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第九章 破壊 Ⅰ

 革命なって、戦火もようやく鎮まり、フィウメの街はドラゴン騎士団を迎えて新たな出発をしようとしていた。

 一時、フィウメの人々はコヴァクスに新しい太守になってもらおうとしていたが、コヴァクスは固くこれを辞退し。

 メゲッリが太守を務めている。

 自分の立身出世のために戦ったのではない。その代わり、メゲッリを新たな太守に推して、コヴァクスたちドラゴン騎士団はその補佐役となることで話し合いは決着した。

 メゲッリも当初は固辞していたが、やはり太守は地元出身者がなるほうがいい、ということで、任を負う決意をした。

 少々頭が硬いところがあるが、不正なく真面目に政務にはげむので、人々の評判もよかった。

 ともあれ、フィウメの街には、再建の息吹が溢れて。

 街の人々はまず、再建の息吹の具現化として、ドラゴン騎士団の龍牙旗を織り進呈し。

 皆で冬を越すために、皆で冬に備えた。

 

 ドラゴン騎士団といえば、フィウメの街にとどまらずに、アウトモタードロムの要塞にいることにした。

 若い騎士の訓練所として建てられた要塞だけに実用性に富み、騎士団の拠点にふさわしかった。

 若い騎士たちの希望の要塞は、今はドラゴン騎士団の拠点として龍牙旗が立ち。革命後の新たな出発の象徴となっている。

 再建の息吹はアウトモタードロムの要塞にも及び、ドラゴン騎士団を慕った若者たちが押しかけ、騎士団への入団が殺到した。

 コヴァクスやニコレットは、ドラゴン騎士団の再生がいよいよ具現化し、感激に打ち震えるものの。その感情のままに入団を許しても、まとめきれず、また烏合の衆と化すことも避けるため、まずは要塞に収容可能な百程度の少数精鋭で、地道に基礎固めをしてゆくのだ。

 コヴァクスにニコレット、ソシエタスは厳しい試験官として若者たちと接し、敢えて挫折するよう仕向け、若者一人ひとりの内面を吟味する。

 むごいようだが、騎士になるということは、いざという時に死ぬということでもある。神話や英雄、冒険の物語をたしなむのと同じ気持ちで来られても、本人のためにはならぬのだ。

 そんなこんなで、新生ドラゴン騎士団には挫折にもめげなかった逞しい若者たちが入団し、編成されて、日々訓練に励むこととなる。


 シァンドロスと神雕軍は革命の夜が明けるとともに旅立った。

 暗殺者は言った。暗殺者を遣わしたのは、父王フィロウリョウであると。

 にわかに信じられぬことではあるが、いかに歪んだ暗殺者であろうとも、いまわの際に嘘は言うまい。というより、歪んでいるからこそ、いまわの際に真実を話し、シァンドロスの心を掻き乱すのだろう。

 革命祝いの宴が開かれたのだが、シァンドロスら神雕軍はそれすら関わろうとせず、ソケドキアへと突っ走る。

 シァンドロスの顔からは、あの不敵な笑みが消えていた。

 バルバロネはそんなシァンドロスについていった。出立の直前、コヴァクスとニコレットに言った。

「あんたたちといるより、シァンドロスと一緒にいたほうが面白いし。なにより、いい男だしね」

 バルバロネは屈託なく、シァンドロスへの愛情を吐露する。それだけではなかった、最初はいい奴らだと思っていたコヴァクスにニコレットだったが、

「一緒にいつづけてたら、絶対喧嘩するだろうね。あたしとあんたらは合わない、離れた方がいいと思うんだよ」

 などということも、打ち明けたのだった。

 言葉もなかった。

 生まれと育ちが違う、と言えばそれまでだったが、思い切った性格のシァンドロスに比べてどこか煮えきらぬところを持ち合わせているように見えるコヴァクスとニコレットの言動は、バルバロネの癇に障るのに十分だったのだろうか。

 

 思い起こせば革命は、あまりにも慌しく、まるで夢のようだった。

 だが革命が終わりではない。革命は新たな出発点なのだ。

 夢から覚めることは、まだまだ出来そうにないだろうか。

 とくにシァンドロスは、そのまま夢の世界にいるようだった。

 フィウメの人々があの革命の夜を、ドラゴンの夜と呼び、その夜のことを偲びながら冬に備える日々を送っているとき。

 何者もよせつけず、シァンドロスら神雕軍は南へ南へと急速に南下し、ついに国境へといたった。

 国境警備隊はシァンドロスの帰還に驚き、宿舎に招き寄せて、国に一大事起こるを告げた。

 それは、

「国王暗殺される!」

 という、それが真実なら世界を一変させるものだった。

 さすがのシァンドロスも、頭が混乱する。無理もない、あの暗殺者を父が遣わしたかと思えば、その父は暗殺者の手にかかって死んだという。

 咄嗟に剣を抜き放ち、警備兵に突きつける。

「オレを怒らせたいのか」

「めっそうもない、どうしてわざわざ王太子の機嫌を損ねるようなことを」

 警備兵を斬ったところで埒が明かぬ。

 シァンドロスは神雕軍をひきつれ、烈火のごとく爆発した火山に噴き上げられた火山岩のごとき勢いで、ソケドキアの首都ヴァルギリアに向かった。

 ガッリアスネスは、宿舎に立てられていた国旗、ソケドキアの紋章のあしらわれた赤と黄色の太陽の旗を見つめた。

(古い太陽は沈み、新たな太陽が昇るのだ)

