第百一話 りっぱな英傑になる方法。
繁達も動き出す!
―前回より―
「さて、そんなわけで一昨日はやっとの思いで目的の一つを果たせたわけだが」
遺産探しから二日後、繁は何時も通りにロビーでそんな風に話題を切り出した。
「このままの流れで今回の本題『廃洋館に潜む何か』に早速ながら挑もうと思う。供米神官、例のデータを」
「畏まりました」
供米は部下に命じてホワイトボードを引っ張り出させ、所々赤い丸印や青い曲線が書かれた地図を貼り付けた。
「此方が今回発見された廃洋館周辺を地図化したものとなります。御覧の通り廃洋館の背後には幅が広く流れの緩やかな河川が流れており、廃洋館に潜む存在が我々に匹敵するかそれ以上の知性体である場合ここから生活用水や食料を確保していると見て間違いないでしょう」
「敵の警備はどうなってます? 傭兵団の皆さんは正面から挑んだらエライ目に遭ったって聞きましたけど」
「小型のライブカメラを搭載したカワネズミを送り込みましたが、廃洋館へ到達する前に川底へ引きずり込まれ依然消息不明のままです。ツジラ殿の報告によれば死骸として発見されている謎の生物の一つには水棲のものが居たと聞きますので、その手の者の可能性も否定出来ないものかと」
「魚群探知機などで敵の位置を探り出すことは出来ませんか?」
「試してみたのですが、それらしき影は見当たりませんでした」
続いて供米は地図に描かれた赤い丸印を指し示した。
「これら地上部に記された赤い丸の位置に立ち入ると、連鎖的に護衛を勤めていると思しき生命体三体ほどが地中・樹上・上空から現れ襲い掛かってきます。私が派遣した傭兵団に壊滅的なダメージを与えたのもこの類であると推測できます」
「じゃあ何で調査に向かった奴は生き残ってんだ?」
「そりゃ俺様が死ぬ気で行ったからだぜ、銀髪の嬢ちゃん」
「…アンタ誰だ?」
リューラの問いかけに答えたのは、本来薄く柔らかいはずの腹部に無数の傷跡を持つ地龍種または有鱗種と思しき大男だった。
「申し遅れたな。俺様は元アクサノ海洋防衛隊海将補・第二十六代『サイレントアビス』こと鰐系有鱗種のクンビーラだ」
「有鱗種なのですか? 失礼ながら私、スコミムス系の地龍種かと思っておりましたが」
「おいおい、それじゃ『ワニモドキ』じゃねぇかい。この通り俺はれっきとしたワニだぜ、スーツの嬢ちゃん」
「ソシテアクサノ海上防衛隊海将補及ビ歴代最年少ノ『サイレントアビス』デモアル」
「止せやヌグ。その肩書きも所詮は『元』だ。そういうお前も歴代『デスサイクロン』一の天才だって専らの噂じゃねぇか」
「フン、ソレハラビーレマノ企業ガ商品ノ宣伝ニ都合ガ良イカラト言ッタダケダ」
「……つか、ちょっと聞いて良いか?」
「ん?」
「何ダ、ツジラ殿」
「お前さん方さっきから『サイレントアビス』だの『デスサイクロン』だの、脳味噌足りてねぇで厭世気取ったバカ中坊が聞いたら『厨二病乙wwwwwwwwwwwwwwwww』とか抜かしそうなその異名は何だ?」
「それについては儂に説明させてくれんかの」
等と言いつつタイミングを見計らうかのように現れたのは、質量と体積で周囲の全てを圧倒する象系禽獣種の老人だった。過去に何があったのか、右の牙が思わせぶりにへし折られている。
「儂の名はエーカダンタ。元アクサノ陸上防衛隊陸将兼、初代『レイジアース』だった者じゃ」
「り、陸将!? 陸将って要するに将軍の事よねリューラちゃん!?」
ニコラは妙に取り乱しながら言った。ノモシア王族には平然と喧嘩を売る癖に、前に現れたのが他大陸の防衛隊将官だと判った途端何故こうも取り乱すのだろうか。
「おー、そうだなー」
そして何故か気の抜けたような喋りのリューラもリューラである。
「そうだなーってアンタ、陸将でしょ!?」
「だから何だよ。将軍っつったって馴染むとそんなビクつく程でもねーよ。
現役時代上官に連れられて飲みに行ったり、上官連れてゲーセン巡りした私が言うんだ間違いねぇ」
「いや、それはそれでアレなんじゃねぇか? まぁニコラ、とりあえず落ち着け。……それでご老体、説明とは?」
「うむ。アクサノ防衛隊には古くより各分野で華々しい活躍をした者を『英傑』と定め、その者に称号を授与するという制度があっての」
『列甲大学で言う「不動の歯車」のようなものですね』
「成る程ねぇ。そういう事か」
「称号は全部で六つあり、それぞれ所属や技能によって異なる称号が与えられるのじゃ。例えば海上防衛隊の英傑は『静寂深淵部』、航空防衛隊なら『死神大暴風』、陸上防衛隊なら『激昂地表面』とな」
「残る三つは如何なる英傑が授かるのです?」
「『煉獄紅炎』は鉄砲や爆発物といった飛び道具の達人、『光輝聖霊』は参謀や指揮者、衛生兵など善戦に立たぬ者の内での英傑に与えられるのじゃ。ただ、『暗黒魂魄』という称号だけは何を基準にしておるのかわからんのじゃがな」
「そうだったのですか。という事は……」
「ソウダ。エーカダンタ老ハ嘗テ陸上防衛隊ノ陸将トシテ、天災ヤ海神教ノ脅威カラ人々ヲ守リ続ケタ英雄ダ」
「英雄と呼ばれるような事は何もしとらんよ。それより神官殿、調査の結果報告とやらを続けてくれんか?」
「はい、畏まりました。先程も言うように、クンビーラ氏による捨て身の献身もあり、敵の出現位置や大まかな形態に関するデータを得ることに成功しました」
かくして対廃洋館戦に向けての作戦会議が始まった。
次回、閑話休題で過去話!