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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
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第百二話 メテオ・ジ・エッグ 前編

南極に落ちてきた謎の金属塊はラビーレマ某所に惨劇をもたらした。

では、北極に落ちてきた正体不明の隕石はアクサノ某所に何をもたらすのか!?

 ある時、北極と南極へ空から正体不明の何かが落ちてきました。

 観測隊によって発見されたそれらは、どちらも詳しい調査を行うため、それぞれアクサノとラビーレマの研究機関が引き取ることになりました。



 アクサノのあるところにある研究機関が引き取ったのは、北極に落ちてきた謎の隕石でした。この隕石というのはよく見る普通の隕石と比べると規格外に大きく、また普通では考えられないような奇妙な形をしていました。

 その表面には太く丸い円錐形の突起物が生えていて、それらは熱せられた鉄のように、幽かにですが赤く光っているのです。表面は大変に脆い岩石のようなもので、少しの揺れでもボロボロと崩れ落ちるそれは詳しく調べてみても何で出来ているのか解りません。

 誰も見たことのない、どんな資料にも載っていない元素が、ありえない形に繋がっているのです。


 その上、機械で調べたところ隕石の中は謎の液体で満たされており、中央には絡み合った蔓状のもので周囲から支えられている球体と思しき何かが鎮座していました。ただそれでも、隕石の正体は解らないままでした。内部に謎の液体が詰まった岩石というだけでも珍しいのに、ましてやその中に無数の蔓で支えられた球体が収まっているものなど有り得よう筈がなかったからです。


 しかしそれでも諦められないのが、ヒトの性というものなのでしょう。研究機関は所属するあらゆる分野の研究者を集め、隕石の正体について断定するよう命じました。委員会が『明確な答えを導き出せた者の研究費を来期から望むだけ出してやる』などと付け加える辺り、どれだけ必死だったのかが解るでしょうか。

 研究者としてもやはり研究費は死活問題だったのか、それとも学術者としの本能が騒ぐのか、はたまたどちらもなのか、元から居た地学者をはじめ、化学者、物理学者、工学者、生物学者、機関に所属する学者達が、こぞって限られた資料から隕石の正体を突き止めようとしました。

 限られた資料から探し出そうとしたというのは、委員会からの言いつけで隕石を削ったり割ったりする事が禁止されているからでした。


 研究者達はいろいろな理由をつけて隕石の正体についての推測を打ち立てましたが、委員会はそれらに最もらしい言い掛かりと委員会権限で無理矢理押し切ってしまいます。というのも、委員会は最初から研究者の正解を認めようなどとは思っていなかったからです。

 委員会の真なる目的……それは研究者達が手間暇かけて得た研究データを手中に収め、それを元手に自分達で隕石の正体を突き止めて手柄を独占することでした。アクサノ民にしてはあくどい事をする奴だなと思われるでしょうがそれもその筈で、当時の委員会関係者は全員が全員海神教関係者の家系にあり、その考え方もアクサノ民とはほど遠いものだったのです。

 委員会は最初、自分の作戦が上手く行くだろうと考えていました。それでも刃向かう者が現れれば、裏から部下を回してどうにでも出来たからです。


 しかし、委員会の作戦は一人の若い研究者によって失敗に終わります。


―ある日の委員会室―


「失礼します。クルス・ディーエズです。隕石についての件で参りました」

「どうぞ、お入りなさい」

 入ってきたのは海洋系竜属種の青年クルスでした。彼の研究分野は動物学で、特に繁殖の研究を進めていました。

「様々な観点から調べてみたのですが、あの隕石の正体……何らかの生物の『受精卵』ではないでしょうか」

「受精卵? 何故そうお考えに?」

「はい。私が着目したのは『内部が液体で満たされており、内部に蔓状のもので支えられた球体がある』という点です。私の持てる知識の範囲内でこういった特徴が見られるものといえば一つ、『卵生である脊椎動物の受精卵』でしょう。液体は卵白、球体は卵黄であると推測できます」

