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第十八章 報復の誓い Ⅱ

 五ヵ国を制したあと、次にくは、ソケドキアかリジェカか。

 また軍を二手に分けてそれぞれにゆくか、ということも思案された。しかし、神美帝は軍を二手にわけることは考えていなかった。

 まとまった軍勢でエラシアを含むソケドキアにゆき、その次にリジェカにへとゆく、という。

 また、別な考えもあった。

 軍議において、様々な案があった。それをじっと聞き入るが、神美帝ドラグセルクセスは、

「ソケドキアとリジェカが同盟を結んでいることも考えられぬか」

 と言った。

 皆はっとした顔になった。

「この二ヶ国、国境を接しておらぬといえども、我がタールコという共通の敵がある。それに対し、同盟を結び共戦の誓いを立てていること、十分に考えられる」

「どちらかが密使を遣わし、タールコを抜けて同盟を結んだというのですか」

「左様。よもや一国のみでタールコに立ち向かう愚はおかすまい」

 シァンドロスも、リジェカが擁するドラゴン騎士団も、またイヴァンシム率いる赤い兵団もいる、それらは馬鹿ではない。おかしな理想を掲げず、現実を見据えて、現実に沿った動きを密かに進めていること、確かに十分考えられることだった。

「では、どうなされますか」

 アスラーン・ムスタファーが問う。彼は報復に燃えていた。

「トンディスタンブールより西に一日のところ、ガウギアオスの砂丘がある。そこに兵を集める。さすれば、ソケドキアとリジェカ、何かしらの動きを見せるであろう」

「閉じこもるか」

「あるいは、愚かにも迎え撃とうとするか」

 ドラグセルクセスの言葉に対し様々な予想が飛ぶ。そんなときだった。

「申し上げます!」

 息せき切って、人が一人、あわてて議場に転がり込むように飛んできた。伝令将校だった。彼は息を切らして言う。

「ソケドキア神雕王シァンドロス、出兵しタールコ最前線の砦イッソノを陥落せり!」

 議場に落雷のような衝撃が走った。

「なんと」

 神美帝ドラグセルクセスは思わず玉座から立ち上がった。ソケドキアの動きは注視している。にもかかわらず、タールコの目を逃れて、いつのまに出兵しイッソノの砦を落としたというのか。

「おそらくキャラバンなどを装い、監視の目を誤魔化した模様。砦より逃れた兵の話によると、突如地から湧くようにしてあらわれたとのことでございます」

 虚を突かれた砦は閉門もままならずソケドキア軍の侵入を許し、あとはされるがままで、守るもならずほとんどがやむなく逃げざるを得なかったという。

(やるではないか、シァンドロスめ)

 アスラーン・ムスタファーは拳を握りしめ、報復の心をさらに燃え上がらせた。

 しかしなんという人を食った男だろう。どうにも、彼のやり方は普通ではない。

 出兵する兵士にキャラバンの商人を装わせて砦に近づくなど、なかなかできることではない。

 勝つために手段は選ばぬ男だとつくづく思った。

 南方エラシアを制し、なるほど次にタールコに進出というわけか。

 しかし、一国でタールコと戦おうというのか。

「リジェカとの同盟、疑いなしであろう。でなくばどうして、ソケドキア一国でタールコと戦えるものか」

 アスラーン・ムスタファーは言った。

 議場の一同は、確かにとうなずいた。

 イムプルーツァはアスラーン・ムスタファーの目が輝きを増したのを見逃さなかった。

 目は輝きを増し、閃くものがあったのだろう。それは報復の気持ちがそうさせるのであろうか。

「おそらく、我らがガウギアオスにつどえば連合軍を組み、迎え撃つことも考えられます」

 アスラーン・ムスタファーの言葉を、ドラグセルクセスはじっくりと聞き、じっくりと考えた。

 ありうることだ。

 ドラゴン騎士団が無謀なことをするとは思えない。しかし、シァンドロスならば、そしてドラゴン騎士団がシァンドロスと組みともに動くとするならば。

 ソケドキア、リジェカ。この二国は黙っていれば追い込まれるのは火を見るよりも明らか。ならばなにかしらの動きを見せ、最低でもタールコを牽制すること、十分にありうる。

 黙って滅びの日を待つような真似はするまい。

「ガウギアオスの地に集えば、ムスタファーの言うとおりソケドキア、リジェカの連合軍が来るであろう。そこで、一気に二国を叩く」

 それが神美帝ドラグセルクセスの導き出した結論であった。

 これにアスラーン・ムスタファーの胸が高鳴るのは言うまでもない。

 シァンドロスとドラゴン騎士団と、一箇所で戦えるのだから。

「ガウギアオスには三十万の軍勢を集わす。すぐに支度をせよ」

「はっ!」

 威勢よく返事をし、出征の支度をするために臣下たちはすぐさま散った。

 三十万など途方もない大軍のように思われるが、タールコにとってはすこし本気を出せば出せる軍勢であった。

 それだけの国力が、タールコにはあるということであり。国力を下支えするのは、高い文明・文化とそれを創りあげる人材の豊富さにあった。

 すぐに各地の貴族・豪族たちに出征が伝えられ、翌日からガウギアオスの地に次々とタールコの軍勢が終結しはじめた。

 真っ先に着いたのはアスラーン・ムスタファー率いる直属の軍勢。その数は五万になる。

 アスラーン・ムスタファーはエスマーイールに傘を差させて、まるで目の前にソケドキア神雕軍とリジェカのドラゴン騎士団があるかのように、砂丘の先を見据えていた。

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