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第三十八章 獅子の革命 Ⅵ

 革命が起こった。 

 ムスタファーを先頭に、それに導かれるようにして無数の人々が天宮を目指した。

 無論、守備兵が黙っているわけはなかった。

 刃を突きつけ、

「とまれ! とまらぬか!」

 と怒号をはなち、前にたちはだかるが。ムスタファーはザッハークを駆けさせざまに守備兵を斬ってたおしてゆく。

 人々ももろ手を挙げて、思い思いに得物を手にして。守備兵と渡り合っている。

 天宮へゆく途上、数千にのぼろうとかという守備兵が立ち塞がった。

「畏れ多くも、神雕王の都で反逆を起こすとは。身の程知らずとまさにこのこと」

 守備兵の長は兵を指揮しながら叫んだ。

「やれ、畏れを知らぬ不届き者に制裁をくわえよ!」

 号令を受け、守備兵はひと塊となってムスタファーに刃を振りかざして襲い掛かった。

 常日頃、強力な指導力を持った、英雄とでも言おうか。そういった者があらわれて、トンディスタンブールをソケドキアから解放してくれないか、と願っていた人々の心に、ムスタファーの出現は計り知れぬ刺激を与えた。

 ムスタファーらに群衆、守備兵は入り乱れて。

 トンディスタンブールは一気に争乱の巷と化した。

 

 天宮では、タールコの旧臣とソケドキアから派遣された代官が重い空気のなか広間にあつまり。

 突如起こった革命騒動に、侃侃諤諤かんかんがくがくの論議を繰り広げていた。

 特に代官は容赦なく旧臣を責め立てた。

「そこもとらの統治がうまくいっていなかったから、このたびのような争乱が引き起こされた。どう責任をとるつもりか」

「馬鹿な。我らタールコの旧臣とはいえ、ソケドキアの臣となってトンディスタンブールに安穏あれと己の使命を全うしてきた」

「それが、いまのざまはなんだ! 現に今、群衆はムスタファーをかたる者に扇動されて革命だと騒ぎだてているではないか」

「……。いや、報せによれば、まこと獅子王子アスラーンムスタファーのようでござる。行方不明とされていたが、トンディスタンブールにおられたのだ」

「まことムスタファーと言い切れる確証はあるか」

「それは、直に顔を見ねばなんともいえぬ。しかし、ただのかたりが、ここまで群衆を導けようか」

 旧臣の声は上気し、代官に遠慮するところがない。

 代官はそれが気に入らなかった。ことの事態を怖れて、縮こまってくれるほうが、代官には都合がよかったのだ。

「そこもとは、この革命騒動を、喜んでおるのではないか」

「何を言う」

 代官の言いがかりに、旧臣は激怒して応えた。まるでこちらも反逆者扱いではないか。

 しかし激怒しながらも、ムスタファーが生きていたという報せは嬉しかったのは確かだった。

 獅子王子・ムスタファーはタールコ臣下たちの間では人気が高く。これからのタールコを背負って立つ皇太子として期待されていたのだ。

「こうなった以上、タールコ人の者はこの天宮に置くことはできぬ。事が収まるまで、しかるべき場所にいてもらろう」

 しかるべき場所とは、どこか。言うまでもなく、牢獄のことである。

 代官は士官や兵士らを呼んで、旧臣を捕らえるように命じた。

 天宮の守備は、タールコ人は用いず。ソケドキアから派遣された兵のみでかためていた。だから、こうなると旧臣らはお手上げで、抗う術はなかった。

「我らを捕らえるのか」

「おうさ。やはりタールコ人は信用ならん」

 士官が兵士に命じ、旧臣を捕らえ縛にかけようとする。

 旧臣は顔を真っ赤にして、縄をかけられながらも代官らを睨み据えるが。代官の眼差しは冷然としたものだった。


 市街では守備兵とムスタファーらが導く群衆が激しく争っていた。

 ムスタファーは先頭に立ち、ザッハークを駆けさせ守備兵を次々と薙ぎ払ってゆく。イムプルーツァにパルヴィーン、バゾイィーも負けずと勇戦する。

「解放を、解放を!」

 群衆から異口同音に解放という言葉が叫ばれる。

「防げ、なんとしても防げ!」

 守備兵の長は馬上から何度も激しく号令するが。群衆から鬼気迫るものを感じて、恐れを感じないわけではなかった。

 トンディスタンブール十万の群衆が、怒涛となって天宮に押しかけている。そういう風に守備兵の長には見えた。

 さすがに十万人すべてが革命のために戦っているわけではない。争乱を怖れて家に閉じこもる女子供に老人もいれば。

 ソケドキア、シァンドロスに傾倒している者もおり。それらは守備兵の側にまわり、ムスタファー導く群衆と渡り合っていた。

 だが、数としては解放を願うものが圧倒的に多い。ムスタファーが立ち上がってから、そのもとにあつまる群衆はあっというまに数万を数えた。

 それに対し守備兵は一万程度。

 兵のほとんどは、リジェカ・オンガルリ征服のための戦いに狩り出されていた。

 シァンドロスとしても、よもやムスタファーが大胆にもトンディスタンブールで群衆を扇動し革命を起こすなど、想像もしえなかったことだろう。

「邪魔する者は、薙ぎ払え!」

 守備兵を斬りながら、ムスタファーは叫ぶ。イムプルーツァもパルヴィーンも、

「トンディスタンブールをふたたびタールコの都に、獅子の都に!」

 と叫んで、群衆に呼びかけた。

 獅子の都、とは。このトンディスタンブールを、ムスタファーが治めるということであり。タールコの皇帝は獅子皇ムスタファーなのである、という主張でもあった。

 熱狂した群衆は、解放についで、

「獅子の都に!」

 と叫んで。

 守備兵を薙ぎ払い、天宮を目指した。

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