第三十八章 獅子の革命 Ⅱ
ところは戻る。
旧ダメドとリジェカの国境地帯アウォーヴァー地方のザークラーイ。
カンニバルカ率いる遊撃軍とオンガルリ・リジェカ双方のドラゴン騎士団らは激突し。
ドラゴン騎士団らは見事、遊撃軍を打ち破り。敗走にいたらせる。
敗走する兵の中にあって、主将カンニバルカ一騎のみその場に踏みとどまり。コヴァクスと龍菲と対峙していた。
カンニバルカは逃げぬ。
じっと、コヴァクスと龍菲とを見据えていた。
やがて、ニコレットや赤い兵団を率いるダラガナに、紅の龍牙旗を掲げるアトインビーらも集まってきて。
カンニバルカを取り囲む。
取り囲まれるカンニバルカは、敗北を悟りつつも、シァンドロスに負けぬほどの不敵な笑みを見せている。
「かかってこい!」
カンニバルカは叫んだ。
「ここが、オレの墓場と決めた。流れ者の人生は、もう終わろう。ドラゴン騎士団との戦いで死ねば、天上の神々も悪いようにせんだろうて」
叫ぶが早いか、カンニバルカは大剣を掲げコヴァクス向かって馬を駆けさせた。
「うむ、ならな望みどおりにしてやる!」
コヴァクスは槍斧を掲げて、カンニバルカの大剣を受け、激しく火花ちらした。
「遠慮は無用。皆で来い!」
コヴァクスと刃を交えながら、カンニバルカは集まった一同に叫ぶ。もう、もとから戦って死ぬ気であった。一騎打ちなどで誤魔化す気もない。
敗走する兵らはもう彼方へと走り去り。周囲には、オンガルリ・リジェカ軍が集まり取り囲んでいた。
龍菲は助太刀と龍星号を駆けさせる。
「来るな! これはオレとカンニバルカの一騎打ちだ!」
槍斧を振るいカンニバルカの大剣と刃を交えながらコヴァクスは叫ぶ。同時にニコレットが白龍号を駆り、咄嗟の判断で龍菲のそばまで来て、手綱を取ろうとしたが。
龍菲はしたたかに手刀でニコレットの手を払い、コヴァクスの叫びにかまわず駆けてゆく。
「お兄さまのお心をだいなしにするの!」
「コヴァクスひとりでは、カンニバルカに敵わないわ。ニコレット、あなたは兄が討たれてもいいというの」
などと言い、カンニバルカに迫り。コヴァクスとともにカンニバルカに刃を見舞う。
「わっははははは! いいぞいいぞ、相手は多いほど面白いというものだ!」
カンニバルカはふたりから攻められるのも楽しむほどの余裕を見せた。
ニコレットは躊躇する。
確かに、コヴァクスとカンニバルカとの一騎打ちでは、カンニバルカ優勢であった。放っておけばコヴァクスこそ討たれてしまうだろう。
「龍菲!」
コヴァクスは叫んだ。
「頼むから、一騎打ちをさせてくれ!」
それを聞いたカンニバルカは、自分から馬首を返し、コヴァクスと龍菲から離れてゆく。
「あ、待て」
逃げるかと思い、急いで後を追おうとしたが。カンニバルカの駆る馬は、ニコレット目掛けて駆けてゆくではないか。
「小龍公女よ! 若さににあわず、野暮な女よ」
そう叫びながら大剣を振るってくる。
ニコレットは咄嗟に剣を構えて、大剣を受け流す。
(なんという剛力!)
うなる大剣を受け流し、かわしながらニコレットはカンニバルカの勇猛に舌を巻いていた。確かに、これが相手では、コヴァクスも危ういであろうことをいやでも実感するのであった。
そこへ、急いで駆けつけたコヴァクスと龍菲が加勢する。
三つの刃と、カンニバルカの大剣が激しく交わる。
大剣は自由自在に動き、三つの刃を受けながらも、隙あらば相手の顔面に切っ先が迫ってくる。
「ううむ、どうしたものか……」
ダラガナはさすがに咄嗟に判断しかねた。いかに相手が多勢を望むとも、もとは一騎打ちであった。そこに飛び込むのは、騎士道にもとるのではないか、と面子が迷いを生んでいた。
セヴナはいつでも矢を放てるように構えつつも、はらはらどきどきだ。
しかし、なんというカンニバルカの強さであろう。コヴァクスとニコレット、龍菲の三人を相手にしながらも、楽しむ余裕を見せているとは。
「どうしたどうした、たった三人か! もっとかかってこんかい」
カンニバルカは激しく刃を交えながらも、周囲に叫んだ。
彼としては、理屈抜きに戦いの中で死にたいのであろう。
「まったく、つまらん奴らだ」
カンニバルカは馬首を返し、三人から遠ざかってゆく。行く先には、オンガルリ・リジェカ軍の兵士たち。
「おおおッ!」
怒号をはなち、カンニバルカはオンガルリ・リジェカ軍の中へと大剣振るって駆け込んで。わっ、と喚声を放つ兵士らを薙ぎ倒してゆく。
「なんという奴だ!」
もう無茶苦茶だ。カンニバルカには騎士道はないのか。コヴァクスは急いでカンニバルカを追った。龍菲もニコレットもそれに続く。
「ええい、もはや問答無用だ! カンニバルカを討て!」
ダラガナはようやく決心し、そう号令をくだした。もはや騎士道がどうこうと通じるような相手ではなかった。
状況は一気に混沌として。カンニバルカの大剣は思う存分、オンガルリ・リジェカ兵を薙ぎ倒してゆく。
セヴナは咄嗟に矢を放った。
矢は風を切り、カンニバルカの右肩を射た。
「うむ」
右肩に突き刺さる矢を、左手で無理矢理引っこ抜き。傷口からとめどなく血が溢れる。
利き腕をやられ、大剣の動きは鈍った。
「カンニバルカ!」
コヴァクスは叫びながら、カンニバルカに迫り。槍斧を振るう。
「おう、小龍公か。討て、オレを討て!」
右肩を血に染めて、カンニバルカは大剣を左手に持ち替えて、コヴァクス向かって馬を駆けさせた。
ぶうん、と槍斧はうなりをあげてカンニバルカ目掛けて振り下ろされて。斧の部分が、左肩を砕き。さらに、左胸にまで達した。
槍斧が振り上げられたとき、カンニバルカは不敵な笑みをコヴァクスに向けて。その不敵な笑みのまま、落馬して。
絶命した。
その顔は、戦い抜いたと、満足そうに不敵な笑みをたたえていた。