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第十二章 獅子王子と神雕王 Ⅵ

 イムプルーツァと激しく刃をまじえていたシァンドロスだが。突然馬首を反したかと思うと、乱戦の中をタールコ兵らを馬脚にかけながら逃げてゆく。

「うむ、かなわぬと逃げるか。神雕王の名が泣くぞ」

 逃がさぬとイムプルーツァは愛馬ウォルダーンを駆りシァンドロスを追う。これにタールコ軍が勢いづかぬわけがなかった。

 シァンドロスが逃げ出したのをきっかけにソケドキア軍は次々と背中を見せて逃げ出す。

 男たちに混じりエスマーイールと刃を交えていたバルバロネも、シァンドロスに合わせ、背中を見せて逃げ出す。

「待て。逃げるのか女郎!」

 エスマーイールも、パルヴィーンも男たちとともにソケドキア軍を追う。

「おう、勝利の女神は我らに微笑んだか」

 考えたことは杞憂であったか、と追撃態勢をとってソケドキア軍を追い。壊滅させるのだ。

 ガッリアスネスも自分の率いる部隊をうまく統率し、

「退け」

 の号令を下す。

 これにてソケドキア軍は皆が逃げ出した。

 はっ、とエスマーイールはその様子をながめていた。

「なんという整った退却」

 急ぎ愛馬ハルバサクヒィルを鞭打ち、アスラーン・ムスタファーのもとまで駆けた。

獅子王子アスラーン! ここはご慎重に。ソケドキア軍の様子がおかしゅうございます」

「なんだと」

 自分が感じていたことをエスマーイールも感じている。

 これは油断ならぬことであるということか。

 イムプルーツァは気づかないようだ。

 うーむ、と考えぬわけでもない、しかし。

「敵方に罠があるようだ。かといって、退くなど獅子王子アスラーンの名にかけてできぬ」

 そんな、とエスマーイールの柳眉がさがる。とはいえ、アスラーン・ムスタファーの言い分もわかる。

 ここは、いかねばならぬか。

「追え、逃がすな。ソケドキアに我らタールコの鉄槌を下せ!」

 槍を采配がわりにかかげ、アスラーン・ムスタファーは勇士たちを追い越し追い抜き、先頭に立って追撃した。そばにはイムプルーツァとエスマーイールに、愛馬イーシガレを駆るパルヴィーン。

 タールコ軍は、決着をつけてやると皆、血眼になってソケドキア軍を追った。


 後ろを振りかえり、シァンドロスは不敵に笑う。

 不敵な笑みはかれの名物のようなものだったが、逃げる最中でもその不敵な笑みはやむことを知らなかった。

「来い。さあ来いタールコの勇士たちよ。お前たちの崇拝する神々に会わせてくれよう」

 ぽそっとおかしそうにつぶやく。

(うまくやれよペーハスティルオーン、イギィプトマイオス!)

 これからのことを考えると、不敵な笑みは不動のものとなる。

 ギヤオゴズィラの平原は戦った場所こそ平らであったが、進むにつれて丘陵地帯となって小高い草原の丘が四方八方にこぶのようにはえている。

 いわば、視界が狭くなる。

 そこにさしかかったときであった。

 わっ、と喚声がとどろく。

「あッ!」

 エスマーイールはハルバサクヒィルをザッハークによせて、咄嗟に手綱を掴んでとめようとした。

「何をする!」

 追撃の邪魔をされ、アスラーン・ムスタファーの怒り大きく、平手打ちがエスマーイールの頬に飛んだ。

 エスマーイールには吹き飛ばされそうな衝撃であったが、必死に手綱を掴みつづけた。

 かと思えば、草原の丘のこぶの上に突如ソケドキア軍が現れ、ファランクス隊の長槍の槍衾が一斉に丘から駆け下ってくる。

「何ッ!」

 イムプルーツァは急ぎ愛馬ウォルダーンを停め。

「とまれ!」

 の号令を下した。異変を察したタールコの勇士たちは丘から駆け下るファランクスの長槍の槍衾に意表を突かれてきょろきょろと周囲を見渡し、一瞬とまどった。

 この一瞬が致命的であった。

 その一瞬の間に、ファランクス隊の長槍は距離を一気に縮め、端から串刺しにしてゆく。

 同時にシァンドロスも馬首をかえし、

「とどめを刺せ!」

 の号令を下した。

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