「では球体を支える蔓状のものは何だとお考えですか?」

「恐らくカラザでしょう。卵黄の回転を防ぎ、胚の位置を整えるものです」

「成る程。しかし証拠はそれだけですか?我々委員会としては、信憑性の薄い情報を認可する事は極力避けたいのですが」

「無論、それだけではありません。此方をご覧下さい」

 そう言ってクルスが差し出したのは、何やら脊椎動物らしきものが画面中央で丸まっている写真でした。

「これは一体?」

「隕石の断面図です。先週撮影しました」

「な、断面図!?」

「あなたは我々委員会が定めた規約を忘れたのですかっ!? これは重大な規約違反ですよ!」

 規約違反、そう言われればここの研究者は誰しも怯えざるを得ません。しかしクルスはそれでも尚顔色一つ変えずに言いました。

「何が規約違反なのです? 私は隕石を割っても削ってもいませんが」

「ぬぅ……それは、そうですが……しかし受精卵など……」

「現物を見なければ信じられませんか? でしたら……おい、あれを」

「畏まりました」

 クルスの部下が持って来たのは、内側から突き破られて萎んだ隕石でした。

「勝手ながら保管庫の警備員を買収して監視カメラの映像をこちらに回させました」

「な、何ぃ!?」

「子供は先々週に生まれましてね。こちらで極秘に育てたのですが、いやこれはまた素晴らしい……この惑星の生物とは思えない成長ぶりでしたよ」

「な、何だとっ……貴様、我々からあれを盗み出したというのかっ!?」

「盗み出した? 人聞きの悪い事を言うのは止して頂けませんか。私は研究材料をあるべき場所に移しただけですよ」

「在るべき場所に移しただと!?」

「そうです。海神教の聖句にも『砂地這う(マグロ)無く、沖進むハゼも無し』という一説があるでしょう? つまり何者にも在るべき場所とあってはならぬ場所があるという事ですよ」

「海神教? 貴様、海神教の関係者か!?」

「えぇ。私は代々海神教に従事する家系の産まれですが」

「ならば私の名も当然知っているだろうな!?」

「えぇ、まぁ。貴方は確か……現『セイレーン支部』管轄の支部信徒ターリー・モントラム氏でしょう?」

 海神教には『レヴィアタン』『マーメイド』『ケートス』等、地球では架空とされているもののカタル・ティゾルでは古代生物としてその名が知らている海洋動物群の名前を冠した『支部』がそれぞれ違った仕事を持っていました。支部の頂点には『支部信徒』と呼ばれる中間管理職が居り、委員長ことターリー・モントラムもその一人でした。

「その通りだ。我々委員会は全員海神教幹部であり、そもそもこの研究所のバックには海神教がついている! この意味がわかるか…?」

 脅すような問いかけに、しかしクルスはあっさり答えた。

「いえ、解りません」

「わからんのかよ! ええい、仕方ない。折角だから私が直々に教えてやろう。つまり我々委員会に楯突くこととは、そのまま海神教という組織そのものへの反逆にもなるのだぞ!?」

「それが何か?」

「いや恐がれよ! お前も海神教の怖さなら良く知っているだろう!?」

「えぇ、そりゃあまぁ。私も関係者ですし」

「だったら命乞いの一つでもしたらどうだ!? どのみちお前のような一般信徒(ヒラ)が私に勝つことなど――

「御言葉ですが、Mr.モントラム」

「な、何だ!?」

「私はそこいらに居るような一般信徒などではありません」

「何? では何だと言うのだ?」

「はい。実は私」

「うむ」

「本部の方で中堅の下位信徒として動かせて頂いているものでして」

 その言葉に、委員会の面々は凍り付きました。下位信徒は本部に存在する幹部の中で最下位の存在であり、細かく12段階にランク分けがされているのですが、それらはどんなに位が低くても複数の『支部信徒』を束ねるだけの権限は最低限持ち合わせているのです。

 しかもこの場合中堅とは大体上から5番目から8番目あたりを指すのであり、つまりモントラムは自分よりずっと偉い上司を相手に好き勝手怒鳴り散らしていたという事になるのです。

『―――』

 ショックの余り言葉も出ずにただ混乱するばかりの委員会の面々へ、クルスは言いました。

「それでは……隕石の件は今後我々が全面的に引き受けることとします」

「え……あ……は、はい! 畏まりました! 仰せのままにっ!」

「それと……」

 それまでの覇気が何処へやら、小物然と振る舞うしか手立ての無くなったモントラムへ、クルスは更に付け加えました。

「隕石の正体は突き止めましたので研究費の方を宜しくお願いしますね、モントラム委員長?」

 かくしてアクサノの研究機関で起こった『北極隕石騒動』の波は次第に収まって行くかに思えました。しかしながら騒動はまだ終わってなどいませんでした。しかし、それもその筈なのでしょう。


 何せこの一件、これより始まる恐ろしき『事件』の幕開けを告知するブザーに過ぎなかったのですから。

隕石から産まれた生物の正体とは!?

次回、海神教信徒にして生物学者クルス・ディーエズのおぞましい計画が明らかに!(なるのか!?)

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