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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第百十五話 破壊者の負傷




2012年は辰年!辰年だけに今回の敵は赤い龍っぽい巨獣のヴィクターだ!

―前回より―


【ウルァアアアアアアアアアアアアア!】


 絶大な破壊力を秘めた巨獣の拳一つが、地面を砕き陥没させる。

【キェアアアアアアアアアアアアア!】

 深紅の外骨格に覆われた巨獣の長い尾が、樹木を薙ぎ倒し突風を巻き起こす。

【どうしたテメェ等ぁ!? 俺を生け捕りにするんじゃねえのかぁ!?】

『破壊』の異名を持つヴィクターの所業は、まさしくそれに恥じないような派手で大胆なものであった。そもそも現芽浦一家で最も大柄にして一番の肉体派かつ武闘派である彼の戦い方は、嘗て幾度と無く様々な死線を乗り越えて来たリューラ・フォスコドルをも恐れさせるに十分なものであった。

 そして、そんな彼女の相方を自称する謎の寄生生物バシロ・ジゴールもまた、ヴィクターの恐ろしさを本能的に痛感していた。その強力無比なパワーを産み出す巨体は勿論、鎧のように全身を覆う紅の外骨格はバシロの放つ砲弾をも弾き返す程の強度を誇っていた。

 ヴィクターの猛攻から逃れるため、ひとまず樹上に隠れたリューラとバシロは、下で暴れ回る赤い巨獣の様子を伺いながら思考を巡らせる。

「(現れた時点で想像はついていたが、デカイ図体と声からイメージ出来た通り奴の怪力は桁外れだ。まるで改造コードで攻撃力二億とかになったRPGの仲間キャラみてぇな。数値の上限がねえだけかもしれんが、何にせよ直に正面から立ち向かうのは自殺行為と見て間違いあるめぇ)」

「(接近戦ははっきり言って無謀。近寄るだけであの腕に叩き殺される。だが距離を取って戦うにしても俺らの持ってる飛び道具じゃ奴の皮は破れねぇ)」

「(となりゃ、あと対抗出来るもんと言えば……こいつぐれぇか?)」

 リューラが取り出したのは、プラスチック製の拳銃らしき物体だった。

「おいリューラ、そりゃ何だ?」

「セルヴァグルの繁華街で自由行動んなった時、服屋の前で迷子のガキ拾った事あったろ?」

「あぁ、ハンバーガー食わせてやったり人目気にせず空飛び回ったりしたなそういや。あん時ゃガキのリクエストがブラ●だったもんで変形に苦労したぜ。ス●ダとか●モンなら二秒で出来たんだが」

「そうだ。私もあん時ガキにリクエスト取ったのは失敗だったかと思ってる。んでよ、そんな慣れない変形したもんで疲れて寝ちまったお前は覚えてねぇだろうが、そん時に助けたガキが礼だってんで水鉄砲くれたんだよ」

「あぁ、あの最新型の奴な。空気圧で水押し出す奴。改造して電線繋ぎゃアシつかねぇ狙撃銃が出来るっつったのは覚えてんぞ。で、そのガキが礼にくれた水鉄砲がどうした?」

「そいつな、流石に電線繋ぐような気力は無かったんだが、私なりに改造してみたんだよ。空気圧のギミックに大容量の貯水タンク、素材は揃ってんだ。士官学校時代は武器解体実習の成績が妙に良くてよ、部活も改造武器研究会ってのに入ってたんだぜ?」

「何だよその部活動……」

「名前のまんまだよ。武器を改造して面白い奴に仕上げるんだ。部活動っつうより物好きの集まりみたいなもんで、大会を目指すとかじゃないけどな。それに改造武器ったって真剣や実銃なんかは勿論使わねぇ。危ねーってんで部費打ち切られるし、教育委員会や政府から叩かれりゃ学校そのものが崩れるからな」

「ほうほう、流石はイスキュロンが世界に誇る名門士官学校だな。幾らぶっ飛ぼうが安全第一と」

「そうだ。そのへんで売ってるペーパーナイフや安いオモチャの拳銃を改造して、実践で役立つような武器に仕上げるんだ」

「それって余計叩かれるんじゃねえか……? で、その武器ってのは何なんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。こいつは見ての通り水鉄砲を改造して作った飛び道具だ」

「そいつぁ言われねぇでも解るが、問題は何が出るかだろ。その調子じゃ弾も鉛じゃねぇんだろ?」

「勿論だ。まぁウダウダ説明するより実際に撃ってみた方が早いかもな」

 そう行ってリューラは銃をヴィクターの右後ろ辺りにある樹木に向けて放つ。射出されたのは先端に針のついた目視可能な程度に太いワイヤーであり、空気圧の推進力を得たそれは失速する事もなく飛んでいき、樹木に突き刺さる。

