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第二十章 帝都落つ Ⅲ

 リジェカ・ソケドキア連合軍がトンディスタンブールに入ってから、数日が経つ。

 勝利の喜びも束の間、次の戦いの準備である。新しい武具や、兵糧の調達。従軍兵士の休養、新兵の訓練。トンディスタンブールの市民が妙な気を起こさぬように都市の平和を約束し、納得させるための慰撫など。やることはたくさんある。

 その間、龍菲はどうしただろう。

 隠れることはしなかった。龍菲の存在自体、隠すに隠せぬものになっていたから。だが、積極的にコヴァクスらと関わることもしなかった。

 天宮も性に合わぬと出て、適当にトンディスタンブールをほっつき歩き、夜も適当な宿を探してそこで寝た。

 ただこたびの出征、リジェカ側についてゆくことは、心のうちで決めていた。 

 ソケドキア側には、ついてゆこうとは思えなかった。シァンドロスの怒りによって破壊されたアノレファポリス跡でしばらく過ごせば、そうなるであろう。

 ある晩、夜の帳がおちるころ。リジェカ・ソケドキア両軍は以後どのような進路で進んでゆくかを天宮で話し合っていた。

 それぞれ、東西の進路を地図を指し示しながら。

 シァンドロス率いるソケドキア軍は直接エグハダァナにゆく無理はせず、周辺の街や都市を一つ一つ征服し勢力を着実に拡大させながらの行軍になるであろうと言う。

 ドラゴン騎士団・リジェカ軍といえば旧オンガルリにおもむくのは言うまでもなく、ガウギアオスでの戦いを伝え聞いた現地のタールコ人代官は恐れをなし、旧オンガルリ地域の貴族・豪族。あるいはヴァラトノに残存しているドラゴン騎士団の騎士たちも立ち上がるかもしれない。そうなれば戦いを有利に進められるというものだ。

 オンガルリの奪還がなれば、次は旧ヴーゴスネア地域の奪還にゆく。

 軍議の間、コヴァクスとニコレットは感慨深げに、オンガルリ王国再興の大願を胸に描いていた。

 龍菲はこの席にはいない。一介の一武術家の身であることを自覚し、戦いが終わってから必要以上に目立とうとはせず、人との接触も極力避けてきた。が、この晩は珍しく天宮におもむき、宮殿の外で夜空を見上げながらひとり物思いに耽っていた。

 人と接触はせぬとはいえ、あれだけ人目についた彼女のこと。将兵たちのかっこうの語りぐさとなっていた。

「私もどうかしたわ」

 夜空に向かい、ぽそっとつぶやいた。

 義によって、とはいえ、なぜコヴァクスに味方する気になったのか、自分でもよくわからない。

「いいかしら?」

 セヴナだ。堅苦しい軍議の席には出ず、彼女は心おもむくままに天宮をほっつき歩いていた。そのときに龍菲を見かけ、気になって、来たようだ。

 龍菲は人とまじわろうとしないところから、孤独を好む性格かと思われた。ならでしゃばった真似をしてはいけないか、と思うものの、はるか東方の帝国・マオの者であるということが好奇心を湧き上がらせ。同じ女同士、話せばなにか通じるものがあるかもと思って、声をかけた次第。

「ええ」

 龍菲は赤毛の少女が自分を興味津々と見つめるのを見て、ふっと柔らかく笑みを浮かべた。好奇心が赤い瞳を輝かせている。が、嫌な気分はない。セヴナはいたずらに人に悪意や敵意を抱くような、心の狭いところはない、というのは、その瞳からうかがい知れた。

「昴から来たんですってね。よかったら、昴の話を聞かせてもらえないかなあ、と思って。だめ?」

 武術に関することを聞かれたら、こたえないつもりだったが、セヴナは昴への関心が大きいらしい。セヴナは愛想よい笑顔で、龍菲を見つめていた。

「いいわよ」

 それくらいなら、と龍菲は故国である昴のことを語り。セヴナはうんうんを相槌を打ちながら、真剣に話を聞いていた。

 夜空の月や星星はきらめきながら、地上を見下ろしていた。それらは、地上での人のことなど、お構いなさそうに、ただきらめいていた。

「天、なにをか言うや」

 話の途中、龍菲は古代の賢聖の言葉を、ぽそっとつぶやき。セヴナは意味がわからず、ぽかんとしていた。


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