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第八章 革命 Ⅳ

 剣を握りしめて駆けるニコレットの背中を見、シァンドロスはふっと笑う。

「我らもゆくぞ! 雑魚どもを蹴散らせ!」

 白龍号の手綱を放し、愛馬・グリフォンを駆けさせアウトモタードロム山の山賊どもにむかって突っ込めば、神雕軍も心得たりといっせいに喚声をあげるや槍ぶすまをなし、騎馬馬蹄を轟かせてシァンドロスに続く。

「あっ、白龍号!」

 白馬が追いつくを見て、ニコレットは急ぎ飛び乗り、兄の助太刀に向かう。駆け足でソシエタス、バルバロネもつづき。

 クネクトヴァとカトゥカは出番なしと成り行きを見守った。

「小癪な。数はオレたちが多いんだ、返り討ちにしてやれ!」

 エリプマヴは大剣を振り回し子分どもを率いて神雕軍に突っ込む。コヴァクスをからかっていた者どもも、親分の命令に従い神雕軍に向かった。

 武装の山賊どもの一団の中に、ニコレットは飛び込み、山賊どもを斬りふせてゆく。コヴァクスも妹や神雕軍が来るを見て、気を取り直し剣を振るう。

 ドラゴン騎士団の兄と妹は縦横に駆け回り武装集団の山賊どもを蹴散らしてゆく。所詮、敵ではなかった。

 それは剣風に吹かれる枯れ葉のようだった。

 そこへ、神雕軍の騎馬、ファランクスの槍ぶすまが来たとなれば、壊滅もあっけないものだった。

「下衆の大将は残しておけ!」

 シァンドロスは痛快を通り越し戦い拍子抜けしながら、そう号令を下した。

 言うまでもない、エリプマヴは、コヴァクスに討たせるのだ。ひょっとしたら、強いかもしれぬ。しかし、山賊の大将くらいは討ち取れぬようで、どうしてこれからの戦いを戦い抜けよう。

 山賊どもといえば、今までにない強い相手にぶち当たり、さっきと同じように悲惨な思いをしながら蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。

 それを見てエリプマヴが怖じるかと思われたが。

「お、親分、もうだめだ」

 という子分がいた。エリプマヴはじっとそいつをにらんだと思うと、大剣ひと振り、子分の頭を叩き潰した。

「逃げるんじゃねえッ!」

 逃げ惑う子分どもをもうひとり大剣で叩き潰す。大剣は相当ななまくらのようで、剣というより鉄の棍棒のようだった。が、破壊力大なりは、見た目どおりで伊達ではないようだ。

 これには子分どももたまったものではなく、神雕軍に追われながら恐怖で身動きできず、そのまま討たれてしまう者が続出した。

 しかし、シァンドロスはじめ神雕軍にしてみれば、そんなことは関係なかった。生かしてもどうしようもない奴らだ、情けは無用とひらめく刃は容赦しなかった。

 中には、

「ゆ、許してくれ、もう山賊はやめる」

 と命乞いをする者もいた。ソシエタスはそれを聞き、

「許しを乞う者を討つは騎士の所業にあらず」

 と剣をおさめたが、そのそばから、シァンドロスにペーハスティルオーン、イギィプトマイオスが己の刃で始末する有様。バルバロネもまた、容赦なかった。

 ガッリアスネスはしとめそこなった振りをして逃がしてやっているようだが、それは少数で、ほとんどは容赦なく、山賊どもを討ち果たしてゆき。

 その数は、あっというまに半数の五十を切った。

(これは……)

 ニコレットとソシエタスは、胸に一抹の不安が湧くのを禁じえなかった。どうも、戦いというものにおいて、オンガルリとソケドキアでは、隔たりがあるようだ。それが今後どう影響するのであろうか。

 エリプマヴは、討たれる子分に無慈悲で冷たい眼差しを送るのみ。

「お前、自分の部下を……」

「け、これだからお花畑の騎士様はよ」

 驚くコヴァクスにあからさまな嘲笑をはなち、エリプマヴはコヴァクスのもとへ向かう。

「オレ様と一騎打ちがしてえんだろう。いいぜ、相手になってやる」

 子分の返り血が口元に飛び、骨太ながらもその醜い容貌とあいまって、人の生き血をすする吸血鬼さながらの醜さだった。

「リジェカの若え騎士様どもも、同じだったなあ。やれ使命感だのなんだのって、目をきらきら輝かせてよ、そのくせてんで弱えでやんの。所詮騎士なんざそんなものだぜ、糞の役にもたたねえ腰の飾り物ぶらさげてるだけの、おぼっちゃまよ」

 コヴァクスは、奥歯を噛みしめ、剣を構えなおす。

「オレは、リジェカの騎士ではないが、騎士としてその言葉聞き捨てならぬ」

「ほう、じゃどこの騎士様だって?」

「オンガルリ王国ドラゴン騎士団。小龍公、コヴァクス」

「何?」

 口元の返り血を舌で舐めとりながら、耳を疑った。オンガルリ王国のドラゴン騎士団、だと。名前くらいは知っているが、なぜドラゴン騎士団がここに。

 にわかには信じられなかった。

「てめえ、かたりか?」

「貴様のような下衆に、言うことはない」

 気がつけば武装集団の山賊どもは遠くへ逃げて、神雕軍はそれを無視してコヴァクスとエリプマヴを中心に円陣を組んでいた。

 ニコレットにソシエタス、バルバロネは中心のふたりを見据え、シァンドロスのそばで成り行きを見守ろうとしていた。

 しかし、このエリプマヴという男、子分どもも皆逃げて一人きりで敵に囲まれているというのに、恐怖を感じていないのか、へらへらと笑っている。

「こやつ、頭がおかしいのか」

 イギィプトマイオスが忌々しそうにつぶやき、ペーハスティルオーンがそれに頷く。 

 シァンドロスも、エリプマヴの様子のおかしさには、少しくらい嫌悪感を感じているようで、眉をしかめている。

 となれば、ニコレットたちや神雕軍の兵士たちはそれ以上に嫌悪感を感じている。

「エリプマヴとやら、敢えて言おう、貴様らはカスであると。そのカスどもを、我らは討ちに来た。しかし、コヴァクスとの一騎打ちに勝てば、退いてやる」

 それ以上は言わず、そう言いながら内心、

(コヴァクスが敗れれば、そのまま討ち果たしてやる)

 と決心していた。

 理由は知らず、なんとも珍妙な討伐隊だ、と思いつつ、エリプマヴは、

「がはは!」

 と笑って応えた。

「そんなもん信じられるかよ。どうせ、オレ様を殺したくてうずうずしてるくせによ」

 とあからさまにシァンドロスを嘲笑する。

 ペーハスティルオーンにイギィプトマイオスは血気に駆られ、危うく飛び出しそうなのをこらえて、

「おお、殺してやる。貴様など、王太子の刃にかかるまでもなく、オレが斬り捨ててやる!」

 と叫んだ。

(あの、六魔どもと同じだ)

 ニコレットは、ふと六魔を思い出す。あの六魔どもも、同じように、正気とは思えぬ人間たちだった。

 エリプマヴは、戦乱の中で生きるうちに、正気を失ってしまったのだろうか。

 シァンドロスは心のうちを見透かされ、屈辱を覚え、

「神に祈れ、コヴァクスに討たれるようにな。もしそうでなくば、楽に死なせぬ。地獄の苦しみを味あわせながら、死なせてやる」

 剣をエリプマヴに向けて突き出し、あらん限りの声で叫んだ。

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