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第十九章 ガウギアオスの戦い Ⅱ

 そのガウギアオスの地に、砂丘を埋めるかというほどの人馬に戦車が終結していた。

 神美帝ドラグセル九セル率いるタールコの軍勢、その数三十万である。

 それらはアスラーン・ムスタファーの五万の軍勢を前軍にして、神美帝ドラグセルクセスのいる中軍、後軍に左翼右翼と十字になる陣形をとって威風堂々とガウギアオスの砂丘にたたずんでいた。

 さて、このことは周辺地域にも広く伝え広めている。

 リジェカやソケドキアはどう動くのであろうか。

 無論斥候も多数各地にはなって、動向をさぐっている。

 報告が入ってくる。

 なんとリジェカとソケドキアはともに戦支度をし、ガウギアオスに向かうというではないか。

「来るか」

 軍議の途中、斥候からのその報告が入り、ドラグセルクセスはつぶやいた。

「ドラゴン騎士団、小龍公と小龍公女の臆さず進むこと、まこと父と似ている」

 ふと、ドラヴリフトの勇姿が浮かぶ。

 ソケドキア神雕王シァンドロスに引っ張られてのことであろうが、兵力差をおそれず立ち向かうところ、まことドラゴン騎士団といおうか。

 これにアスラーン・ムスタファーが熱くならぬわけがなかった。

「いかにして戦うというのか。見せてもらいたいものだ」

 ザッハークにまたがりエスマーイールに傘を差させて、まだかまだかと臨戦体勢で、今いるガウギアオスの砂丘の向こうから敵が現れるのを弾む心で待ち受けていたが。こういうとき、時がやたら長く感じるものであった。

 

 ソケドキア、リジェカとてなにもしていないわけではない。

 着々と戦支度をすすめ、互いに密使を送りあってどこで落ち合うかを決めている。

 両軍とも、まっすぐにガウギアオスの地を目指し、敵前で落ち合うのである。

 メガリシ郊外。ドラゴン騎士団を頂点とするリジェカ軍総勢二万が、紅の龍牙旗を前に整然と並んでいた。

 その横には新たな国旗が立てられていた。ドラゴンが火を噴くという図柄のものだ。ドラゴン騎士団の功績大ということで、モルテンセンは新たな国旗にドラゴンを入れることにしたのだ。

 そのモルテンセンも、マイアも、この軍勢の見送りにきていた。そのそばにはイヴァンシムにクネクトヴァ、カトゥカ。さらにカルイェンという臣下。

 年のころは四十すこし過ぎ。痩せ身だが賢く、内政においてモルテンセンをよく助けていた。

「リジェカ国、我らの命運はこの一戦にかかっている。心してかかれ!」

 二万の軍勢を前に、十を少しすぎたばかりの王はそう叱咤激励した。

 赤い兵団とフィウメ独立軍、従来からのリジェカの兵士、騎士たちは若い王に、

「応!」

 とこたえた。

「こてんぱんにしてやるんだから!」

 セヴナは得物の弓を掲げ気勢をあげた。ふと見れば、気合十分の騎士たちに気圧されてか、マイアは縮こまっている。幼い少女に、二万の軍勢の雄叫びはやはり怖いものか。

 マイアは不安そうに、ニコレットを見つめると、ニコレットは微笑みをかえした。それから、セヴナと目があった。

 セヴナも笑顔でこたえ、そこでようやくマイアに笑顔が戻った。

 リジェカは実質上は建国されたばかりの若い国だ。モルテンセンとマイアはその象徴だった。

 マイアの笑顔はリジェカの騎士や兵士たちの心に多少のゆとりをもたらした。

「どうか吉報をお待ちを」

 ニコレットは笑顔でマイアに言った。

「出発!」

 コヴァクスの号令で、リジェカ軍二万はガウギアオスに向かって進軍を始めた。

 ドラゴン騎士団の龍牙旗、新しいドラゴンのリジェカの国旗がはためき、軍靴と馬蹄の音が響く。

 モルテンセンとマイアはそれをじっと見送っていた。

 カルイェンも笑みを見せるが、その瞳の奥底には、なにか冷たい光りをやどしていた。

 その一方でソケドキアのシァンドロスも三万の軍勢、これら総じて神雕軍と名づけガウギアオスに向かって進軍していた。

 数日進軍しタールコ領内に入っても、何の妨害もなかった。これも神美帝のお触れによるものか。タールコとしては、ガウギアオスの砂丘で総力戦をし、それにてすべての決着をつけようというつもりか。

 シァンドロスに恐れはなかった。

 それは敵前にあってもなんら変わることはなかった。

 ソケドキア神雕軍とドラゴン騎士団を頂点とするリジェカ軍、あわせて五万はガウギアオスの砂丘入り口で合流した。

 早速軍議がひらかれ、久しぶりにシァンドロスはその不敵な笑みをコヴァクスとニコレットに見せた。

 赤い兵団のダラガナもこれにくわわる。シァンドロスは、一旦はソケドキアに仕えようとしながら心変わりし今はドラゴン騎士団とともにいる。

「久しぶりだな」

 シァンドロスはコヴァクスとニコレットに、ダラガナの手も握り不敵な笑みで愛想よく振舞った。

 赤い兵団のことは気にしていないようだった。

「よき主を見つけられたな」

 とさえ言った。

「もったいないお言葉でございます……」

 ペーハスティルオーンらソケドキアの臣下たちの冷たい視線を無視し、ダラガナは丁重に挨拶をする。

(この同盟は、おそらく長続きするまい……)

 ヤッシカッズは場の空気を察し、内心ため息をつく思いだった。

 今こうして顔を合わせられるのも、タールコという共通の強敵があればこそ。

 この戦いのあと、どうなるのであろう。負ければ同盟は続けざるを得まいが、勝てば……。

 勝つことを前提に戦うシァンドロスは不敵な笑みの中に、どのような思惑を抱いてるのだろうか。

 ヤッシカッズのみが場の空気を察したわけもなく、コヴァクスにニコレットも、かつて仲間だったバルバロネの視線を感じ、同盟の危うさを感じざるを得なかった。

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