第百二十二話 芽浦家の決戦
※前回の後書き、ほぼ予告詐欺だと思って下さい
―前回より―
廃洋館中枢にて武装し待ち構えるのは、廃洋館の住民達を統べる者にして彼らの母親・芽浦春樹。
「みんな大丈夫かな……もしツジラ一味に酷いことされてたら――っと、そんな事考えちゃ駄目なのだ。僕はお母さんなんだから、どんなに離れていたって我が子を信じてあげなきゃ駄目なのだ。例えどんな事になったって、信じるのをやめたら母親失格なのだ」
決意を新たにした春樹は、両手で可愛らしく持ったトーストにかぶりつこうとした。
「頂きまーっす。んぁ――」
と、その時である。
「ぎゃあああああああああああああああ!」
「おわああああああああああああああ!?」
『桃李ー!』
「どうしてこうなったぁぁぁぁぁああ!?」
「知るかァァァァェェイ!」
【うぼろべばっ!?】
「イェェエエエエエエアアアアアアアッ!」
廃洋館の屋根、壁、床を突き破り、数人のヒトが降ってきた。
順にニコラ、桃李(及びそれを追って急降下する羽辰)、リューラ(及び彼女と一心同体のバシロと、二人によって生け捕りにされたヴィクター)、気分が高揚しているのか破殻化状態でわざと直下突入する繁となる。
更にそれの余波なのか、廃洋館の朽ちつつある建材が春樹に降り注ぐ。
「ぅげっ!?」
驚いた春樹はその場から逃げ出そうとするが、流れ的に当然間に合う筈もない。結果として春樹は、(繁を除く)降ってきた面々の巻き添えになり廃材の波に巻き込まれてしまった。
それに引き続くようにして上の方から破殻化状態の繁が舞い降り、香織がドアをこじ開け入ってくる。
「……何があったの?」
「さぁな。ただ解るのは、『母上』とかいう奴がここに居るらしいって事だけだ」
「あー、それは私も聞いたよ。ネフルっていう、蟲みたいな女の化け物に吐かたらそんな事言ってた」
「するってェとアレか? そのネフルって奴の取り巻きでわけわからんちっこい奴らが居て、そいつらと戦ったって感じか?」
「うん、そんな所。てか、そんな言ってるって事は繁も?」
「おう。デカブツが一気に三匹も来やがった。それぞれ金銀銅でカイゼル、キュリオ、ペイジとかいう奴でな。何か気弾みたいの飛ばしたり、溶けたプラスチックみたいの飛ばしたり、レーザー撃ってきたりしたな。その上ペイジって奴は空飛んだり触手生やしたり、今思えば妙な奴らだったぜ」
「私ん所のネフルって奴はそういうの無かったかなぁ。ただ、魔術攻撃だけは散々されたけど」
「魔術ってえと」
「攻撃系も補助系も、宮仕えとか軍役とかの魔術師が使うような本格なのばっかり。流石に古式特級は無いっぽかったけど、実際の所はどうなんだろ。でもトリロさん直伝の多重障壁コンボを衝撃波一発で半分くらい持っていく辺りは普通じゃないね」
「それでよく戦えたな。お前の使ってる多重障壁コンボって、魔術学院レベルでもそうそう敗れないようになってなかったか? しかもそれにお前が何か変な改造して色々妙な事になってなかったか?」
「うん。平均的な中等魔術学校レベルの奴は表層部に触れた瞬間無力化出来るように設定してあるわよ。それも触れた瞬間、接触した魔術の基軸を構成する魔術式の配列をピンポイントに荒らし回るように」
「ワーム系のコンピュータウイルスか?」
「そ。当たった瞬間『それの基軸を一番効率的に潰せるプログラム』を障壁が自動的に組み上げて流すようにしてあるの」
「何かすげぇなぁ」
等と語らいながら、二人は瓦礫に埋まった仲間達を探しては助け出し、情報を交換していく。聞けばどうやら繁や香織意外の面々も同じように、何者かの『子供』を名乗る謎の生命体と戦う羽目になったそうで、何れも『母親』について言及していたらしいのだ。
「こいつぁ驚いた。しかも皆馬鹿正直に俺の言ったとおりに生け捕りにしてくるとは」
「案外簡単でしたもので。弱らせてしまえばコーンチューブを引くだけですし」
『ただ、あの二人の体質は本当に恐ろしいものでしたよ。あれこそ脅威というのでしょうかね』
「あんた等はまだ良いわよ。こっちなんて異能も何も無くトラップとメカの嵐だからね?」
「それ言ったら私らなんてどうなんだ。コーンチューブ故障してたからテグスで縛って引っ張るしか無かったんだぜ?」
「あの薬買ってなきゃ俺ら確実に終わってたな。間違いねえ」
「まあ何にせよ、とりあえずここに居るらしい『母上様』ってのを探さないとね」
「だな。こんな連中を腹から産んだような奴だ。この瓦礫の下にどんなおぞましい化け物が眠ってるかも解らねぇ」
