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第三十九章 崩壊の序曲 Ⅱ

 ソケドキア軍が慌ただしくなる。

 騒然としている、といってもいいだろう。

 トンディスタンブールでのことは、軍勢全体にも広まって。騎士や兵士たちの動揺は大きい。

 まさか、そんなことが、という言葉以外なにがあろう。

 それぞれの隊を率いる部将らは、シァンドロスから下された撤退の号令を信じられぬ思いで兵士らに伝えねばならなかった。

 ザークラーイの会戦では精彩を欠くソケドキア軍であった。泣き面に蜂とは、このことであろう。

 騎士や兵士らは、動揺する気持ちを抱えながら撤退の準備にとりかかっていた。

 中には、

「やっとれんわい」

 とうそぶく者もいた。

 何をしにここまで来たのか。苦戦に苦戦を重ねた挙句に、都での革命。今までソケドキア、シァンドロスがしてきたこととは、なんだったのであろう。それについていった自分はなんだのだろう。

 つい最近、ベラードの都市をおもちゃにして楽しんでいたのが。一気に急降下である。

 士気ががた下がりなのは、やむをえないことであった。

 この撤退の準備をする様子は、ザークラーイ山からも見えた。

 それを見下ろすモルテンセンにイヴァンシム、ジェスチネは、本国でなにかがあったことを悟った。

「ソケドキア軍が帰り支度をしているぞ」

 モルテンセンは嬉々として言った。イヴァンシムはそれに応えるように言う。

「おそらく、本国で何事かあったのでしょう」

「それとも、タールコが挙兵しソケドキアに攻め込んだ、かな」

 ジェスチネは、

「ざまあみやがれ」

 と言いたげに、得意満々の笑顔でソケドキア軍の撤退の準備を見下ろしていた。

 モルテンセンはなにか思いついたように、

「そうだ、今まで散々言いたい放題言われたし、攻めたい放題攻められた。そのお返しにこちらも、なにか言ってやってみては」

「いえ、余計なことはせず。撤退するに任せるがいいでしょう」

 無邪気すぎるきらいのあるモルテンセンを、イヴァンシムは戒める。

 モルテンセンは、

「そうだな」

 と、苦笑しながら頷くしかなかった。

 

 さてオンガルリ・リジェカ双方のドラゴン騎士団らである。

 ザークラーイ山より離れたところに布陣し、物見にソケドキア軍の様子をさぐらせ奇襲の機会をうかがっていたのだが。

 その最中に、トンディスタンブールでの獅子の革命の報せが飛び込み。

 コヴァクスとニコレット、ダラガナらは口から心臓が飛び出るほどに驚いたものだった。

獅子王子アスラーンムスタファーが、トンディスタンブールで、革命!」

 斥候がもたらした報せに、コヴァクスとニコレットは顔を見合わせて、まさか、と言いたげにしていた。

 シァンドロスは自国領土の都市さえも破壊した。そんな統治では、いつか反シァンドロス派が蜂起しソケドキア国内で革命が起こるかもしれない、とイヴァンシムは予測し、それを聞いてはいたが。

 まさかムスタファーが革命を起こし、都トンディスタンブールを占拠するなど、そこまでは予想もしなかったことである。

 イヴァンシムの予測は当たったことは当たった。だからこそ、その機を待ちつつソケドキア軍と対峙していた。

 ただ、その内容は想像の域を超えたものだった。

 タールコでの内乱、ムスタファーの失踪などは斥候から聞かされており。知らないわけではなかった。

 ムスタファーはこのまま消えてしまうのか、と思ったが。なかなかどうして。大胆なことをするものだ。

 ともあれ、イヴァンシムの予測は当たり。ソケドキア国内で革命が起こったのは確かである。あらためて、イヴァンシムの慧眼に感服する思いだった。

 それから、物見が戻り。ソケドキア軍が撤退の準備をしているという報せがもたらされる。

「さて、どうする」

 ドラゴン騎士団らはすぐにでも出撃できるよう支度を整え。コヴァクスはニコレットにダラガナといった主立った面々を集め、馬上での軍議を開いた。

「すぐにでも、攻め入りましょう」

 ニコレットは勢いよく言うが、ダラガナは首を横に振る。

「いえ、一旦ソケドキア軍を撤退させ。国内にあるうちに、後方を突くのがよいかと」

「私もそれがいいと思うわ」

 コヴァクスのそばにいる龍菲ロンフェイは、ダラガナと同意見であった。

 すこし離れたところにいるセヴナは、コヴァクスと龍菲とを交互に見据えていた。どうにも、このふたりが気になってしまうのである。

 それはさておき、龍菲がダラガナと同じく撤退をする後ろから突くという考えに、ニコレットは面白くないものを感じた。

 別に龍菲はニコレットにあてつけたわけではない。ニコレットもそれはこころえている。

 この、雰囲気の掴みづらいマオ人の女性は、いつの間にかドラゴン騎士団らの中にあってちゃっかり居座っている。それでも、戦いになればよく戦うので、不思議は感じても印象は悪くない。

 が、まさか自分に同意するとは思っていなかったダラガナは、龍菲が自分に同意したことにやや苦笑する。

 コヴァクスは異なる意見が出て、それをまとめねばならない。ドラゴン騎士団の団長はコヴァクスである。

 最終的な判断はコヴァクスに委ねられるのだ。

 やや考えて、

「ダラガナと龍菲の言うとおり、撤退する背後を突くのがいいと思う」

 と、言った。

 ニコレットは、兄の顔を眺め。仕方がない、とあきらめて。

「わかりましたわ、お兄さま」

 とうやうやしく応えた。

 かくして、ドラゴン騎士団らは再び物見をはなってソケドキア軍の動向をさぐらせ。

 撤退をしはじめるのを待ちながら、いつでも出撃できるようにかまえていた。

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