第一章 ドラゴン騎士団 Ⅱ
水と油が混ざり合おうとしながらも、混ざり合えずに分かれるかのように。
それはまるで、水と油が同じうつわに入れられて、揺れて双方泡立つように。
そのうつわを揺らすは何か。
人々は気付きながらも、気付かぬようでもあり。
同じことがあるとすれば、両軍とも肌の色、髪の色も様々な人々によって編成されているということであり。
どちらかにしかない、というものはなかった。
人は、水と油のように分かれない。
小龍公女ニコレットの両眼が、それを物語っていた。
軍鼓管楽風を揺らし、双方の軍靴に騎馬の蹄、兵卒の掛け声、地を、天を揺らし。
戦いの緊張感は、心の昂ぶりとともに高まってゆく。
太陽は中天にのぼり、下界を見下ろす。
それを隠すように、双方より無数の矢が飛び空を覆い。双方盾を上に掲げて矢の雨をしのぐも、運の悪い者が射抜かれて、たおれ臥した。
やがて互いの目と鼻のかたちや肌の色がはっきりとわかるほどに両軍勢は近づき、
ドラヴリフト、ヨハムド両将の、
「かかれ」
という号令のもと、激突した。
双方天地を揺るがす怒号を轟かせ、騎馬・戦車が駆け、歩卒が走り、剣が閃き、槍は風をつらぬき。
草千里を走るような緑広がるオンロニナ草原は、たちまちのうちに人馬の屍たおれ草花は血に染まっていった。
大龍公ドラヴリフトにその子ら、小龍公コヴァクスに小龍公女ニコレットも剣を振るい、おのおの力の限り戦い敵陣深く切り込んでゆき、ドラゴン騎士団の騎士たちも遅れをとるなと、勢いを増してつづく。
ことに若きコヴァクスとニコレットの血気は盛んなもので、敵を一騎、また一騎と討ち果たしては愛馬を突き崩してゆく。
コヴァクスがゆけば、それは疾風怒涛となって戦場を駆けめぐり、敵兵ことごとく風に吹かれる古木のごとくたおれてゆき。
ニコレットがゆけば優雅な剣さばき、剣光のもと血風かわって戦場に赤い薔薇が咲き乱れるかのよう。
龍牙旗も同じく戦場を駆け、我が身に吹き付ける風を糧として堂々とたたずみ、敵を威圧し。
数の上では有利なタールコは、徐々に圧されていた。
「数は我が軍が多いのだぞ。取り囲んで、握りつぶしてやれ」
ヨハムドは槍を振るい、自軍を叱咤し怒涛のように押し寄せるドラゴン騎士団とぶつかり合った。
さすが彼もタールコの軍勢の全権をまかされる将だけに、戦車揺れるをものともせず両脚をふんばり、槍で敵騎を薙ぎ倒し、あるいは突き殺し。
一丸となるドラゴン騎士団の一角を突き崩そうと奮戦し、ヨハムドに随うタールコの諸将も、三万の軍勢がドラゴン騎士団の気風に圧されぬよう声を張り上げて将兵らを叱咤していた。
が、オンガルリ王国最強を誇るドラゴン騎士団は強く上手く馬を乗りこなすに軽やか。いかに戦車から槍を繰り出し、車輪の刃で攻め立てようとも、攻めをするりと馬とともにかわし隙を見て剣を、槍を繰り出し戦車の御者を、戦車の勇者を討ち取ってゆく。
そのそばには、かならず龍牙旗があった。
二倍の兵力差にもかかわらず、タールコの軍勢は後退をしないのがやっとの状況で、ここから敵を圧し前進するのは困難に思われた。
「おのれドラヴリフトめが」
ヨハムドは忌々しくうめいた。
大龍公ドラヴリフトの名が轟く前まで、タールコとオンガルリは互角であった。それが、ドラヴリフト以下ドラゴン騎士団が現れてからというもの、タールコは徐々に圧され。
領土もドラヴリフトの初陣のころより削り取られ、奪われた城は大小あわせて十五にのぼる。
国王バゾイィーなど怖れずとも、ドラヴリフトの名を聞けば、泣く子も黙る、といわれるほどその勇名とどまることを知らず。
また戦果も勇名の轟きにあわせとどまることを知らなかった。
「どうするべきか」
と、悩みあぐねているとき、左翼のニコレットの軍勢が急に衰えたかと思えば、左翼の龍牙旗は、突如として後退してゆく。
「むっ」
ニコレットの勇名も、父と同様に轟き、誰しもが小龍公女とおそれていたが。
「やはり、所詮は小娘ということか」
ヨハムドは槍を采配に左翼を指し、
「それ、小娘が崩れた。そこから突破しろ」
と号令をかけた
ニコレット率いる左翼の軍勢は厚みがなくなり、後退してゆき。ついには、背中を見せて走り出す。
ついにドラゴン騎士団の一角を崩せたと、そこから中軍右翼と突き崩してやる、とヨハムドは意気込み全軍をもってニコレットを追わせた。
が、当の小龍公女ニコレット、
「そうよ、ついてらっしゃい」
とおそれるどころか、笑って敵を誘っている風であった。
この戦いでタールコの第一の勇士の誉れを手に入れたいヨハムドは、血相変えて、
「追え」
を繰り返し、馬を鞭打つ御者を鞭打ち、自らの戦車を敵味方の別なく跳ね飛ばしながら、速度を上げさせた。
そのため、タールコの軍の陣形は一丸となったものから、触手をのばすようにニコレットを追いはじめて、やがて細長いものになってゆく。




