第百二十話 仲間達の無双
さぁ、巻き返しの時間だ!
―前回より―
【何なんですか? あなたは!】
「何って、只の開業医だよ? まぁ『元』だけど――
【出鱈目を言わないで下さいッ!】
切り刻まれて残骸と化した機械群に囲まれながら、追い詰められたイリーは言った。
「出鱈目って言われても、これが素の私なんだけどねぇ」
【仮に素だとしても……素であると仮定しても……只の元開業医にこんな真似が出来て良いはず無いでしょうッ!】
あれから孫達の乗り込むメカニック(所謂有人車両だとかロボットと呼ばれるようなデザインのもの)による襲撃を受けたニコラはその時、既に不老不死の肉体で攻撃を適当にやり過ごす事に疲れてしまっていた。よってそろそろこの状況を打開すべきかと思い立ち、能動的な攻撃行動に打って出たのである。
「いや、そりゃ只の元開業医には出来ないよ。私はこんなナリでも一応禽獣種だし」
【それが何です?今日日医者に種族なんて関係無いでしょう!】
「それに加えて不老不死だからさ」
【この状況とそれをどう関連づけるおつもりですか?】
「ヴァーミンの保有者だし」
【タセックモスに刃物なんてありませんよね?】
「あんたなんで私の奴――
【そりゃあんだけ派手に生放送やってりゃ気付きますよ】
「ですよねー」
【それで、何なんです? その刃物は】
イリーの尖った尾が指し示す先には、ニコラの手に握られた光そのもののような刃物があった。
「……あぁ、これ?」
【そう、それです】
「これねー、貰ったの」
ニコラの口から出た言葉は、少々間を置いたにしてはかなり簡素で呆気ない答えだった。
【貰った!? そんな恐ろしい武器を、ですか!?】
「そ。仲間からね、貰ったのよ」
等と言うニコラの持つ刃物は、言ってみれば某世界的に有名なSF映画に登場する、念力使いの騎士が扱う剣に似ていた。しかしその刃の長さは一般的に用いられるドス程度しかなく、柄の部分は先端部を削り取った大型プラスチック製シリンジのようであった(プラスチック製シリンジとは、所謂読者諸君も小学校の理科実験などで用いたであろうアレの事であり、ザ・ライアーにて楠木雅子が空気銃に改造していたものである)。
「仲間の話だと、何でもノモシアの方で長年店をやってる自営業の武器職人が居るんだってよ」
【自営業の武器職人!? 魔術師・学術者の間違いでしょう!?】
「いや、私も詳しくは知らないんだけどね。まぁ何にせよ、これであんたには打つ手が無くなった訳だし……そろそろ生け捕りに――
【させませんよ?】
繁が取り出したのと同じ捕獲道具を取り出したニコラの腕が、謎の爆発によって吹き飛んだ。
「……頭が良いだけじゃ無かったのね」
【これくらい出来ないでどうするんです?】
―同時刻・中庭―
【ヌ……こんな霊長種如きに、我々が…ッ!】
【諦めるのだウィルバー、非は霊長種だからと舐めて掛かった我々にある】
所々焼け焦げ凍り付く中庭にて、双子の混血児は瀕死の状態で横たわっていた。あれから本気を出した小樽兄妹に二人は為す術もなく圧倒され、トドメを刺せば直ぐ死ぬようなレベルにまで追い詰められていたのである。
「しかしまぁ、やはりお強いですねぇ。あなた方は」
『戦っていてひしひしと感じましたよ。先天的な素質もそうですが、それを伸ばすための努力も素晴らしいの一言だ』
【……愚弄しているのか?】
『いやいや、愚弄なんてしてませんよ。心からあなた方を称えて居るんです。妹共々生まれてこの方こういう喋りというか態度なもので、どうにも不真面目に捉えられがちなんですが……今の我々は大真面目ですよ?』
「そういうわけですから、早い所あなた方の『母親』とやらが何処に居るのか教えて下さいませんか?」
【それを知ってどうするというのだ? 我々にそうしたように、好き勝手散々に叩きのめした挙げ句生け捕りにしていかがわしい生体実験にでもかけるつもりか?】
「さぁ、それはどうでしょうねぇ。ある程度叩きのめして生け捕りにするのは確かですが、その後のことは何とも」
『あなた方を生け捕りにすると言い出したのはうちのリーダーでしてね、詳しいことは聞かされていないのですよ』
そう言って二人は、繁やニコラが取り出したような筒状の道具を取り出した。
【そ、それは……コーンチューブ!?】
【知っているのか、エイロン?】
【以前雑誌で呼んだことがある。弱らせた動植物を特殊な袋に詰め、生きたまま圧縮して持ち運ぶ事が出来るという……】
【何……だと……?】
「これをご存じだというのでしたら話が早い。母親の居場所は我々で探しますから、あとはごゆっくり」
そう言って二人はエイロンとウィルバーを生け捕りにした。その作業とは一瞬であり、まさに『イモガイの管』という名前に相応しい動きと言えた。
かくして繁達『ツジラジ』制作陣一同は加速度的な勢いで歩を進めていく。森に佇む巨大な廃洋館に潜む存在をつきとめ、それの謎を解明する為に。
しかしこの時、この場で戦っている者達や、その様子をラジオ番組として聴いている者達は気付いていなかった。この戦いが『芽浦一家対バグテイル一味』などと言い切ることの出来るようなものではないという事に。
即ち、彼らが戦う中裏で暗躍する者達が居たのである。
次回、影で暗躍する勢力の正体とは!?