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第二十一章 反乱 Ⅳ

 反乱によりメガリシは無法地帯となり、民は歎いた。城も荒れ放題に荒れた。

 だが民の歎きをよそに、カルイェンとヂシラッカは、反乱の成功を喜んだ。

 荒れた広間をなおさせて、そこで近しいものと祝宴をひらいたのだ。

「これで、リジェカはよき国となりましょう」

「うむ。リジェカは、まこと優秀なリジェカ人のみによって治められなければならぬ。異邦人を軍に迎えるなど、もってのほかであるが、あのモルテンセンはあろうことかそれをし、さらに国を売ろうとしていた」

 カルイェンはもはやモルテンセンを呼び捨てにしていた。もう、王とは思っていない。

「あやうく、国がドラゴン騎士団に売られるところでござったな」

「まったくだ。ドラゴン騎士団などにたぶらかされ、リジェカを利用され、挙句の果てにはオンガルリの属国にされようとしていたのだ」

 機嫌よく話すカルイェンであったが、モルテンセンを討ち果たせなかったことが心残りのようだ。

「モルテンセンはメゲッリの治めるフィウメに逃げ込んだようだ。都に秩序を取り戻したあかつきに、軍容をととのえ、フィウメを攻める」

「御意」

 陽が暮れゆくにつれて、乱痴気騒ぎもおさまりつつあった。カルイェン直属の騎士たちが刃を振りかざし、反乱の兵に略奪をやめさせているのだ。反乱の兵も腹いっぱいに暴れて、素直に従った。

 この反乱、ドラゴン騎士団がリジェカ軍の頂点にすえられてから考え付いたものだ。

 都の郊外に邸宅を構えるカルイェンは内戦のとき、どこにもつかず、中立の立場をとっていたが、リジェカがひとまずの落ち着きを取り戻したとき、王に乞われて内政に関わるようになったのだが。

 ドラゴン騎士団、赤い兵団がリジェカ軍にいることに、最初から強い違和感を覚えていた。

 それのみならず、違和感は日に日に強くなり、心の中で反乱を思い描くようになった。

 リジェカはリジェカ人だけのものであるべきだ、と。さらに、そこに優秀な、とつくようにもなった。

 先の王、ポレアスの無能ぶりをみていたカルイェンは、無能な者に国を治められぬと見ていた。そこから、優秀なリジェカ人が国を治めるのがよい、と思うようになった。

 さてどうするべきか、と考えていたときドラゴン騎士団に赤い兵団をはじめとするリジェカ軍が出征することになった。

(国をただすは、まさにいま)

 意を決したカルイェンは反乱を起こし、王を殺し、リジェカをただすのは今、とその本性をあらわしたのだ。

 まずは己が城に入り、王に会い、隙を見て暗殺する。

 それから、副官であるヂシラッカが二千の兵を率い。まず郊外に千の兵を起き、千の兵で都に入る。

 都の人々はリジェカ軍の都入りを怪しまなかった。またどこかに出征をするのだろうか、と思っていたが。それが突然、城門を破り城内になだれこみ、さらに人々に刃を振りかざし襲い掛かったのだ。

 まさかそんなことをすると思わなかった城兵に都の人々は虚を突かれ、一方的にされるがままであった。

 かくして、王は逃げ、都は無法地帯となり。反乱は成功した。

 

 一夜明けた。

 略奪暴行、殺戮は反乱の日のみであると取り決めがなされていたので、反乱の兵はしぶしぶながらそれに従い、翌日にはおとなしくなって、戦利品をかかえて、ところどころでいびきをかいて惰眠をむさぼっていた。近くに無念の表情でよこたわるしかばねがあっても、おかまいなしである。

