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第三十七章 ザークラーイの会戦 XVII

 ソケドキア軍はザークラーイ山に向かって、無数の悪口と罵詈雑言をはなち。それは山を飲み込むほどの勢いだった。

 それに対しリジェカ軍は歌をうたうことで対抗していた。

 声と言葉の戦い。

 ソケドキア軍は悪意を満々と込めて。リジェカ軍は屈辱に耐える勇気をもって。

 陽が東より姿を現し、中天にのぼるころまで続いた。

 ソケドキア軍はこれでもか、これでもか、と悪口罵詈雑言をはなつも。リジェカ軍はよく堪えている。これにシァンドロスは眉をしかめた。

「なんという我慢強い奴らだ」

 気がつけば、ソケドキア軍の悪口罵詈雑言の声が小さくなりつつあった。やってて馬鹿馬鹿しくなったのだ。それに対し、ザークラーイ山からはひたすら歌声が聞こえてくる。

 挑発は相手が乗ってこそ意味がある。相手が堪えてなにもしなければ、やっていても面白くもないというものだ。

 なにより、当のシァンドロス自身も馬鹿馬鹿しさを感じ始めていた。

「ええい、もうやめだ、やめだ」

 馬鹿馬鹿しさも頂点に達し、シァンドロスは悪口罵詈雑言による挑発行為をやめさせた。ソケドキア軍が悪口罵詈雑言をはなてばはなつほど、歌声は大きくなる一方だった。

 挑発に乗って山を下りるどころか、かえって団結を強めてしまう結果となってしまった。

 それがわかり、シァンドロスは歯噛みした。

「攻めよ! こうなれば徹して攻めよ!」

 シァンドロスは声を大にして号令をくだす。

 所詮戦いは声や言葉でなく、刃と力によってするものだ、ということをシァンドロスは痛感したのだった。

 ソケドキア軍は悪口罵詈雑言をはなつのをやめ、喚声をあげてザークラーイ山に迫った。

「こうなると思ったわい」

 遊撃軍を率い周辺をまわるカンニバルカは、そう、ぽそっとつぶやいた。


 物見からの報せで、ニコレットはソケドキア軍が挑発行為をあきらめ、力攻めに転じたことを知った。

「それで、カンニバルカの遊撃軍は?」

「は、あいかわらず、ザークラーイ山包囲軍の周辺をまわっております」

「わかったわ。ありがとう」

 物見を下がらせ、ニコレットはオンガルリドラゴン騎士団およびオンガルリ国軍三万五千に振り向いた。

「オンガルリを、ふたたびの征服から守れるか守れないかは、この戦いにかかっているわ。犠牲も出るでしょう。それでも我らは戦わねばならないわ」

 ニコレットは叫んだ。

 オンガルリドラゴン騎士団およびオンガルリ国軍三万五千に、そのことが伝えられる。

「オンガルリのために!」

 という叫びがオンガルリ軍から起こった。

 士気は高かった。

 オンガルリは奸臣の謀略により国防の要であるドラゴン騎士団を壊滅させ、それによりタールコに征服されるという屈辱を味わっている。

 コヴァクスとニコレットが革命を起こし、そして龍菲の密かな働きもあり、オンガルリは再興できた。そこへ、今度はソケドキアの脅威である。

 二度も他国から征服させてなるものか、とオンガルリの兵士たちは士気も高く。戦いを待ち望んでいたくらいだった。

 士気の高さを感じ取り、ニコレットは何も言うことはないと察して。

「進軍!」

 という号令をくだした。

 

 国境方面のリジェカ軍およそ一万五千にも、物見からの報せがもたらされる。

 挑発行為が効かぬと、力攻めに転じた、ということである。

「ソケドキア軍そのものは、ザークラーイ山で防げましょう。小龍公女との打ち合わせどおり、我らはカンニバルカの遊撃軍と相対しましょうぞ」

 コヴァクスのそばにひかえる赤い兵団のダラガナが言う。すこし離れたところに、龍菲。じっとコヴァクスを見つめている。

「うん。ゆこう」

 コヴァクスは顔を引き締めて、言った。

 龍菲はそんなコヴァクスの引き締まった顔を、笑顔で見つめていた。

 セヴナはすこし離れたところで、その様子を眺めていた。このふたり、これからどうなってゆくのであろうか、気が気でなかった。

「進軍!」

 コヴァクスは声も高らかに号令をくだし。 

 リジェカドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団は、ザークラーイ山に向かい進軍を開始した。

 

 ソケドキア軍はザークラーイ山を攻めた。

 最初と同じように、東西と南方面の崖をよじのぼり。北方面では急づくりの橋を増やして、一斉に石壁に向かっていった。 

 北方面の防衛隊はひたすらに矢を放ち、ソケドキア軍をよせつけない。そもそも、川が堀の役割を果たし、全軍一斉に攻めかかれず、橋を渡る順番待ちの行列ができている。

 防衛隊は矢のみならず、油壺をもはなって。ソケドキア軍兵士に当たって砕けた油壺は油をぶちまけ、そこへ火矢がはなたれて。火だるまになる兵士がところどころで見受けられ。北方面からの攻撃は非常に手間取ったものだった

 東西と南方面の攻防も凄まじく。

 崖をよじのぼる兵士に岩石が落とされて。崖中から悲鳴があがり。岩石の地面に激突する音も響きわたった。

 岩の下敷きになり、人の姿をとどめぬ兵士らが崖下に岩石とともに積み重ねられる。

 挑発が効かぬと、力攻めに転じたソケドキア軍であったが、結局のところ攻めあぐねて。

 シァンドロスはいままでの戦いと違って、このザークラーイでの戦いは、精彩を欠いていることを感じざるを得なかった。

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