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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン4-アクサノ編-
100/450

第百話 クリーチャー×ヤングマザー




記念すべき百話めの主役はあの勢力だ!

―前回より―


【時にイリーさん】

【何です?】

 内壁が繊維状の樹脂らしき物質によって固められた謎の通路を進むのは、二匹のよくわからない風貌の生物達――青いアシナシトカゲのような風貌のイリーと、赤銅色をしたヒューマノイド型のペイジであった。

【妖木が枯れ落ちたと聞きましたが、何かあったのですか?】

【妖木と言うと、我が家の近くに生えているあの口ばかり達者な張りぼての事ですね? 奴なら確かに枯れましたよ。諜報部からの報告によれば、同じ頃に付近でツジラ一味も目撃されているようです】

【ツジラ一味も? という事は、奴を殺したのも……】

【十中八九ツジラかその手の者でしょうね】

【しかし奴にはアレがあるでしょう? 何と言ったかな……そう、あれは確か…】

【『ヴァーミン』ですね?】

【そうそう、それです。奴はその『ヴァーミン』によっていかなるものも無差別に眠らせて動きを奪う力を持っていたはずですよね? 更にその力は絶対的であり、一度攻撃に遭えば何者にも抗うことを許さず、眠りに落ちれば決して目覚めないという……】

【えぇ。しかしツジラ一味はその『絶対的な眠りの力』をもかいくぐり、挙げ句妖木を破殻化へと追い込んだ挙げ句に殺害した、と。そういう事でしょう】

 イリーはリューラがアルポを殺害したことについて、実に軽々しく言い表した。

【……『そういう事でしょう』なんて軽々と言いますけどねイリーさん、これは大変な事ですよ? 確かに妖木は我々からすれば無能の他に言い様が無いような奴だったでしょう。しかしそれでも、あれが我が家にとってセキュリティシステムの役割を果たしていた事は確かなのです。それが無くなった今、いつ何時何者が攻めてくるやら……】

【あー、判らなくはありませんね。カイゼルさんやヴィクターさんからは『考えすぎ』とか『そんなんでどうする』とか言われそうですが】

【どうしましょうかねぇ……】

 等と語らいながら二匹が進んでいると、ふと側面の扉から一人の少女が現れた。見たところ有角種と思しき彼女の年齢は約15から17歳程度と思われ、明るいピンク色のショートヘアは薄暗い通路でもそれなりに目立っている。

「あ!誰かと思ったらペイジにイリーなのだ! お早うなのだ!」

【母上様、お早う御座います】

【お元気そうで何よりです。母上様】

「うむ! 僕は大概何時でも元気なのだ!」

 歳不相応に幼いような喋りの少女に、二匹は堅苦しい敬語で接する。それもその筈、彼女こそ九十話で言及されていた『母上』なのであった。何故このような少女がイリーやペイジのような存在から母として認識され、更に親子というより主従のような会話を繰り広げているのかについては、また後程言及することとする。

「それにしても二人とも、さっきはなんの話をしていたのだ?」

【いえね、何でも妖木が殺されたらしく】

「ええっ!? あの妖木が?一体何処の誰がそんな事をしたのだ?」

 少女の話し口には怯えや怒りなどというものが見受けられず、単なる純粋な好奇心と驚きだけがあった。

【それがですね……調査に当たっていた部隊からの報告によれば、妖木殺しの犯人はあのツジラ一味であるという説が濃厚なのですよ】

「ツ、ツジラ一味!? まさかツジラがうちの近所に来てるの!?」

【妖木殺し云々以前に、我が家の近辺でツジラ一味が目撃されているのは確かなようです】

「ほほー。それは凄いのだ。だとしたら次のツジラジはうちでやるかも知れないのだ! 楽しみなのだ!」

【楽しみって……事の重大さをお分かりですか!?】

【相手はあのツジラ・バグテイルですよ!? 我々が殺されるならまだしも、万が一母上様の身に何かあったら……】

「二人とも心配しすぎなのだ。確かに僕も内心ツジラは恐いけど、でもだからこそその恐怖を乗り越えた先に行ってみたいのだ」

【しかし母上様……】

「イリーが昔僕に勉強を教えてくれた時『この世の中で絶対にこうと言い切れる事はない』って言ってたけど、確かにそうなのだ」

【と、言いますと?】

「例えば、今でこそ僕らはここに住んでいられるけど、それが絶対にずっとだなんて言い切れないのだ。これから先を生きていく以上、昔より辛いこと、悲しいこと、苦しいことが山のように待ち構えてるかも知れないのだ。でもだからこそ、僕らはそんな状況でも戦い抜いて行かなきゃいけないのだ。カイゼルは言ってたのだ。『満足できないまま死ぬのはとても不幸な事だ』って。キュリオは言ってたのだ。『逃げることは大事だけど、逃げたっきりは駄目だ』って。ヴィクターは言ってたのだ。『敵は恐れるべきものであり、乗り越えるべきものでもある』って。だから思うのだ。結果がどうなっても、僕はツジラと戦わなきゃいけないんだって。僕はみんなのお母さんだから、みんなに守られたり助けられたりしてばっかりじゃ駄目なのだ。だから僕はツジラと戦うのだ。絶対に勝つなんて大それた事は言えないけど、全力を尽くすのだ」

【母上様、宜しいのですか?】

「僕はそれで大丈夫なのだ。それにペイジ、『辛いときこそ笑って楽しめ』って言ったのは、他でもない君自身なのだ。だから僕は、ツジラと戦う事を楽しみに思うようにしたのだ。どんな事をされてもへこたれないとか、死んでもみんなを守り抜くとか、そういう覚悟は怖くて出来なかったけど、でも僕は『とりあえずその事だけは』と思って覚悟を決めたのだ」

【母上様……貴女という方は……】

「イリー、ペイジ、ちょっと早いけど僕のお願いを聞いてくれる?」

【はい、何なりとお申し付け下さい】

【絶対にとは言いませんが、力の限りを尽くしましょう】

「これは今夜、会議でみんなに言おうと思ってた事なのだけど……僕と一緒に、ツジラと戦ってほしいのだ」

 その言葉を受けた二匹は、少女に敬礼しながら言った(手足の無いイリーはとぐろを巻いて尾で敬礼した)。

【【勿論で御座います、母上様!】】

【我等の命四割、全て母上様の為に!】

【我等の命四割、全て己自身の為に!】

【【そして残る二割、我等が絆の為に!】】

【【血族の誓いを!】】

「二人とも、ありがとうなのだ……」

 かくしてその夜を皮切りに、母上と呼ばれる少女を頂点とする廃洋館の勢力は対ツジラ戦の為の準備を開始した。

次回、遂に廃洋館戦か!?

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