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第四十二章 新たな旅立ち Ⅲ

 オンガルリ・リジェカの二ヶ国は固い同盟関係を維持し。国力を充実させることに専念していた。

 二ヶ国とも分裂やタールコの征服を経て再興し、新たな歴史を刻みはじめていた。

 オンガルリにおいては女王ヴァハルラが、リジェカにおいては若き王モルテンセンの、人民を慈しむ政治が執られて。

 その一方で、モルテンセンはオンガルリの王女アーリアと婚約し、オンガルリの王子カレルはリジェカの王女マイアと婚約をし。

 両国は縁戚関係となることで、その絆はより強固なものとなっていった。

 さてオンガルリの国王バゾイィーであるが、両国捜索隊を派遣するもその姿は一向に見つからなかったが。

 ある日、アスマーン国から使者が来て。オンガルリ国王バゾイィーは、国を捨て自由人となって、気ままに生きている。という旨が告げられた。

 これは、ムスタファーの配慮によるものであった。

 これには女王ヴァハルラも、オンガルリに赴任していたコヴァクスもいたく驚いたのはいうまでもなかった。

 しかもムスタファーとともに革命にくわわったというではないか。

 その後、行方をくらまし。ムスタファーも捜索をするも、捜し求めることはかなわないという。

「バゾイィー陛下は、もはや心に翼芽生え。風まかせに生きられているようでございます」

 と言う使者の言葉を、ヴァハルラは呆気に取られて聞いていた。

(自分たちは捨てられたのか……)

 驚くやら呆れるやら。

 一国の国王ともあろう者が。

 そばにひかえるコヴァクスも、使者の言葉を黙って聞いて。様々な思いに駆られた。

 思えば、王が奸臣にそそのかされて父母を死に追いやり、ドラゴン騎士団は壊滅し。己とニコレットは異国で命懸けの戦いを強いられることになった。

 王はただ自由を欲して、国も家族も捨てたわけではあるまい。おそらく、己に王の器なしとさとり、国を背負わぬ生き方を選んだのではないか。

 ふと、コヴァクスはそんなことを考えた。

 それとともに、使者の「心に翼芽生え」と言う言葉が心に引っ掛かった。

 使者は丁重に挨拶し、オンガルリをあとにした。

 それから女王ヴァハルラは決断を迫られた。もはやバゾイィー王が国に帰る気がないというのなら、王はないものとして国を治めてゆかねばならない。

「これからは、そなたらがいっそう必要となってきます。小龍公、よろしく頼みますよ」

「はい……」

 コヴァクスは返事をしながら、心がうずくのを禁じえなかった。

 それから、城を出、宿舎に帰ってゆく。

 宿舎に帰れば、龍菲ロンフェイが笑顔で出迎えた。この、はるか東方のマオ人の龍菲と、コヴァクスの仲は、いまは公然のことであった。

 当初は謎めいていた龍菲であったが、戦いにおける功績大にして。仲間に加わり。いつの間にか、コヴァクスの隣の位置に占めることとなった。

 コヴァクスも、公事を除いては、いつも彼女とともに時を過ごし。故郷の昴のことをよく聞いていた。

 昴の話を聞きながら、オンガルリ人こと、マジャクマジール族は東方の騎馬民族を祖とすることが強く心の中できらめき。

「オレは、先祖の足跡をたどってみたい」

 そんなことを、龍菲に語ったこともあった。

 いつの間にか、コヴァクスの心は、まだ見ぬ東方に向けられていた。

 乱世が治まり、平和が訪れるとともに、その思いはいっそう強くなってゆく。

(だがオレは小龍公として、オンガルリ・リジェカの二ヶ国を守る使命がある……)

 コヴァクスは葛藤した。

 葛藤を紛らわすため、愛馬グリフォンに乗って風まかせに四方を駆け巡ったこともあった。そのそばには、いつも龍菲がいた。

 ふたりは風まかせに馬を駆って。コヴァクスと龍菲は、それが心から楽しかった。楽しかったが、その楽しさがコヴァクスには葛藤でもあった。

 あるときには、オンガルリ随一の教会であるマーヴァーリュ教会の筆頭神父ルドカーンに葛藤を打ち明けたこともあった。

 ルドカーンは静かにコヴァクスの話を聞くと、慈悲深い眼差しで、

「そなたの心のままに生きるがよい。そなたに邪心ないことは、わたしもよく存じておる」

 と言った。

 これにはコヴァクスは戸惑った。てっきり、ドラゴン騎士団、小龍公としての使命に生きるべし、と言われると思っていただけに。

 思わず、

「なぜでございますか」

 と、問い直してしまった。

 ルドカーンは優しげに微笑み。

「さきほど言ったとおりじゃ。そなたは、そなたの心のままに生きるがよい」

 と言った。

 コヴァクスは心が大きく震えたものだった。

(ルドカーン筆頭神父は、なにもかも、お見通しなのか)

 東方への思いは日に日に強くなってゆき。抑えがいつまでもつのか、自分でもわからなかった。

 ルドカーンはそれを見抜いて、そんなことを言ったのであろうか。

 いわば、言っても聞かぬであろう、と。

 ならば、いっそのこと、コヴァクスの心のままに生きてみるのもひとつの手ではないか。

 いっそのこと……。

 揺れ動くコヴァクスの心は、ルドカーンの言葉を受けて、東方へと傾きつつあった。

 だがルドカーンの他に、コヴァクスの心境を見抜いていた者がある。

 それは妹の、小龍公女ニコレットであった。

 リジェカに赴任していたニコレットであったが、兄の様子が気になって。いてもたってもいられず、モルテンセン王の許しを得て、オンガルリに一時帰国した。

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