「ワイヤーだと? そんなもん撃ってどうすんだ?」

「まぁ見てろ」

 リューラは銃を素早く動かすと同時に本体からワイヤーを切り離した。

否、切り離したと言うより末端部に空気圧をかけて撃ち出したのである。

完全に本体を離れたワイヤーは樹木を基点に大きくしなり、ヴィクターの後ろ足(右後ろから数えて一番目の脚)に巻き付いた。

【うをっ!? 何だこりゃあ!? クソッ、どうなってやがる!?】

 ヴィクターはどうにかワイヤーを引きちぎろうとするが、脚に絡み付いたそれは細い癖にとんでもない強度を誇っており単純な力で切断する事は不可能であった。その上表面へ何の細工がしてあるのか、ワイヤーは藻掻くヴィクターの脚を覆う外骨格にノコギリのような切れ込みを入れていく。

 そして暫くした後。遂にワイヤーはヴィクターの脚を一本膝から輪切りにしてしまった。

【っがあああっ! 畜生、俺の脚がっ――嶋野ォ! 黒物体ィ! どうせテメェ等の仕業だな!? ド畜生め、こんな卑怯スレスレの真似しやがって!格闘技の金的レベルじゃねえかぁっ!】

 脚を切り落とされた事が相当頭に来たのか、ヴィクターの暴れぶりが余計酷くなった。更に質の悪いことには、切り落とされた脚が秒間2cmという速度で再生を始めている。

「おいおい……逆に怒らせちまったし、そもそもあんな再生力じゃどうしようもねぇぞ……」

「大丈夫だ、問題ねぇ。奴の外骨格も無敵じゃねぇって事が解っただけでも僥倖と思うべきだろ。つーかヴィクターの奴も何だよ、卑怯スレスレだの格闘技の金的だの、あんまりじゃねぇか」

「いや、やられた側からすりゃたまったもんじゃねぇって例えだろ。まぁ俺、この身体になった途端ヒトだった頃に感じた痛みとかが一部すっぽ抜けちまってて金的がどんなもんかよく知らねぇけど」

「マジで!? お前あの痛み忘れてんの!? ありゃあ辛えってレベルじゃねぇぞ。いや、冗談抜きでな」

「そうかよ」

「この前そこそこムラついてた時に香織の後ろ姿が目に入って、思わず奴の乳を背後から揉もうと掴んでやったら反射的に踵喰らったしな。タマに」

「いやおかしいだろ。何でいきなり乳揉みに走るんだよ。ムラついてたどころの話じゃねえだろ」

「マジでムラついてたんだから仕方ねぇだろ。丁度良いくらいの巨乳だしな、あの女」

「仕方ねぇで済ますなよ立派な犯罪だろ」

「でな」

「聞けよ」

「聞けば香織の奴もびっくりして咄嗟に脚が出ちまったらしくってな。私の自業自得でもあるから大人しく引き下がったわ」

「それで?」

「そこに繁の奴が来て、部屋まで運んでくれる事になってよ」

「ほう」

「『痛むようならさすってやろうか?』って言われてよ。悪くねぇなと思って背中さすって貰ったんだわ」

「うん」

「でな、痛みが和らいだところでまたムラっと来てよ」

「ムラっと来んなお前。頼むからムラっと来んな」

「ついつい奴の股間に手が伸びてな」

「聞けよ。つーかいきなりそこはねぇだろ」

「で、膨らみまであと少しって所でよ」

「……どうなった?」

「空いた手でタマ殴られた……」

「ああ……」

「洒落になんねぇよアレ……」

「諦める気になったか?」

「いや、それでも一応私淫乱枠だし諦めずにこれからも――

「諦めろ! マジで諦めろ! 淫乱枠とかねぇから!」

「いや、でもわかんねぇだろ? もしかしたらもしかするかもしれねぇし、その可能性に賭けるって意味でも」

「いやだからねーよ! あるわけね――

【そこかァァァァァァァ!】

「「へ?」」

 騒ぎを聞きつけたヴィクターの尾による一振りが、二人のしがみついていた樹木を叩き折った。

「うおあああああああああああああああ!」

「ぎゃあああっはっはっはっはっはっは!」

「いやお前何で笑ってんだよ!?」

「絶叫の勢いだ!」

「んな勢いがあってたまるかァァァ!」

それでは皆さん、本年もどうぞ宜しくお願い致します!

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