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第十六章 白い世界の中で Ⅰ

 タールコが旧ヴーゴスネアの五ヵ国を制し、ソケドキアは南方エラシアのスパルタンポリスを打ち負かして破壊し、グレースポリスと同盟関係をむすび実質上エラシアを制していた。

 国境より南の地域が変動する中、北のリジェカは雪に閉ざされて、春の雪融けをまちながら冬篭りをせねばならなかった。

 周囲の景色は白一色に雪化粧し、人々は厚着し白い息を吐きながら日々を過ごしていた。

 リジェカの王都メガリシの王城の庭の池は凍って、その氷厚く人が乗れるほどだった。

 その氷の上を、幼い九つの姫マイアが召使いのメイドどなったカトゥカと一緒に滑って遊んでいた。

 先が曲がり平らになったスタップで、丸い石を転がし、互いにその丸い石をきゃっきゃきゃっきゃと笑いながら、ホッケー遊びに興じて取り合っている。

「えい!」

 棒で丸い石を弾きながら、カトゥカの追撃をかわそうとするが、どてっと尻から滑ってころんでしまった。それをみて慌てたカトゥカも、

「きゃ」

 と声を上げて尻から滑って転び、またそのまま滑ってゆく。目の前にはマイア。

「あ、あ、危ない!」

 と言うも滑走はとまらず、咄嗟に身をひねろうとしたがかえって体勢を崩し横倒しになってわき腹から座り込むマイアにぶつかってしまった。

「きゃああ」

 笑いと悲鳴を織り交ぜながらマイアはカトゥカのお腹の上に乗り、一緒になって滑っていった。

 

 幼い王モルテンセンは赤い兵団の長であるイヴァンシムの援護を受けながら内政を執り行っていた。

 イヴァンシムは年齢も年齢であるので兵役に関しては引退し、年長者としての経験豊富なことから王より補佐の依頼を受け、その背を押すように助けていた。

 その王の召使いとしてクネクトヴァも仕え、かつモルテンセンの友人となり、陰から支えていた。

 軍備に関しては、ドラゴン騎士団はメガリシに常駐し、リジェカ軍も再編成された。

 ドラゴン騎士団も新たに、軍属の者に対し新入団員の募集をかけ、百から二百へと数を増やした。往年のような、いきなり一万を越える大軍隊にはしない。騎士団としての団結を重んじ、いたずらに数を増やして質の低下することを避けたのだ。

 なにより、団長となって騎士団を引っ張るのはオンガルリ人で率いられるのはリジェカ人である。

 国は関係ないかもしれない。だがいざというときに、国が違うことがなにかのかたちであらわれるかもしれなかった。

 今のところ、革命において功績が大なるので信頼は厚く問題はない。

 そのドラゴン騎士団はリジェカ軍の頂点に位置していた。

 コヴァクスとニコレット、ソシエタスにとって、オンガルリ復興が現実のものとなりつつあり、徐々にでも骨が組まれて肉付けがなされているような気持ちだった。

 そう、ドラゴン騎士団、コヴァクスにニコレット、ソシエタスの一番の目標はリジェカ軍を率いてオンガルリをタールコより取り戻すことだった。


 その一方で赤い兵団は数を増やすことなく、従来の兵員でいくことにしていた。

 ドラゴン騎士団との連携を密にして、雪の中でも郊外に出ては訓練を怠らなかった。

「寒い、ああ、寒いんだからもう」

 セヴナは白い息を吐きつつ、厚手の毛皮の上着を鎧の上から羽織り、仲間たちと雪中行軍の訓練をしていた。

 皆徒歩立ちで、

「ハイラ、ハイラ! 進め、進め!」

 と白い息を吐きながら、掛け声をかけながら雪を踏みしめ進んでいた。その中でセヴナはついぼやいてしまった。

「余計なことを言うな!」

 ダラガナの小言がセヴナに飛ぶ。

 ぺろっと舌を出して、ごめんなさい、と笑ってごまかす。

 寒さは身に堪えるが身体を動かすうちに暖まってゆく、がそれも動きを止めればすぐに冷たくなってゆく。

 コヴァクスとニコレットは先頭に立ち、隊を引っ張るように掛け声をかけながら淡々と行軍していた。

 いかに雪が降ろうとも訓練を怠るわけにはいかなかった。

 春の雪融けに備えて鍛えておかなければならなかった。

 雪深いといえど、情報はわずかでも入ってくる。

 タールコのアスラーン・ムスタファーは旧ヴーゴスネアの五ヵ国を、ソケドキアのシァンドロスはエラシアを制したことは知っている。

 雪が融ければタールコが迫ってくるのは目に見えていた。なにせ東はもちろん北と南にかこまれているのだ。

 だがそれとともに気になるのがシァンドロスの動向であった。南方エラシアを事実上征服したうえに、あろうことか、一度ならずニ度までも都市国家ポリスを破壊したという。

 言葉もなかった。

 何かを持っているようだが同時にひと癖もふた癖もありそうな人物だった。そのひと癖ふた癖が、そういったかたちで出たのか。

 さて、シァンドロスとは今後どのように付き合うべきなのか。ある意味タールコよりも難しい相手であるかもしれない。

 この状況では、オンガルリの復興よりも南に目を注がなければならなさそうだった。


 それにしても、なんという変動の大きさだろう。 

 昨年の今ごろはそんなことを考えていただろうか。

 もうすぐ年も明ける。

 今年は翌年を迎えられそうだが、それまでにどのくらいの苦難があったことだろう。

 雪中行軍をしながら、コヴァクスとニコレットは今までの道のりを思わずにはいられなかった。

 ちなみにソシエタスはメゲッリとともにフィウメにいる。フィウメ独立軍も郊外にあるアウトモタードロムの要塞に常駐している。

 フィウメはリジェカの北に位置するので北方地域の動向に目を光らせていた。とともに、空き家に監禁しているポレアスにも目を光らせている。

 誰もポレアスを助けに来ようともしない。彼も旧ヴーゴスネア五ヵ国がタールコに征服されたことを知っている。結局、自分たちのしてきたことの結末にひどく打ちのめされて、監禁生活をのんびり過ごすしかなかった。

 それはさておき。

 春の雪融けに備えて訓練を重ねるドラゴン騎士団であったが、コヴァクスは時として、心ここにあらず、ということがあった。

 訓練が終わり、雪の張り付く窓越しに雪雲覆う空を眺めて。

 思い出すのは白衣の少女、龍菲ロンフェイ

 六魔に襲われた危機に陥った時、ドラゴンの夜の革命のときにもあらわれ、六魔と戦い助けてくれた。

 彼女は何者なのであろう。

 いまどこにいるのであろう。

 コヴァクスに千里眼などないので、まさかシァンドロスの滅ぼしたアノレファポリス跡で冬を過ごしているなど夢にも思わない。

「会いたい」

 ぽつりとつぶやく。

 それに気付く様子もなく、ため息をつく。

 彼女はあらわれるであろうか。

 あらわれるとすれば、どのようなときにあらわれるであろうか。

 誰か、しかも女性に対しここまでこだわってしまうのは、初めてのことだった。

 雪の白さが、白衣の彼女を思い起こさせてしまう。

 瞳に白い雪と白い景色を映し出しながら、脳裏に描かれるのは衣はためかせる龍菲の舞う姿だった。

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