第百十一話 門前の狂戦士
門前にて壮絶な戦いを繰り広げていたのは・・・
―前回より―
ニコラや小樽兄妹等、それぞれ次々に芽浦家の子供達と出会う中、廃洋館正面へ堂々と降り立ったリューラとバシロもまた、敵の攻撃に遭っていた。
「消し飛べやぁぁぁ! こんなスゲー事出来ちまってんぞウルァァァァ!」
「雨なら傘広げろァァァァァァァ! きっと気分は大発明だグルァァァ!」
リューラの持つ剣が、地中や樹上から這い出してくる紫色の流体が如し生物を叩き斬り、バシロは体内に備わった大砲から榴弾や光弾等を連射し、巨大な四足歩行の竜脚類らしき生物に対抗していた。しかしながら、芽浦家の中でも選りすぐりの肉体派たる豪傑・ヴィクターを父親として産まれた孫であるこの生物群は、高いパワーと尋常でない生命力を父親からしっかり受け継いでいる。よって剣で手足や首を落とされたり、体内から爆破されたりと、並大抵の生物ならばほぼ間違いなく死ぬであろう傷を負って尚、瞬時にそれらの傷を自ら修復し、いとも簡単に立ち直ってしまう。
「畜生、コイツ等一体何なんだ!? 斬っても焼いても殴っても直ぐに再生しやがる! HPが減らねーっつうより、チートで超高速の自動回復機能が働いてるみてぇだ!」
「クッソ! 繁の奴がくれたこのグレネードランチャー、言っちゃ悪いが攻めになってねぇよっ! 取説にあった生命エネルギー供給機能のお陰か俺らが死ぬってオチは回避出来てるみてぇだが、これじゃお互い決着つかねーよっ!」
バシロの体内に備わっていた大砲は名を『インヴェジョンブラスター』といい、繁がカドムから手渡されていた黒い箱に入っていたものである。榴弾・光弾等を何処からのエネルギー摂取も無く発射できるこの代物は、装着者の身体と一体化して以降自在に出し入れが可能になる上に、対象物をある一定のエネルギー量で破壊する度装着者にそこそこの生命エネルギーを供給するというわけのわからない機能がついていた。
この奇妙な機能の恩恵はバシロと適度に一体化しているリューラも受けることが出来たため、地殻や樹木、巨大な岩石をも易々と砕く程の力を持つ孫達にやられっぱなしという事態には陥っていなかった。
「それにしてもつくづく思うが、こいつ等ってなァ何なんだろうな!? 専門家じゃあねえが軍役で一応世界各地回ったことのある私ぁそれなりに妙なモン見てきたが、こんな奴は初めてだぞ!」
「俺も一応元々専門家だがよぉー! こんな奴は見た事ねぇっ! いやそもそも、見たことあるなし以前にこんな奴ぁどう考えたって有り得ねーんだよ!」
「流体種が変異したとか、魔術で作られたとかじゃねぇのか!?」
「流体種はこんな変異しねぇし魔術生物にしたらこんな安定ぶりは明らかに異常なレベルだ!」
「マジで!? つか本当に焼けねーなコイツ等! 一体何だって――
【下がれェーイ!】
「「!?」」
突如エフェクトがかかったような重厚感溢れる男の叫び声が辺り一面に響き渡り、その叫びを合図に孫達はそそくさとその場から撤退していった。
「な、あ? 何がどうなってんだ!? 化け物共が消え失せたぞ!?」
「こいつぁまさか、ボスクラスの奴が出てくるフラグか……?」
「『勃発前の静寂』ってか?だとしたらとんでもねぇのが来そうだな。例えばそう、全長5mぐらいの――
【デェアァアアッ!】
「うをっ!」
「な、なんだぁ!?」
突如、リューラの足下から赤い柱のようなものが飛び出した。それは大人が抱き抱えて手が少し余る程の太さで、金属に似た光沢を持っていた。リューラは後ろに飛び退くことでその攻撃を回避したが、赤い柱のようなものの正体は未だ不明のままである。
「――っとォ、っぶねー。マジブねー。冗談抜きでブねーわ」
「言ってる場合かよ。避け損なってたら骨まで潰れてっぞ?」
「馬鹿言え。もし仮に私が死にそうになったとしたら、お前が簡単に守ってくれるだろうが」
「否定はしねぇが、お前が守られるってクチかよ。元軍役経験者が、乙女面してんじゃ――!?」
土煙が晴れるより前に、赤い柱を起点にして地面が盛り上がり、地中から巨大な何かが姿を現した。
【ェエアッ! クソっ! 微粒子の土共めが! 乾燥帯よろしく固まって土煙なんぞ起こしてんじゃねぇっ! 俺の視界を妨げる気か!? 岩石粒子が砕け散っただけの無機物如きが生意気だぞ!】
地中から現れた巨大な何かは、悪態をつきながら土煙を必死で払わんとする。暫くして漸く土煙が晴れると、地中から現れたその姿が明らかになった。
大きさは差詰め全長が7m、体高が4mと言った所か。見上げるような巨体は赤い外骨格に覆われ、ワニかオオトカゲのような爬虫類、若しくは肉食恐竜を思わせる。
しかしその脚は八本もあり、そのどれもが人間のような指を四本程生やしている。
【っしゃあ! 漸く土煙が晴れたぜ! これで問題は解決した! やいテメェら、ツジラ一味の嶋野二十五番と黒物体Vだな!?】
「そうだとすりゃあ何だ? 私らのファンか? 餃子でも焼いてきてくれたのか?」
「最近のファンてのはスゲーな。不意打ち直後に地面から現れて、土煙に文句垂れてから親の敵でも相手にするのかってぐれぇの態度で挨拶たぁ。この分だとテメーの親ぁ色々な意味でとんでもねぇ奴なんだろうぜ」
【あんだとゴルァ!? 母上様ァDISるってんなら容赦しねぇぞ!?】
「今までのは容赦してたのかよ。オメーん家は鍋の具取り合うのに機関銃でも出すのか?」
【出す訳ねぇだろ! うちは家族揃って仲良いからんなギャグマンガのバカ共みてーな事しねぇよ!】
「マジで? 化け物家族っつったら仲悪いのがセオリーなのに凄ぇな。で、私が嶋野二十五番でこいつが黒物体Vなのは認めるが、肝心のオメーは何者だよ? さっきの奴らを引き下がらせた所から見るとこの廃洋館に住み着いてる化け物共の眷属なのは確かだろうが……」
【よくぞ聞いてくれたなァ! 俺の名はヴィクター! 『ディストラクト・ヴィクター』なんて派手な呼ばれ方もする力自慢の次男坊だ!】
「次男坊……つまり上には最低でも兄貴が一人は居るって事か」
「それだけじゃねぇぜ、リューラ。次男ってのはあくまで二番目に産まれた男子って事だから、上に姉貴が何人居たって二番目の男なら次男の扱いになる」
「そうかよ……まぁどのみち、全員ぶちのめして生け捕りにするだけだがな……」
【生け捕り? ナメた事抜かしてんじゃねぇぞ! 俺ら止めたきゃ殺す気で来い! つーかこっちは端から首取られる覚悟でやってんだ! 寧ろ俺を殺しに来い!】
かくして、両陣営随一の荒くれ共による壮絶な戦いが始まった。
次回、出会いラッシュまだまだ続く!