 ということばかりが、胸を駆け巡っていた。なるほど今ソケドキアは一触即発の分裂の危機にある。

 国境警備兵のうろたえようはどうであろう。

 おそらく他国にも知れ渡るだろうし、いずれリジェカに、ドラゴン騎士団にも知れ渡るだろう。

 ことに国境を接する南方エラシア地方のポリス(都市国家)群も、今にも滅ぼそうというくらい痛めつけたアヅーツも、黙ってはいまい。

 それを思えば、よく帰れたものだ。

 危機なく帰れたわけではない。だがシァンドロスの疾風怒濤の勢いに誰も追いつけなかった。

 神雕軍の兵士たち、バルバロネは、シァンドロスについていけた。それが強く誇りに感じた

 国王暗殺の危機は、憂うよりむしろ新たな夜明けのように感じられていた。

 

 国王フィロウリョウ暗殺のいきさつは、こうだった。

 フィロウリョウはシァンドロスがどこかへと消え去ってから、心配するどころか、側室であるクレオの生んだ男子、アントラを溺愛するようになった。

 さらに、アントラの花嫁を、南方エラシアのポリスの一つである、アノレファポリスから招き寄せ、政略結婚の準備も進められていた。

 そして迎えた結婚式の日、王宮の宮殿内にある円形劇場で華々しく結婚式が催されているときに、悲劇が起こった。

 あろうことか、アノレファポリスからの花嫁は、ふところから短剣を取り出し、花婿アントラを刺し殺し、さらに舅のフィロウリョウも刺し殺したのだった。

 まさかそんなことが起こるとは思わなかったから、完全に隙を突かれ、なすすべなく刺し殺されるままだった。

 その花嫁も、父王と花婿の死を見届けると、みずから喉を突き自害した。

 華々しい結婚式は、一瞬にして修羅場と化し、国は混乱したのだった。

 南方エラシアのポリス群は戦争と同盟を繰り返しながらも、古来よりの高い文化と高いポリスの城壁の中で、悠々自適な生活を送っていた。

 エラシアは気候にも恵まれ、過ごしやすく豊かな土地であった。だがそれゆえに、よく狙われる。

 古来から東方のタールコとの戦争はもちろん、北方からの異民族の侵略と戦ってきた。

 フィロウリョウも、南方エラシアを求めていた。その足がかりとして、アノレファポリスと同盟を結んだ。同盟といっても、力関係をもってしての、事実上の支配で。

 花嫁は生贄だった。

 ポリスも様々ある。軍事的に強いポリス、政治的に優れているポリスもあるが。

 弱く貧しいポリスもある。アノレファは、そんなポリスだった。

 フィロウリョウはアノレファポリスを踏み台にして、南方進出を企てたのだが、あらぬ形で阻止されたうえに、命までも落す結果となった。

 アノレファポリスは確かに弱く貧しいポリスかもしれない。しかし、アノレファポリスからの花嫁は、誇り高かった。ただ身体が大きいだけの野蛮人に全てを捧げるくらいなら、それを道連れにして、己の誇りと純潔を守っての死を選んだ。


 シァンドロスは矢の様な速さで首都ヴァルギリアに到着し、殴りこみの勢いで王宮へ突き進んだ。

 国は辛うじて分裂を免れている。それはシァンドロスの母、アンエリーナの功績によるものだった。

 フィロウリョウが暗殺されるや、息のかかった貴族たちをすぐさま招集し身辺警護をさせ、多数の兵士も動員し王宮も手中におさめ、不穏な動きがないか監視をおこたらなかった。

 さらにシァンドロスを慕う若い貴族の子弟たちも進んでアンエリーナに着き、王太子の帰還まで王宮と王宮の大奥を守り抜いた。

 それとは対照的に惨かったのは、フィロウリョウの側室クレオだった。

 アンエリーナは私兵をもって容赦なく恋敵および政敵へ押しかけ、恐慌をきたしたクレオは毒蛇に乳房を噛ませて自害し果てた。

 それでもアンエリーナはおさまらず、クレオのなきがらは八つ裂きにされて、燃やされて灰にされて、山に捨てられたのだった。

 それからはずっと、息子の帰還を待ちわびていたのだが、ようやく帰還した我が子の顔を見て、愛しさいっぱいに抱擁し、快く王宮に迎え入れた。

「親不孝をしてしまいました。申し訳ありませぬ」

 シァンドロスは王座に座る母に跪き、不孝を詫びた。

「なんの。若者が冒険を求めるのは、当然のこと。むしろ母は勇気あるそなたを誇りに思う」

「恐れ入ります」

 コヴァクスが見れば、その母に対する恭しさには驚くことだろう。コヴァクスやニコレットも母エルゼヴァスを慕い孝行を心がけたが。シァンドロスの場合はどこか孝行と言うには過ぎたるものはあるようだった。

「あのにっくきクレオは王をたぶらかし、卑怯なアノレファポリスの女をまんまと招きいれて、国を大きく陥れました。愛おしい我が子よ、この母の無念さを、晴らしてくれるか」

「もちろんです」

 ふと、シァンドロスは、恐る恐る母に問う。

「母上、ひとつお聞きしたきことが」

「なんじゃ、言うてみよ」

「おそれながら、旅の途中暗殺者に命を狙われたのですが、奴らはあろうことか父王が遣わしたものだと……」

「それはありえるでしょうね……」

 母の言葉に、シァンドロスは一瞬、石になった。

「クレオは、我が子をソケドキアの王にするため、よく王をたぶらかしておりました。おそらく、王にあることないことを吹き込み、そなたに暗殺者を遣わすよう言ったのかもしれませぬ」

「証拠は」

「これに」

 アンエリーナが差し出したのは一枚の羊皮紙だった。羊皮紙には父王のサインと、太陽の紋章の蝋印があった。それとともに、羊皮紙には、跡継ぎをアントラに定める旨が書かれていた。

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