「起きろ!」

 とヂシラッカをはじめとするカルイェン直属の騎士たちが、惰眠をむさぼる反乱の兵をたたき起こして回った。

 反乱の兵はあくびをし、目をこすりながら起きれば。

「おまえたちの遊びの後始末をしろ。かばねを郊外に埋めろ」

 と言うので、しぶしぶ言うとおりにして、戦利品を背中に背負ってしかばねを郊外にはこび、穴を掘ってそこに埋めた。

「やめてくれ、せめて自分たちにちゃんと弔わせてくれ!」

 都の民の中には、自分たちの手で犠牲者をとむらってやりたいと申し出るものもいた。だが、

「うるさい!」

 怒号とともに刃がひらめき、弔いを申し出る民はその餌食となって、郊外に埋められてゆくのであった。

 もはや問答無用だった。

 さらに男手を狩り出し、剣をつきつけながら、荒れた都の清掃にあたらせた。

 陽が中天にさしかかるころ、清掃もひと段落つき、城の前の広場に人々が呼び集められ。その周囲を反乱の兵が剣や槍をつきつけ、とりかこんでいた。

 人々はこれからなにが起こるのか不安な表情で、周囲を見渡していた。

 城は人々の気持ちを見下すように、そびえたっていた。

 演台が設けられて、そこに騎士たちの護衛つきで貴族らしき男がのぼる。いうまでもないカルイェンである。

 カルイェンは演台にのぼり、人々を見下ろし見回し、満足げにうなずくと、大口を開き演説を始めた。

「メガリシの民よ。新たしい時代が来た」

 最初の一言がおこると、人々はざわめいた。新しき時代とは、なんだ、と。

「新しきリジェカをつくり行くために、まことの国造りのために、私が王となって新生リジェカを統べる!」

 カルイェンの王となるという宣言に、民衆はさらにざわめいた。

「黙れ、黙らんか! でなければ、斬るぞ!」

 反乱の騎士や兵は刃をもって、民を無理矢理に黙らせた。

「先の王は、いや、モルテンセンなる売国奴はドラゴン騎士団と手を結び、国を売った。良識あるリジェカ人として、これが許せるだろうか!」

 馬鹿な、と言う声がした。途端にそれを言った者は引きずり出され、問答無用で首を刎ねられる。

「リジェカは、リジェカ人だけのものである! いや、リジェカの生まれとて、無能な者はリジェカ人にあらず。そして、異邦人もいらぬ。優秀なリジェカ人のみによって、新しきリジェカをつくりゆくのだ!」

 カルイェンは拳を握り手を振り上げながら力説した。民は固唾を飲んで黙って聞くしかなかった。

 今ごろは、出征しているリジェカ軍がガウギアオスにてタールコ軍とわたりあっているであろう。そんなときに、この男は何をしでかし、何を言っているのだ。そう思う者が多数いたが、逆らえば命はないので、黙っているしかなかった。

(狂っている)

 多くの人々が、そう思った。本国でこのような混乱があれば、ガウギアオスの戦果がどうあれ、タールコに攻め込まれてしまうのではないか。素人でも思いつきそうなものだが、カルイェンはそんな思いはなかった。

「タールコとて、優秀なリジェカ人が結束すれば、赤子の手をひねるようなものである。負けることはない。来るならば、来るがよい。リジェカ人がいかなるものか、やつらに思い知らせてやろうではないか」

 演説がすすむにつれ、民の感じる狂気と恐怖の度合いが増していった。 

 立場ある者が、夢想にとりつかれるとどうなるのか。それは昨日さんざん思い知らされたばかりだった。

 カルイェンは民が不安げにおのれを見上げるのを満足そうにながめていた。良君とうやまれるよりも、暴君として怖れられる方が嬉しいのかもしれない。

「よき国造りとして、まずは。民を、優秀な者と、無能な者、異邦人とにわけねばならぬ」

 言っている意味がわからない。わけるといっても、人は千差万別であるし、多民族地域で混血もすすんでいるこの地で、どうやってそんなことをするのだ。

 すると、神父がひとり、杖をつきながら演台にあがった。民の中には、ああ、と歎きのため息を漏らす者が多数いた。

「これなるは、異端審問官なるヴォローゾ神父である。このヴォローゾ神父をはじめとする、異端審問官らに、まことのリジェカ人と、そうでない者の選別を任せる」

 ヴォローゾ神父は白髭をはやし白髪頭の老年の神父だったが、その目は異様にぎらついていた。この神父、かつてはメガリシのある教会の神父をつとめていたが。悪魔祓いと称し、人を火であぶることを好み、人々から怖れられていた。

 身分の高い者に取り入るのもうまく、先の王ポレアスもヴォローゾを庇護していた。それが、モルテンセンの代になって、あまりにも乱暴な悪魔祓いをすることを理由に追放されたはずだった。

 が、どうやらカルイェンのもとに逃げ込み、庇護を受けていたようだ。

 ヴォローゾの横に控える弟子の神父の手には、大理石でつくられた白く細く背の高い、杖のような燭台が握られていた。

 ヴォローゾ神父は火打石を懐から取り出し、その燭台に火を灯せば。火は燭台のうえ、赤々と燃え上がった。

「これは、神の火である。神がゆるしたまい、この火に焼かれることがなければ、その者はまことのリジェカ人である」

 民は騒然となった。カルイェンは唇をゆがめ、いよいよ満足そうに人々を見下ろしていた。

「もしこの火に焼かれる者あらば、それは無能な者、異邦人であり、神の生け贄となって処刑されるであろう!」

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