進めていた。当然、指揮官達も参加の上で。
「ゼァアアッ!」
「ハッ!」
ガギン、という音がして、金属製の刃物とガントレットがぶつかり合う。
刃物を振るったのは海神教の幹部格たる女であり、対するガントレットの持ち主は陸上防衛隊の女性隊士である。
少々の間壮絶な鍔迫り合いが起こるも、刃物の持ち主は女性隊士によってはじき飛ばされてしまった。
「防衛隊の者よ、質問をしてもよろしいかしら?」
「何?」
「あなた、処女?」
「……いきなり失礼ね。悪いけど処女じゃないわ。航空の方に彼氏が居るの」
「そう、それは残念」
尖耳種の女は、刃物に唇を沿わせながら言う。
「もしあんたみたいな美人が処女なら、信帝様へのいい土産になったのにねぇ!」
「……変態ね、アンタ」
豹系禽獣種の女冷ややかにそう言い、内側に仕込まれたガントレットのスイッチを入れる。手の甲と手首を囲むように円錐形の太短い棘が生え、拳の先端から鋭い電極が飛び出す。『戦いの基礎は素手で殴り合うこと』という彼女の哲学を考慮した恋人の男が、技術者に特注で作らせたものである。
「腑抜けとか緊張感が無いとか、そういうのは言われ慣れてるんだけどね。まさかカルトにダッチワイフ役で誘われるとは予想外だったわ。まぁいっか。とりあえず本気で狩らせて貰うから……あんたら全員、ね」
女――基、アクサノ陸上防衛隊三等陸佐兼現『レイジアース』のエルザは、何処か愛嬌のある笑みを浮かべながらそう言った。
―同時刻・上空―
「畜生! 何だってんだあいつはっ!」
「冗談とか馬鹿げてるとかそういうレベルじゃないわ!」
「我々の常識さえ通用しないというのかっ!?」
「ひとまず逃げろ! 撃墜されっぞ!」
「そうじゃ! ここは戦略的撤た――ぐああああああ!」
「ジイさーん!」
地上の状況を一方的な狩猟と考えるなら、上空の状況は差詰めサイクロンもしくはハリケーンと言ったところだろうか。何にせよ海神教の信徒達が防衛隊によって一方的に狩られていたのには変わりなかった。空という極めて不安定な環境を主な活動場所とする彼らは、必然的に地上や地中の部隊より動作が変則的かつ戦略的になりがちである。それ故彼らは思わぬ強敵の出現から戦略的撤退という選択肢を選び取ろうとした。
だが信徒達は、すぐにそれが間違った選択であるという事を痛感させられた。主に、ただ一人の若者によって。
「海神教っていう組織らも、噂に聞くほど大したこと無いんだな。小さい頃両親から話を聞かされて散々怯えていたんだが、拍子抜け感が否めないな。
いや、待てよ? もしかしたらこいつらは組織の中でも末端に位置する弱小構成員であって、他にもっと恐ろしい――例えばアガシュラや、竜種をも軽くあしらうような、恐ろしい猛者が星の数ほども存在するんじゃないのか?そうだ、そうに違いない」
上空にてホバリングしながらのんびりと謎の自問自答を繰り返すのは、純白の羽毛を持った羽毛種の青年・スラッシュ。先程言及されたエルザの恋人であり、彼女とは相思相愛の間柄だったりする。
これだけならば何処にでも居るような民間人と言っても差し支えはないのだが、その実態はアクサノ航空防衛隊三等空佐―即ち、単純な階級だけならば恋人と同じである―の肩書きを持つ実力者であり、その卓越した多才な技術を理由に若くして『デスサイクロン』の称号を得た天才肌の英傑であった。
そもそも先天的に常軌を逸した学力と運を持つ彼は、イスキュロンが誇る(デザルテリア国立士官学校をも上回る程の)名門軍事大学を飛び級で首席卒業。専門は航空機の操縦と狙撃なのだが、ハッキングや暗号解読の腕前も(専門家には遠く及ばない者の)良く、その頭脳は現航空防衛隊でも五本の指に入るほどだと噂されるほど。
常に落ち着き払っており感情的になる事は極めて希。何事も慌ててはならないという哲学の元、極力マイペースで冷静に、戦略的な活動を心がけている。現に現時点での彼の態度や心構えと言ったものは数日前から微塵も変わっていない。こんな調子でホバリングしながら敵の弾丸を避けつつ、その上自動小銃や拳銃で無駄なく敵兵を撃墜していく様は、確かに殺られる側からすれば恐怖以外の何物でもないだろう。
かくして、外部でも壮絶な戦いは続いていく。
次回、更なる英傑達が続々登場!