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第八章 革命 Ⅸ

 ギィウェンは遠くを見つめる眼差しをしていた。その目には、神美帝と明るい未来でも見えているのだろうか。

「ではオレはゆくぞ」

 メゲッリは動かない。構わずギィウェンは歩き出せば、部下も続く。ここにいる守備兵は皆ギィウェンの息がかかっていたということだ。

 哀れバクレストンは瀬戸際での裏切り者に囲まれていたことになる。

 外では、わっという喚声がけたたましく轟いた。部下が民衆に首を見せているところだろう。

 と思ったら、

「ああー」

 という、それは一瞬にして悲痛な悲鳴に変わった。

「何事だ」

 なぜ悲鳴があがるのか理解できぬと、にわかに駆け足で外に出てみれば、バクレストンの首が転がり、その横に部下の首がならび、その横には部下の胴体が転がっていた。

 そばでは血塗れた剣をもった守備兵が五人。

 民衆はそれを見て悲鳴を上げていたのだ。

「何奴!」

 ギィウェンとその部下らは咄嗟に剣を抜き五人の守備兵を取り囲む。メゲッリの他にも忠誠厚い者がおり報復をするであろうことは想定内のことなので、この出来事には別に驚かなかった。

 しかし取り囲んだ途端、五人の守備兵は俊敏な動きを見せ、ギィウェンらに襲い掛かった。

「やるか」

 ギィウェンは剣を振るい受けて立ったものの、

「おお……」

 思わずうめきを漏らし、相手の剣を避けるのが精一杯。相手は思った以上に手ごわく、百戦錬磨の武人ギィウェンも苦戦するありさま。

 しかも部下はあっというまに、他の四人に討たれてしまい、さらにその四人は民衆にも無慈悲に斬りつけながら、向こうに見える赤い旗目指し駆けてゆく。

 民衆は悲鳴を上げて、革命なった喜びは吹き飛び兇刃から逃げ惑うばかり。

 ひと塊だった民衆はちりちりばらばらとなり、フィウメの街のあちこちに散らばった。それを掻き分け、赤い旗が四人目掛けて突き進んでゆく。

 これなん紅の龍牙旗、ドラゴン騎士団なのは言うまでもない。そこには無論シァンドロスら神雕軍の騎馬隊もいる。

「まだ立ち向かう残党があるのか」

 神雕軍の騎士の一人が四人に向かい剣を振るった、と思ったら、血煙を上げて落馬しぴくりとも動かない。

「気をつけろ、かなりの手練れだぞ!」

 騎馬隊は素早く四人を取り囲む。それから、はっと息を呑む。

「お前ら……」

「久しぶりだな」

 応えるのは金髪のアンダルゾン。そう、それはかつて六魔であった暗殺集団だった。

 ギィウェンとやりあうのは、黒髪の頭分グニスッレーだった。


 なんと五人はフィウメの街にいたのだ。守備兵の姿をしているのも、この革命の最中どさくさにまぎれて装備を守備兵から奪い取り紛れ込んだのであろう。

「いつお前たちを始末しようかと機を見計らっていたが、面白い余興に付き合えて我らは楽しませてもらっておる。のうアッリムラックよ」

「ええ、オナリハトク。どさくさに紛れてたくさん人を殺せたのはとても楽しいものだわ。こんな機会って、なかなかないわよ」

