第七章 試練はつづく Ⅰ
それから、シァンドロスら神雕軍と一緒になったコヴァクスとニコレットは、帰路を急いだ。
五十人以上の武装した集団がうろうろしていれば、すぐに見つかってしまうものだが、そこはよく訓練された精鋭ぞろい。
さっと逃げ出し追っ手を振り切り。逃げ切れない、というときはぱっと散り、追っ手を戸惑わせ、あるいは不意を突いて返り討ちにするなど、立ちはだかる者らをことごとく煙に巻いた。
しかも正体を隠さない。
威風も堂々と、
「我らはソケドキアのシァンドロスと、その配下、神雕軍である!」
などと名乗るときたものだ。
しかし、まさか一国の王太子が異国の地にいるなどにわかに信じられないのか、ほとんど騙りであると思われてしまっていたが……。
ともあれ、コヴァクスとニコレットを道案内にシァンドロスら神雕軍はほとんど障害らしい障害に遭わずにいられ。
難民の集落から旅立ってから、ほぼ半月にして戻ってこれたものだった。
きっと皆帰りを待ちわびていることだろう。
コヴァクスとニコレットはそう思っていたのだが。
「……」
言葉もなかった。
難民の集落に帰り着いたというのに、出迎える者はなく、人っ子一人いなかった。
「みんな、オレだ、コヴァクスだ!」
「みんな、どうしたの、どこにいるの!」
シァンドロスら神雕軍のことを忘れて、慌ててふたりは集落を駆け巡り人々を捜し求めた。しかし、反応はない。
シァンドロスはおかしそうにふっと笑う。
陽は中天に上り、小鳥のさえずりさえ聞こえるほど、のどかな日であるにもかかわらず。集落は冬の夜のように寒々しかった。
人々はどこに行ってしまったのだろう。まるで蒸発でもしてしまったかのように、忽然といなくなってしまった。
戦争か盗賊に遭ってしまったのだろうか。しかしそれにしては、さほど荒れている様子もない。
ふと、家々の生活用品がことごとくなくなっていることに気付いた。
ということは、集落を離れたのか!
一体どこに行ったというのか。
「難民にさほど期待されておらぬようだな」
シァンドロスは冗談じみて言った。コヴァクスとニコレットは思わず、鋭い目でシァンドロスを見据える。
しかし言い争っている場合ではない。歯を食いしばって、集落中を駆け巡った。
「みんな、どこに行ってしまったんだ!」
死ぬ思いをしながら旅をして、帰ってきたというのに、この集落の有様は、一体どういうことであろう。
まだ試練は続くというのか。
シァンドロスの言うとおり、さほど期待されていなかったのだろうか。
それにしても、そうであったとしても、ソシエタスやクネクトヴァに、カトゥカ、バルバロネまでいないなんて。彼ら彼女らまでがコヴァクスとニコレットに見切りをつけるなど、どうして考えられよう。
いつしか馬を停め、呆然としていると、耳に触れる声がある。
「おーい、おーい」
と、それははっきりと聞こえるようになる。
バルバロネの声だ!
「小龍公、小龍公女!」
「コヴァクスさん!」
「ニコレット姉さま!」
バルバロネの声につづき、ソシエタスにクネクトヴァ、カトゥカの声がした。
声がして、神雕軍は一斉に身構えたが、シァンドロスは右手を挙げてこれを制す。
「ソシエタス、バルバロネ!」
「カトゥカ、クネクトヴァ!」
コヴァクスとニコレットは急ぎ声の方へ駆けた。はたして、駆け込んできたのはソシエタスにバルバロネ、クネクトヴァ、カトゥカであった。
他はいない。
「ソシエタス、みんなは? お前の馬は?」
みんなが消えた、そればかりか、自分の馬を持っていたソシエタスが徒歩だ。一体何があったというのだ。
コヴァクスとニコレットは急いで下馬し、自分の足でソシエタスらのもとに駆け寄った。
「どうもこうも……」
バルバロネは褐色の頬を紅潮させて、歯を食いしばっていた。ソシエタスも無念そうな顔をし、クネクトヴァとカトゥカは哀しそうな目をしている。
「馬は、さて、話せば長くなりますが。それよりも小龍公女、あの者たちは……」
ソシエタスはシァンドロスと神雕軍を見て、怪訝そうな顔をする。てっきりイヴァンシムら赤い兵団とともに帰ってきたと思っていたのに。
「彼らは……」
ニコレットが説明しようとすると、シァンドロスと神雕軍は騎乗のままずかずかとやってきて。
「我はソケドキア王太子、シァンドロス。この者たちは神雕軍である。イヴァンシムの赤い兵団にかわり、我らが力添えすることになった」
と馬上から相手を見下ろしずけずけと言う。
ソシエタスらが呆気にとられたのは言うまでもない。イヴァンシムと出会えなかったのは仕方ないにしれも、その代わりにソケドキアの王太子とはこれいかに。
(はてさて、これは、狐に化かされようとしているのか)
と思わず心でぼやいてしまう。コヴァクスとニコレットが連れてきたのなら、本物だろうと思うことにし、
「おふたりにお仕えするソシエタスと申します。以後お見知りおきを」
と丁重に挨拶する。
「うむ、それよりも、我々はコヴァクスとニコレットより話を聞き力添えをすることになったのだが。守るべき難民がおらぬとは、いがかしたのだ、わけを聞こう」
さすが王太子だけあり、もう他を威圧し頭上に君臨している雰囲気をかもし出していた。
コヴァクスとニコレットはシァンドロスの高飛車な態度が鼻につくものの、それを堪えソシエタスから話を聞くことにした。
ソシエタスらが語る内容は、こうだった。