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第二十三章 決別 Ⅰ

 都メガリシへ向かっていた伝令将校は反転し、トンディスタンブールへと急ぎ馬を駆けさせた。

 出征中の反乱。

 あってはならぬ事態である。なぜかはわからぬ、しかし起こってしまったことは事実なのだ。

 リジェカ・ソケドキア両軍はそれこそ、明日にでも出征しようと支度を整えていたところだった。伝令将校は天宮に向かって駆け、コヴァクスとニコレットに目通りし、事の次第をつとめて冷静に伝えた。

 丁度ソシエタスにダラガナ、セヴナに龍菲もいた。

「ほんとうか!」

 コヴァクスとニコレットはたいそう驚き、伝令将校に何度も聞き返した。だが返ってくるこたえは、

「ほんとうです。あろうことか、カルイェンどのが反乱を起こし、都は制圧されています。そのために難民も出る有様」

 というものだった。無論、ソシエタスらも、まさかと驚きにわかに信じがたかったのは言うまでもない。

「そんな、そんなことって……」

 ニコレットは金色の眉をしかめた。

 コヴァクスも同じように眉をしかめ、歯を食いしばっている。

 伝令将校は嘘を言っている様子はない。休む間も惜しみ馬を飛ばし、息を切らし、彼自身も歯を食いしばり身もだえするようなそぶりを見せていた。

 伝令将校は繰り返し、自分が見てきたことをひたすら伝えた。急いで本国に戻って反乱軍を鎮圧せねば、リジェカが滅ぶかもしれない、と。

 コヴァクスはううむとうめいた。悲願の達成があと一歩にまで迫ったときに、なんということが起こってしまったのだろうか。

 ともすれば、元の木阿弥ではないか。

 コヴァクスとにニコレットらは急いで、臣下らと東方遠征の軍議をしていたシァンドロスに面会した。 

「火急のことにて、軍議の邪魔をしてしまったことは詫びよう。シァンドロス、話すことがある」

「火急のことだと」

「そうだ……」

 コヴァクスにニコレットの顔は冴えない。付き従うソシエタスにダラガナ、セヴナも同じだった。龍菲ロンフェイは静かに後ろに控えている。

 シァンドロスはあいかわらずの、不敵な笑みをたたえている。コヴァクスは、いい気がしない。

「火急のこととは、どうしたというのだ」

「それが……」

 本国で反乱が起こった、というのを告げるのは、とても重い。すぐにはきはきと言えることではなく、コヴァクスは思わず言いよどんでしまった。それを見てシァンドロスは、不敵な笑みを見せながら、

「反乱が起こったのか」

 と言った。

 コヴァクスとニコレットははっとして、シァンドロスを見据えた。冗談で言ったのだろうが、たとえ本当のことであれ、いい気持ちではない。

「……。そうだ」

「やはりな」

 その言葉に、コヴァクスとニコレットははっとした。まるでリジェカで反乱が起こるのを前もって知っていたようではないか。

「やはり、だと。お前、知っていたのか」

「そうだ」

 そっけないシァンドロスの応え。コヴァクスとニコレットは、絶句。

「リジェカにも斥候をはなち、さぐりを入れたのだが、そこでカルイェンとやらが反乱を企てていることを知った」

 コヴァクスとニコレット、目を見開きシァンドロスを凝視する。

「知っていながら、なぜそれを言わなかった」

「あやまりかもしれず、まさか本当に起こるとは思わなかったのでな。言うまでもない、と思ったのだ」

 コヴァクスはシァンドロスに詰め寄り、咄嗟に拳を握りしめると。その頬に、拳をぶつけた。

「あっ!」

 バルバロネにペーハスティルオーン、イギィプトマイオスは剣を抜き、コヴァクスを取り囲む。それに対し、咄嗟に龍菲はコヴァクスに並び、掌を見せ武功ウーコンのかまえをとる。

 頬は赤く腫れて、口の中を少し切ったか、わずかに口元から血をたらしつつもシァンドロスの不敵な笑みは消えず。

「やめよ。剣をしまえ!」

 と臣下に言った。

 王の命令で、やむなく剣をしまいつつも、コヴァクスを見据える瞳は厳しい。龍菲も相手が剣をしまうのを見て、落ち着いた顔で後ろに下がった。

「国家の一大事だぞ! それを、そんなことで黙って、オレたちを戦争に駆り立てたのか!」

「タールコとの戦いには、お前たちの力がどうしても必要だったからな。だから勝てた」

「リジェカが滅べば、その勝利も意味をなさぬでしょう」

 ニコレットは色違いの両の瞳をいからし、シァンドロスを見据えて激しく詰め寄った。

 口元の血をぬぐい、シァンドロスはふっと笑いつつ、コヴァクスとニコレットが見据えるのもお構いなく不敵な笑みを浮かべるばかり。厳しい視線はソシエタスとダラガナ、セヴナも同じだった。

 それこそ、連合軍は一触即発の危うい空気に包まれていた。

「リジェカが反乱によって滅ぼうとも、また取り戻す手立てはある」

「お前が言うな!」

「まあ、聞け」

 そのとき、シァンドロスの瞳は異様な光を放ち、その眼差しはニコレットに強くそそがれてもいて。

 ニコレットは、背筋に悪寒が走るのを禁じえなかった。

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