 おそろしいかな、五人はずっと後を着けていたのだ! しかも革命での民衆と守備兵の衝突に紛れ込み殺戮を楽しんでいたというではないか。

「くそッ!」

 ギィウェンこれはかなわんと、グニスッレーの剣を避けドラゴン騎士団と神雕軍のもとまで逃げ込む。グニスッレーは無理に追わず、ゆくにまかせた。

 というより、最初から相手にしていなかったのか、逃げるギィウェンを無視して追い越し、シァンドロスへとまっすぐに突っ込んでくる。

「忌々しい奴らめ」

 五人がはっきりと自分を狙っているのはわかっている。コヴァクスらは巻き添えで出会ったに過ぎない。

 五人の目当てはあくまでも、シァンドロスの首なのだ。

 不敵な笑みは消えて、顔はけわしい。

「王太子をお守りしろ!」

 ペーハスティルオーンにイギィプトマイオス、ガッリアスネスはシァンドロスを囲み守りを固める。

 無論コヴァクスも無事でいられるわけがない。ドラゴン騎士団は五人にとって大きな副賞なのだから。

「今度こそ、お前の金髪を全部ひっこぬいて、顔の皮を剥いで、色違いの目を抉り出してやるんだから!」

 白髪の魔女アッリムラックは赤い口を開け歪んだ笑みを浮かべ、ニコレットに襲い掛かる。

 五人とも徒歩だが、騎乗の者を相手に怖じることもなく、軽快に飛び回り刃をぶつけ火花を散らす。

 民衆はなにがなにやらわからず、おろおろしている。このままやられれば、なったと思った革命も全てぶち壊しだ。

「おのれ!」

 肝心のところで邪魔をされたコヴァクスはおおいに怒るも、相手は相当の手練れ、剣を防ぐのが精一杯だ。

 それとともに、脳裏に閃く白い衣。謎の女、ロンフェイの黒い瞳が思い起こされた。


 ニコレットもアッリムラックの執拗な攻めを防ぐのが精一杯だ。急ぎ旗を背中にくくりつけ、ソシエタスが助太刀に入るも事態は好転せず。

「これは一体どうしたことなのだ」

 民衆は思わぬ事態に驚き、逃げ惑う。ドラゴン騎士団の側についた守備兵で、勇気ある者は勇を鼓して助太刀に入るものの、それことごとく討たれる有様。

「お前らは、ここで死ぬのだ。ロンフェイを期待しても、無駄だぞ」

 嘲るブラモストケの冷たい声色。ロンフェイの名を聞き、コヴァクスの目の色が変わった。

「お前、まさかロンフェイに惚れたのではあるまいな」

 さとったようにグニスッレーが言う。

 うるさい、と剣を振るうが、顔はこころなしか赤いようだった。

 しかしロンフェイはどうしたのだろう。まさか、と思う。

「図星のようだな。ロンフェイは近頃見てはおらぬ。もともと孤独を好む身、お前らのことなど、どうでもよいのだろう」

 見ていないのは本当だった。五人もロンフェイに警戒し気を張りめぐらせていたのだが、最近本当に気配を感じない。そこらか、どこかよそへと旅立ったのかもしれぬと思っていた。

 神雕軍は必死でシァンドロスを守っている。シァンドロスも剣を振るい刃を交える。弱くはない、大馬を乗りこなし一流の戦士でもあるのだが、六魔、もとい五魔相手には苦戦せざるをえない。

(しかし、奴らはなぜオレを)

