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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第百十六話 それぞれの三思



三が日でも戦いは続く!

―前回より―


【成る程成る程。確かに凄いね青色さん。どれもレアものの術ばかりじゃない。そんなの何処で覚えたの?】

「何処で覚えたって? 使い手に弟子入りしたのさ。本職は自営業の薬屋で、三年前に死んでるけどねっ!」

 シーズン2でのホリェサ・クェイン戦、シーズン3の鳴頃野比良子戦に引き続き、香織はまたしても壮絶な魔術合戦を繰り広げていた。

 対戦相手は芽浦家次女・ネフル。『魔術師(メイジ)・ネフル』という異名の通り産まれながらに天才的な魔術の才能を持つ彼女は、実に奇妙な性分であった。それを簡潔に熟語で表すなら『敵前弁慶』であろうか。そもそも『弁慶』とは、読者諸君もよくご存じであろうが、かの有名な『牛若丸』こと『源義経』の臣下たる薙刀使いの郎党『武蔵坊弁慶』である(カタル・ティゾルにもこれに相当する英傑が存在し、弁慶同様力強い者の例えとしてしばしば使われる)。

 春樹が産んだ子供達の中でもイリーやエイロンに次ぐ策士枠・頭脳派の部類に入る彼女は、元来心配性で奥手なために行動力に欠ける部分がある。これは既に説明した事であるから、注意深く読んでいる読者諸君ならば理解出来ている事と思う。

 しかしそんな彼女でも、行動力溢れる活動的な自信家になれる―というよりも『なってしまう』状況がある。

 それは『自分と同格以下の敵を目の前にした時』である。普段は気弱で心配性のネフルだが、何の因果か敵を目の前にすると強気で好戦的な自信家になり、相手への態度も丁寧な敬語から同年代への馴れ馴れしく挑発的なものに変貌する。ある者はこの状態の彼女を見て『意欲的だ』と賞賛し、またある者は『調子に乗っている』と言う。本質はどちらでもあるのだろうが、そもそも周囲から取られようと彼女が奮起する事に変わりはない。


【まあどっちにせよ、あなたが劣勢なのに変わりは無いんだけどね。幾ら防御や回復が凄かろうと、ソロの魔術師は攻撃系魔術扱えてナンボでしょ】

「はぁ、そうかしら? 攻撃なんて他のでどうにでもなるでしょ。態々攻撃系魔術が必要になる相手ったって、今頃はそう見ないし」

【……もう駄目だわ、あなた。そういう甘い事言えるのはね、言うほど場数踏んでない証拠なのよ? そもそも『魔術師』っていうのはね、攻撃、操作、補助、治療、回復、錬成と、一通りのことは全部出来て当たり前なの。特に攻撃系はその中でも要の要、魔術の基礎でしょうに。魔術学校で習わなかったの?】

「魔術学校には行ってないけど、教科書なら一通り読んでるわよ。多分、あんたよりはね。でも魔術の教科書にある基礎ったらあんた、『点火』『念動』『予見』の三つでしょ。誰しもそれを覚えてから、攻撃とか補助とか、発展的な内容に進んでいくんでしょうが」

 傍目から見れば落ち着き払っているように見えるかも知れないが、実はこの間も二人は互いに魔術を撃ち合っていた。先程のやりとりも口頭によるものではなく、念話を用いたものである。

【そうだとしても、攻撃系魔術を使わないで魔術師として一人で戦おうなんて、やっぱりお目出度い奴だよあなたは。考えが甘いにも程がある】

「……甘いも苦いも、今断言する事じゃあ無いと思うけどね」

 香織は右足首に意識を集中させながら、尚も淡々と念話を続けた。

「(取扱説明書の内容が確かなら、あと少し……あともう少しで……)」


―同時刻―


【グモマモモモ、グモモマー!】

【キェヒェッヒェァアアッー!】


「(畜生め、やっぱ槍と手甲鉤じゃ手も足も出やしねぇ!)」


 ラジオDJツジラ・バグテイルこと辻原繁は、数の暴力を生かした子供達の戦術に苦戦を強いられていた。肉塊から六本の太い腕が生えたような姿の孫達が念力のような力で岩を投げ、蛾のような姿の孫達はまるで生物のように動き回る爆発性の鱗粉を集団で操る。

 ネコともトカゲともつかない孫達が五本の尾を触手のように振り回し、そこにカイゼルの禍々しい弾丸やキュリオの粘着液、ペイジの熱線などが襲い掛かってくる。

 繁は溶解液の障壁でそれらの飛び道具を悉く打ち消していたが、防御に必死になる余り攻撃に転ずる事が出来ないで居た。

「(やべえ……やべえぞ。地上に奴ら、空にも奴ら、しかも全方位から飛び道具じゃ逃亡はほぼ無理……奴らを倒すんなら能動的に攻撃して黙らせるしかねぇ。が、かと言って攻撃をする暇もねぇ……守りが手薄になったらそれこそ即死だ。クソッ、どうすりゃいい? 作戦だけは一丁前に思い付くが、どれも破られる気がしてならん!)」

 繁は手元に目をやり考える。

「(そういえば前、桃李や羽辰やリューラが『鎌や分銅、剣には凄いギミックが隠れてる』とか何とか言ってたな。確かにあのカドム店長の事だ、普通に性能が良いだけの武器なんて作るわけがねぇ。実物を見たわけじゃねえが、今思えばあの爺さんは確かにそういう感じがしたようにも思う。……と言うことは、だ。この手甲鉤にも何かしらの仕掛けがあったっておかしくねぇ筈なんだが)」

 繁は防御・回避をしながら考える。では仮に、この手甲鉤にそういった『隠しギミック』があるとして、それは如何なるものなのかと。

「(『振ったら光線が出る』……は、安直か。『何もないこの純粋な強さこそ隠しギミック』とかいうのも何かヤだよな……そもそもそれほど強くねえし)」

 等と思考を巡らせながら、繁は今にも念力で頭上に浮かべた岩を飛ばそうとしている孫へ向けて、まるで手品師が杖を振るように手甲鉤を振ってみた。すると何が起こったのか、唐突に孫数匹の念力が一斉に弱まり、自分達が飛ばそうと浮かべていた岩によって押し潰されてしまった。

「(これが……この手甲鉤の隠しギミックなのか?)」

次回、繁の手甲鉤に秘められた隠しギミックとは!?

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