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第二十三章 決別 Ⅱ

「ドラゴン騎士団よ、我が配下となれ」

「な、なんだと……」

 こんなときになにを言うかと、コヴァクスは怒りで胸が張り裂けそうだった。

「オレは、前々からお前たちがほしいと思っていた」

「ほしい、だと」

「そうだ。さらに言おう、ニコレットよ、我が妻となれ」

 シァンドロスの突然の告白に、ニコレットは心臓が口から飛び出しそうなほど驚いた。

 このどさくさに紛れて、この男はなにをいうのだろう。

「オレは覇道を突き進み、タールコに劣らぬ大帝国を築くのが夢だ。ドラゴン騎士団よ、我が配下となり力を貸せばその夢も実現もたやすくなる。無論、そなたらは重く用い、国もくれてやろう」

「ふ……」

 ふざけるな、とシァンドロスの言いようにコヴァクスは拳をふたたび握りしめ、いまにもぶつけようとした。が、龍菲が腕を押さえ、首を横に振った。

 振りほどこうとしたが、動かない。彼女の体得してる不思議な武術によるものか。

「いやです」

 毅然と応えたのはニコレットだった。

「私たちが願うのは、あなたのような帝国主義ではない。同じ道を歩むことは、できません」

 色違いの瞳は、シァンドロスをとらえて映し出し。今にも燃え上がらんがばかりに輝いている。

「そうだ。オレたちは、欲望のために戦ってきたんじゃない!」

「甘いな」

 間髪入れず、シァンドロスは兄と妹の言葉を一蹴した。

「そうだよ、甘いよ。だからあたしは、あんたたちと別れて、シァンドロスについたんだ」

 と言うのはバルバロネだった。

 かつては、わずかな間でも行動をともにした仲だった。

 バルバロネの、コヴァクスとニコレットを見る目は、厳しくも冷たい。しかも、平然とコヴァクスに剣を向けた。

「きれいごとの理想主義でなにができたってんだい? 反乱を起こされるなんて、所詮その程度のものじゃないか」

「……」

 コヴァクスとニコレット、悔しさのあまり言葉も出ない。

「目を覚ませ。現実を見よ。お前たちの志は見上げたものだ。しかし、苦難の壁を打ち倒したところで、また起き上がって立ち塞がってしまうではないか。壁は完膚なきまで、砕かねばならぬ。お前たちは、それがわかっていない」

「お前の配下になれば、壁は砕けるというのか」

「そうだ。砕けるよう、差配してやる」

 コヴァクスとニコレットの脳裏に、それまでのシァンドロスのことがよぎる。敵を討つに容赦なく。破壊に殺戮もいとわぬ。配下になるということは、シァンドロスの片棒を担ぎ、ドラゴン騎士団も破壊と殺戮にくわわるということだった。

 ガウギアオスの戦いで連合を組みともに戦うことも、葛藤があった。それでもともに戦ったのは、タールコに勝てるなら、という、この一点につきる。

 タールコに勝ち、弾みをつけてリジェカの国の勢いをつけ、征服された地の奪還をし、オンガルリを復興させる。

 その悲願が、夢が叶えられるなら、と思っていた。

 しかし、甘かった。

 シァンドロスは、ドラゴン騎士団を利用したのだ。

「お前と組むことはできない」

 コヴァクスは毅然と言い。シァンドロスは、

「ほう」

 と、そっけなくかえす。 

「オレたちとお前は、対等だという約束をかわしたはずだ」

「ああ、した。約束は守ったぞ」

「それが、弱みにつけこむような真似をするなど、見損なった」

「そうか」

 シァンドロスも、自分が弱みにつけこんでいることはわかっているようだった。案外、そっけなくも、コヴァクスとニコレットの言い分を素直に聞いているようだった。

 が、臣下一同は黙ってはいない。

「お前たち、王がせっかく助けてやろうというのを、断るというのか」

「王直々のお誘いだぞ。それを無礼にも、振り切ろうというのか」

「そもそも王に拳を見舞ったのを、お咎めなさらぬのだぞ。そのような寛大なお方であるにもかかわらず」

 ペーハスティルオーンにイギィプトマイオスは、口々にコヴァクスとニコレットを批判する。臣下から見れば、コヴァクスとニコレットが信じられない思いであった。一時、行動をともにし、それなりに力量を認めてはいたが、それももうなしだ。

「な、な、なによ! 大変なことを黙ってて、弱みにつけこもうとして、それで家来になれなんれ、な、なれるわけないわよ! ひひ、卑怯よ!」

 セヴナは怒りのあまりろくにろれつも回らないまま赤い口を開けて、ペーハスティルオーンにイギィプトマイオスにかみつくが。

「お前は黙っていろ!」

 ダラガナに叱られ、頬を赤く膨らまして口を閉ざしたが、頭の中がかっかするのはおさまらない。

 コヴァクスも同じだった。何発でも、拳を見舞ってやりたい思いだった。

 ニコレットも、シァンドロスを許せるわけもないし、ましてや妻になり受け入れるなど到底できることではない。

 告白をされたのは生まれて初めてだったが、まさかこんなかたちで告白をされようなど、女としても屈辱だった。

 シァンドロスが愛情よりも征服欲からニコレットを欲していることは、いやでもわかった。

「もう、私たちはあなたたちと行動をともにすることはできません」

「では、これよりは敵である、ということか」

「そうだ!」

 コヴァクスは、シァンドロスと敵同士となり戦うことに躊躇はない。それこそまさに一触即発だった。

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