【ッざけんじゃねェ! 勝手な事抜かしやがって、母上様はおぞましくなんかねぇぞ!】
繁の発言に苛立ったヴィクターが、縛られながらも抗議する。
「ほう。じゃあどんな奴なんだ、お前らの母親ってのは?」
【母上様か? そりゃあ、美人で所作一つ一つが可愛らしくて素直で純真無垢で天真爛漫で――兎に角いい女だ!】
「いい女……か。だそうだぞ、皆」
「いい女ねぇ……」
「ほうほう、いい女……」
「いい女…ですか」
「いい女と言いますと……」
「んー……いい女…」
「いい女……いい女……イイオンナ……」
【そうだ!いい女だ!】
「イ●テグ●ル・ファ●ブリ●・ウ●ン●ーツ・●ルシン●的な?」
【あんな如何にもどっかに突き刺さるオーラなわけねぇだろ!】
「ではノエ●・ヴ●ーミ●オンのような?」
【違えわ! 体格はともかく料理の腕前あんな糞じゃねー!】
『十●夜●キでしょうか?』
【俺らのルックス見てから言えよ! エースはブラ●っつうよりゴ●ガーだろ!】
「ア●・ブレ●だろ?」
【憑依とかしねーし!】
「もうエ●●ベス・ジョ●ス●ーで良いだろ」
【養豚場の豚を見るような目なんざするわけねぇだろ!】
「●倉和●でしょ?」
【それもちげええええええ!】
順にニコラ、桃李、羽辰、リューラ、バシロ、香織と、それぞれが思う『いい女』の例を述べていったが、いずれの答えもヴィクターは強く否定した。
「ったく、仕方ねぇな……お前らは『いい女』って言葉に踊らされすぎなんだよ」
『と、言いますと?』
「こいつの挙げた点を考慮に入れろって事だ。つまり、『美人』かつ『所作が一々可愛く』て、『素直』で『純真無垢』で『天真爛漫』な『いい女』を挙げりゃいい」
「まぁそりゃそうなるが……じゃあ誰だ?」
「誰だってか?言わせんなよ、その条件に当て嵌まるいい女っつったらア●ク●イド・ブリュ●スタ●ドだろ」
「おおっ、流石繁! 確かにその条件にピッタリだよ!」
「しかも原作、アニメ版、OVA版、漫画版、メ●ブラとそれぞれで作風やキャスティングの違いから違った魅力が感じられますし」
「原作やメル●ラはスタンダードに、アニメ版では大人の色気で、漫画版やOVA版では若干童顔で可愛らしく……すげえ、完璧じゃねえか!」
「そうだろう? なぁヴィクター、そうなんだろう?」
【いやそれは確かに条件当て嵌まってるがよ……母上様ァあそこまで破天荒じゃねーわ……】
「……そうか。そりゃ残念だ。それにしても、そうなると『母上』って奴はどんな女なんだろうなぁ。気になってしょうがね――
「こんな女なのだ」
「うをっ!?」
【こ、この声は……母上様ァッ!】
一同が一斉に声のした方を振り返ると、そこにはヴィクターの言う『母上様』――即ち、有角種の少女・芽浦春樹が佇んでいた。
【母上様、申し訳御座いませんッ! 俺が……俺が不甲斐ねえばかりに……】
「いいのだ、ヴィクター。誤らないで欲しいのだ。僕はこの通り無事だし、ここまで来たからにはもう何も怖くないのだ」
【母上様、それ滅茶苦茶死亡フラグじゃ――
「初めまして。僕の名前は芽浦春樹。この廃洋館の主で、芽浦一家のお母さんなのだ」
「ほう……どんな化け物が出てくるのかと思やぁ、お前さんみてぇな可愛らしいお嬢さんが出てくるとは驚いた。ツジラ・バグテイルだ。お初にお目に掛かる」
「ご丁寧にどうも、なのだ」
「さて、芽浦さんよ……」
「何なのだ?」
「初対面でこういうのもアレだが、少し頼みを聞いちゃーくれねぇか?」
「聞く聞かないは、どんな頼みかによるのだ」
「大人しく身柄を拘束されてくれねーか? 何、悪いようにはしねぇ。お前さん方が何者なのか、詳しく調べさせて貰うだけだ」
「……断ると言ったら?」
「少々怪我して貰う事にならァな」
「覚悟は出来てるのだ」
かくして両者が武器を構え戦闘態勢に入ろうとした、その時。天井に空いた大穴から落ちてきた大量の水に伴い、青いローブを着た長身の人物がその場に現れた。長身の人物は暫くしゃがみ込んでいたが、ふと音もなく立ち上がり、ぽつりと言った。
「……やっと会えましたね、春樹」
声を聞いた春樹とヴィクターの脳裏に、ある人物の記憶が蘇る。
「……え?……先、生?」
【まさか、教授殿だっつうんですかい……? だが、だがアンタは……】
縛られている事も忘れ、ヴィクターは戸惑いながらも言葉を紡ぎ出す。
【アンタは五年か六年も前のあの日、確かに死んじまった筈でしょう!?】
次回、突如現れた青ローブの正体とは!?