第七章 試練はつづく Ⅳ
ペーハスティルオーンも当然一気に飲み干し、コヴァクスも負けじと飲み干す。バルバロネも、飲み干した。
他は、ちびちびと、舐めるように酒をすすった。
「さて話だが……」
シァンドロスが腹のうちを語る。それと同時に、それぞれの出自を語り合った。ソシエタスの馬は、あの争いの最中どさくさにまぎれて殺されてしまった、という。
バルバロネといえば、彼女自身が自分の出自をよく知らず。根無し草の傭兵団の中で物心つき、バルバロネと呼ばれていた、ということにシァンドロスは興味津々だった。
「その名、バルバロイ(蛮族)から来てるな。それにその褐色の肌、そなたはるか東方、タールコの東方に位置するタータナーノ国の出のようだな」
「らしいね」
「オレは、そのタータナーノに行ってみたい」
「は……?」
バルバロネは、ぽかんとする。タータナーノに行きたいなど、それにはまずタールコが立ちはだかるというのに。
バルバロネが育ったのは、金でどこにでも雇われる庸兵団で、時にタールコの側につき時に旧ヴーゴスネアの国々についた。タールコの側にいるとき、東方遠征に行かされそこで数名の捕虜を手にした。その一人がバルバロネだった。
バルバロネは語る。
「女の身なもんだから、男に付け狙われてねえ。それがやだったから、斧振り回して傭兵稼業さ。はっはっは」
酒が入り、悲壮感も吹き飛んで。あっけらかんと笑う。ニコレットは気の毒そうにしているが、バルバロネにはむしろ迷惑そうだった。
「その傭兵団も、戦争でしっちゃかめっちゃかにやられてお終い。それから、難民相手に小銭稼ぎ」
と言いながら、金は銅貨一枚も受け取っていない。彼女もまた難民だったのだが、武器を手に取り戦うものだから、護衛の傭兵そのものだった。
「ま、その難民ももういないけどねえ」
しみじみと語る。それを、シァンドロスは、興味津々に見聞きしている。
(おやおや)
ペーハスティルオーンはさりげに、シァンドロスの様子に気付いた。王太子は、ニコレットに続き、バルバロネにもただならぬ興味を抱いたようだった。
(英雄色を好む、とはよく言うものだ)
「それで、王太子のお考えは、本気で言っているものでございますか」
話が横にそれそうなので、ソシエタスはさりげに戻す。
コヴァクスらは、聞き漏らすまいと聞き入っていたが。話を聞き、しかめっ面のまま、
「うーむ」
と酒を飲む以外のことはしなかった。
考えつかなかった。
一瞬、「馬鹿にするな!」と飛び上がりそうにもなった。が、どうにか堪えた。
「なまじ王侯貴族の力を当てにしても、ろくなことがないからな」
自分こそ王侯貴族ではないか。しかしシァンドロスは、妙にそこらへんの自覚がない。それは新興勢力の王の王太子であるからだろうか。
「赤い兵団のようになる、とはそのことだったのですな」
「そうだ。ソシエタス、といったな。お前は話のわかる男のようだ」
「いえ……」
シァンドロスの話を聞いて、コヴァクスは、ふうとため息をついた。
「やろう」
もう、その一点張りである。他に道が、あるかもしれない、しかし見つけられない以上は、シァンドロスの提案を受けるしかない。
コヴァクスは、これほどまでに今の自分の立場を、惨め、と思ったこともない。しかし、自由、とも少しながら思っていた。
いわば、
「ままよ」
と成り行きの勢いにまかせていた。
もしドラゴン騎士団健在であるならば出来ないことではある。死者の国で父や母がどう思うかわからぬが、どうにも止められないものを、コヴァクスは感じて仕方がなかった。
ニコレットは、無言。コヴァクスほどでないにしても、ほぼ同じ考えのようだ。
しかし、シァンドロスの視線が気になる。
それが気になって、静かにもの言わず視線を合わせないようにしていた。