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第三十七章 ザークラーイの会戦 XX

「是非もないわい」

 カンニバルカは、おかしみを噛みしめ、吐き捨てるようにつぶやいた。

 遊撃軍は前後挟み撃ちにあって、混乱をきたして満足に戦えず。薙ぎ払われるがままだった。

「カンニバルカ!」

 己を呼ぶ声がする。声の方を見れば、槍斧ハルバードを振るうコヴァクスが迫ってきている。そのそばには、あの白い衣の女、龍菲がいる。気配を察して反対側を振り向けば、色違いの瞳の、ニコレットが剣を掲げて迫ってくる。

 それらを見て、カンニバルカはドラゴン騎士団の真意をさとった。本隊はザークラーイ山に任せて、ドラゴン騎士団はカンニバルカに当たるというのであろう。

「将軍!」

 部将が指示を仰ぐためにカンニバルカを呼ぶが、さてどうしたものか。状況は遊撃軍の劣勢である。

「ちぇ」

 カンニバルカは舌打ちし、

「好きにせい」

 と言うや大剣掲げてコヴァクスのもとに向かった。

「ドラゴンの小僧、主将たるカンニバルカはここぞ。相手になってやる」

「おう、のぞむところ!」

 カンニバルカ来るのを見て、コヴァクスは槍斧を振るいカンニバルカに迫り。激しく一騎打ちとなった。

 大剣と槍斧、刃は火花を散らし激しくぶつかり合った。

「しょ、将軍!」

 部将は困惑しコヴァクスとカンニバルカの一騎打ちを眺めた。劣勢に追い込まれ、満足に戦えぬ。このままでは撃破されてしまうというのに。

 一騎打ちどころではない。

「ええい、やむをえん」

 部将は馬を駆けさせ、コヴァクスに迫った。

「将軍、助太刀いたします!」

 と叫びながら、部下たちにも、

「将軍をお助けせよ!」

 と号令した。

 部将とその部下はコヴァクスに迫る。

「邪魔をするな!」

 カンニバルカは一喝したが、部将は、

「いまはそれどころではありませぬ」

 と聞かず。部下を引き連れ、ふたりの間に割って入ろうとする。それを見た龍菲、咄嗟に龍星号を駆って部将率いる一隊向かって飛び込み、風のように剣を舞わす。

 ニコレットもコヴァクスとカンニバルカの一騎打ちに邪魔が入り、

「卑怯!」

 と叫んで、一隊を引き連れ部将に迫る。

 コヴァクスとカンニバルカは突然の邪魔に入られたが、それを龍菲とニコレットが追い払い。ふたたび、刃を激しく交えた。

 龍菲は兵士たちを薙ぎ払い、ニコレットは部将に迫る。

「小癪な、女め!」

 噂に聞く色違いの瞳。それが小龍公女ニコレットだと気づくのに時間はかからなかった。部将は、本当なら軍勢をカンニバルカに代わってまとめたいところだが、ニコレットの剣が迫り彼自身それどころではなくなった。

「やあッ!」 

 ニコレットの気合の叫び。剣とともに部将に迫る。

 部将も剣を振るい、ニコレットと刃を交えざるを得なかった。その間にも、コヴァクスとカンニバルカも激しく刃を交え。龍菲は周囲の兵士らを薙ぎ払ってゆく。

 赤い兵団のダラガナはカンニバルカと一騎打ちするコヴァクスに代わってリジェカ軍をまとめ、カンニバルカの遊撃軍を打ち破り。オンガルリ軍はニコレットの勇戦に刺激を受けて、何も言わずとも直属の部将が軍勢をまとめ遊撃軍と当たっていた。

 戦場は混乱をきたしているようで、リジェカ・オンガルリ軍はうまくまとまって、遊撃軍を打ち破っていた。

 意表を突かれた遊撃軍は、されるがままであった。

 ニコレットの剣が風を切り、激しく部将の剣を叩く。

(さすがは小龍公女、噂にたがわぬ勇ましさ)

 部将は押され、焦り。防戦一方で。ついに、

「げっ」

 という悲鳴を発した。ニコレットの剣が、頸部を斬りつけ。部将は血の吹き出る箇所を咄嗟に押さえたところへ、第二撃が迫り。剣はまっすぐに心臓部に迫り、鎧を貫き通して左胸をも貫いた。

 ニコレットが剣を引き抜いたとき、部将は絶命し。そのまま落馬した。

 ふと、ニコレットは龍菲と目が合った。龍菲はコヴァクスとニコレットの一騎打ちに邪魔が入らぬよう、周囲の兵士らを追い払っていた。

 龍菲は笑顔をニコレットに向けた。

 ニコレットは困惑して、そのままそっぽを向いて、

「我らオンガルリ軍は、このまま遊撃軍を撃破せよ!」

 と号令をくだして駆けていった。

 残されるかたちとなった龍菲は、ニコレットの背中を笑顔で見送った。笑顔といっても、その瞳はどこか寂しげだった。

 カンニバルカはコヴァクスと刃を交えながら、部将がニコレットに討たれたのを目にし。遊撃軍の兵士たちはオンガルリ・リジェカ軍に追われて、逃げ惑っているものが多い。

 もはや勝ち目のないことをさとった。

 ここで己一人勇戦したところで意味はない。だが、カンニバルカはコヴァクスとの一騎打ちをやめなかった。

「どうしたどうした小龍公! お前の腕前はそんなものかッ!」

 大剣は唸りをあげて、槍斧に激しくぶつかり。コヴァクスはその一撃を受けるたびに、腕に激しくしびれを感じざるを得なかった。

 カンニバルカの剣撃の勢いは、まさに怒涛のごとくであった。

 コヴァクスがおされ気味なのを見た龍菲は、咄嗟に助太刀にゆこうとし。龍星号を駆けさせた。

 ここで、あの時と同じようにコヴァクスを助けようというのだ。

「おう、お前はあの時の小娘か。面白い、ふたりでかかって来るがよい!」

 カンニバルカは笑い。ひとりでふたりを相手にしようとしていた。

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