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ヴァーミンズ・クロニクル  作者: 蠱毒成長中
シーズン1-ノモシア編-
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第十話 彼女も同類




またもや明らかになる事実。そのヒントは、タイトルにあり

―前回より―


 繁と香織は、ニコラに全てを打ち明けた。自分達の本名から、詳細な生い立ちや、その活動目的まで。ニコラもある程度の情報は得ていたようで、指名手配班辻原繁についての情報は既に持っていたという。

 しかし彼女は繁を罪人だとは思っておらず、寧ろ王族主導で行われる政治体制に対して否定的だった彼女は、繁の行動を寧ろ賞賛する意向を示した。

 それどころか、度重なる王族批判により政府からの圧力を受け開業医としての立場を追われ、更に命を狙われる等、自業自得とはいえ散々な目に遭っているニコラは、二人に協力したいとまで言いだした。

 最初は驚いていた二人だったが、その真っ直ぐな志や資質は繁の立てた計画の人員としては十分採用に値するものであり、拒否する理由は見当たらなかった。

「それにしても驚いたよ。まさか異世界人がヴァーミンの有資格者になるなんてね」

「おや、ヴァーミンをご存じで?」

「ご存じだよ。っていうか敬語やめてよ。これから一緒に戦っていく仲間なんだしさぁ、私だって心は子供のまんまなわけだし」

 ニコラの主張を受けた繁と香織は、彼女の意見を採り入れることにした。

「そう……か。ではニコラ。お前はヴァーミンについて、どの程度知っている?」

 その問いかけに、ニコラは誇らしげに答えた。

「基礎的な事は大体全部知ってるね。何せ私……」

 そして彼女は白衣の右袖をまくり上げ、白い細腕をさらけ出す。その二の腕を見た二人は、驚きの余り言葉を失った。

「ヴァーミンの有資格者だからさぁ」

 等と言うニコラの右二の腕には、黒い蛾のような紋章が描かれている。

「『ヴァーミンズ・トリー タセックモス』。ドクガの象徴を持つ三番目のヴァーミンだよ」

「ドクガか…しかし驚いたな。まさかこんな近くに同類が居たなんて……」

「まさか、繁に近付いたのもそれを察知したから?」

「その通り。ヴァーミンの有資格者は、その気になれば互いの存在をうっすらと認識できるようになるの。そうしてなくても、無意識に過ごしてたら何か人が寄ってきて、気が付いたらこの人有資格者だって事もあるらしいし」

「そうか。それは良いことを聞いた。有り難うよ、ニコラ」

「ん?何が?」

「判らんか?ヴァーミンは只でさえ凶悪な能力だ。そしてその有資格者はまだこの世界に八人も居る。全ての有資格者と協力的な関係を維持できるとは限らんし、生い立ちや職業、種族とてピンキリだ。そんな状況下なら、同類を意図的にサーチ出来るという性質は実に有り難い。協力的な同類は早く出会って仲間にするに限るし、敵対的な同類は早々に狩る事が出来るからな」

「確かに一利あるね、流石繁」

「止せ、香織。こんな事誰だって思い付く。それより問題は、初回の作戦での動き方だ」

「あ、初回の作戦の現場決まったんだね?」

「無論。下見もしっかりしてきた」

 繁はテーブルの上に、ルタマルスで手に入れたジュルノブル城の見取り図を展開した。見取り図は所々カラーペンで加筆が施されており、繁の私的な憶測や作戦内容の片鱗が見て取れる。

「今回の現場はルタマルスの首都ジュルノブルに居を構える王族・アイトラス家の住まうジュルノブル城。メインターゲットは当然当主エスティとイルズの夫婦だが、それ以上に重要なのは娘のセシルだ」

「セシル・アイトラスねぇ、白金色をしたロングヘアと整った顔立ちに青い瞳が特徴的な15歳だっけ?」

「あの乳見たら普通20歳くらいには思っちゃうけど、でも15歳なんだよねぇ」

「そうだ。ガイドブックにも顔写真とプロフィールが載るくらいの有名人、それが王女セシル・アイトラス……そしてこのガキには、髪だの身体だの目玉だの、そんな事よりずっと重要な特記事項がある。何か判るか?」

確かに、何か重要な事があったような気がした。しかし二人はそれを思い出せず、首を横に振る。

「まぁ、お前等は俺と違って暇じゃないから仕方ないな。セシル・アイトラス、奴にある重要な特記事項……それは、奴の種族だ」

「種族?それってどういう事?」

「アイトラス家は代々高純度の霊長種でしょ?」

「如何にも。アイトラス家は霊長種としての血統を維持するために、緊急時には近親婚が認められるほど人種に五月蠅い。食や医療に関する分野も独特で、調べた限りだと、毎日決まった時刻に魔術で加工したケトゥスペールを炙って吸ったり、硫化水銀や獣骨、魚の肝臓や竜種の胆汁なんかを調合した精力剤が代々伝わってたり、料理に砕いた真珠や水晶を混ぜたもんを毎日食べてるんだと」

 ケトゥスペールとはカタル・ティゾルの海に棲息するフナダマクジラという巨大なハクジラの腸内に発生する蝋状の結石であり、一般的には天然香料として高額で取引されている。

 言ってみれば現実世界の龍涎香(リュウゼンコウ)に等しいものであり、貴族や政治家等の金持ちが私用で買い求める事で有名である。その上、カタル・ティゾルでは研究のための調査目的や、害獣指定され駆除が認められている地区以外での捕鯨が禁止されているためケトゥスペールの希少度は鯨肉と並んでかなり高く、オークションにて億単位で落札される事も珍しくなかった。

「で、だ。そんな事してるのはカタル・ティゾル広しと言えどアイトラス家ぐれぇでよ、その上上層部の延命や治療の為に魔術を平然と使うような連中だ。そんな事になってりゃ、幾ら純粋な霊長種だろうと、何かしらの変異が生じて亜種が産まれても文句は言えん。事実カタル・ティゾルは同性愛や近親婚について比較的フリーな傾向にあるからな。ある豹系禽獣種の兄妹が近親婚の末に産んだ子供は、親と似ても似つかない毛色かつ尾が三本もあったという」

「その事なら時代柄大学じゃ習わなかったけど、最近の医学書でなら読んだことあるよ。他にも、回復魔術を頻繁に受けていた霊長種の母親から角の生えた子供が産まれたケースもあるみたい」

「それ以外にも、先天的な遺伝子変異で親と違う姿になったりっていうケースは昔からあるらしいよ。それが一つの血筋として繋がってることもザラらしいし。確か、『亜種血統』だっけ?禽獣種や羽毛種なんかだと顕著なんだよね」

「流石だな二人とも。で、調べた所によると、だ。セシルも霊長種の『亜種』であるらしいという事が判った」

 二人はその言葉を聞いて、どの道色白で耳が三角形かつ比較的細身で美形になる傾向にある尖耳(せんじ)種や、頭に角を持ち身体能力の高い有角種であろうと考えていた。しかし二人の予想は裏切られ、また二人は度肝を抜かれることになる。

「どうせ二人とも、尖耳か有角だと思ってんだろ?だがな、奴はそんな甘っちょろい亜種じゃねぇんだ。あのガキ、セシル・アイトラスはな……飛姫(ヒキ)種なんだよ」

 二人は絶句した。

飛姫種とは一体何なのか…?

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