 戦いながら、そんな疑問も抱く。戦いを好む王太子であるから、暗殺集団を差し向けられる心当たりはある。

 だがさすがに、誰が遣わしたのかまではわからない。

 ギィウェンは呆然としている。いつのまにか、蚊帳の外に追いやられていた。が、はっとして駆け出し、そのまま姿を消した。

 ギィウェンにはギィウェンのやりたいことがあるのだ。

 やがてバルバロネと歩兵、百の民衆が街に着き、ことの事態を見るや一斉に五魔に突っ込んだ。

「馬鹿め、数が増えたとて同じこと」

 グニスッレーがそう叫ぼうとした、そのとき、

「ろ、ロンフェイ!」

 最初思っていたのと違う叫びが、口をついて出た。なんとロンフェイがいつの間にか百の民衆の中に混ざりこんでいるではないか。

 ロンフェイは静かにその眼差しを五人とコヴァクスらに向け、白い衣の裾と袖、黒髪を揺らしながら駆けてくる。

「いつの間に」

 バルバロネは驚きの声を上げた。今まで一緒にいたことに気付かなかった。誰しもが、ロンフェイが紛れ込んでいたことに気付かなかった。

「あれは誰だ?」

 皆ロンフェイを指差す。

 五人は苦々しく舌打ちする。

「お前はあとだよ!」

 アッリムラックは捨て台詞を吐き、五人は一斉にロンフェイに襲い掛かる。

 コヴァクスとニコレット、シァンドロスはロンフェイとともに戦おうとする。勝機が一気に開け、気が大きくなったが。

「手出し無用!」

 ロンフェイがそう一喝すると、金縛りにあったようにコヴァクスらは動けなかった。それと同時に、一人で五人を相手に戦った。

 民衆は、女一人では無理だと思わず目を閉じた。コヴァクスらは、目を見開いて、ロンフェイの姿を見つめていた。

 五本の剣が前後左右から襲い来る。それに対し、ロンフェイは無手。

「あっ」

 と誰かが悲鳴を上げた。ロンフェイが串刺しにされるのを見たのだろうが、それは幻想だったのか。

 五本の剣が切っ先を触れ合わせているその上に、ロンフェイの姿があった。剣をかわすため跳躍したのだが、いつ跳躍したのか誰も見切れなかった。

 五本の剣はロンフェイの足を切り落とそうと咄嗟に切っ先が上に向けられたが、なんとロンフェイ、上から踏みつけるように、剣の上に足をつけ、ひと振りひと振り、飛んで渡った。

 靴底には鉄板でも入っているのだろうか、五本の剣の上に乗っていても切り筋ひとつつかない。

 五本の剣はかわるがわる、休む間もなくロンフェイを襲うのだが、それはことごとくかわされ、それでいながら、おいでと手招きするように袖は裾ははためきながら、ロンフェイの跳躍やまず、常に誰かの剣を踏み台にして飛び回っていた。

「馬鹿な」

 グニスッレーは苦々しくうめくその一方、コヴァクスらは言葉もない。ロンフェイのあの動き、あれは一体なんなのだろうか。

 そもそも暗殺者の持つ剣を踏みつけ跳躍し、なおかつ五振りの剣を飛んで渡るなど、常人のなせる業ではない。

 その上、ロンフェイは容姿も端麗。戦火燃え盛るフィウメの街を舞台に、まるで突然神か悪魔が降り立ったような錯覚を人々に与えた。

 その白い衣から、白鳥がわにをもてあそび牙をかわしながら翼はためかせているようにも、コヴァクスには見えた。

 そう見惚れていることに気付かず、幻の世界に入り込もうかというとき。

 ロンフェイの爪先がオナリハトクの剣を軽く蹴るや、切っ先はアンダルゾンの胸目掛けてまっしぐらに突き進み、それを貫き通した。

 金髪のアンダルゾンは剣貫く胸を真っ赤に染め、口から血を吐き、オナリハトクの剣を捕まえてたおれて、息絶えた。

 なにがどうなったのか、オナリハトクは剣が手から離れてアンダルゾンを殺したのを呆然と見つめていた。

 ロンフェイは静かに着地した。

「殺生はしたくなかったけど……。そのためにあなたたちの悪業を野放しにして、罪もない人々がたくさん死んでしまったわ。私も、堪忍袋の緒が、切れたわ」

 目が覚めたように目を開きなおすコヴァクスは息を飲みこみ、ロンフェイを見つめていた。我知らず足が動き、グリフォンから下馬し、ロンフェイの横に立ち、剣を構えた。

 ちらりとその目を見れば、黒い瞳は揺れているようだった。

「いかなる事情があるか知らぬが、そなた一人に血を押し付けるのは忍びない」

 ロンフェイの心に葛藤があるのを知り、コヴァクスの心にも葛藤が芽生え、ともに血で汚れる決意をさせた。

 すると、ニコレットとソシエタスがこれに続き、我もとシァンドロスもロンフェイ、コヴァクスとともに暗殺者と対峙した。

「我らが死ぬか、お前らが死ぬか。革命の夜にふさわしい決闘だな」

 グニスッレーも覚悟を決めたようだ。一時、間合いを取って対峙し、隙をうかがっていたのが、四人一斉に飛び掛ってきた。

 ペーハスティルオーンにイギィプトマイオスら神雕軍は王太子の助太刀をしたいが、シァンドロスはそれを嫌う。やきもきする思いで、成り行きを見守るしかなかった。

 だが対するロンフェイ、コヴァクスらだったが。ロンフェイ何を思ったか、素早い動きで、コヴァクスのくびすじを指で突き、さらにニコレット、ソシエタス、シァンドロスにも同じようにしてから、一人で四人と戦った。

 コヴァクスらは、なぜか動けなかった。

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