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第三十七章 ザークラーイの会戦 XII

 ペーハスティルオーンの剣と、コヴァクスの槍斧ハルバードがぶつかり合い。鋭い金属音を発した。

 主将同士の一騎打ちである。

 コヴァクスの槍斧唸りをあげて、ペーハスティルオーンに迫るも。ペーハスティルオーンもさるもの、槍斧を受け流し、あるいはかわし。鋭い斬撃をコヴァクスに見舞う。

 龍菲ロンフェイは、少しはなれたところでその一騎打ちを眺めていた。

 笑顔だった。

 その笑顔に応えるかのように、コヴァクスは槍斧をうならせた。

「むっ」

 最初こそ互角であったかに見えた一騎打ちだが、徐々にコヴァクスが押し。ペーハスティルオーンは押されてゆく。

 その一方で、リジェカ軍はソケドキア軍を分断するため突破しようとする。

「駆けよ。突っ切れ!」

 部将は声高に叫び、リジェカ軍は刃を振るって乱戦を駆け抜けてゆく。ソケドキア軍は取り囲もうとするが、リジェカ軍の勢い凄まじく、止めるに止められなかった。

 それは、リジェカの怒りをあらわしていた。

 コヴァクスとペーハスティルオーンの一騎打ちを眺めていたセヴナは、咄嗟に矢を放った。

 矢は風を切り、ソケドキア軍の射手に当たり。射手は悲鳴をあげ、もんどりうってたおれた。

 続けて矢を放ち、次々と射手は射止められてゆき。ソケドキア軍の射手たちは、弓矢を落としてはたおれてゆく。

 ソケドキア軍の射手は、コヴァクスに狙いを定め矢を放とうとしていたのだ。

「主将同士の一騎打ちよ!」

 セヴナは叫び。ダラガナも、ソケドキア軍が一騎打ちをまともにする気がないのを見て取り、

「邪魔をさせるな!」

 と馬を駆けさせ、赤い兵団を率い、一騎打ちをさせようとしないソケドキア軍に向かっていった。

 ここでも、赤い兵団は目覚しい働きを見せた。ダラガナ率いる赤い兵団はソケドキア軍を退け、一騎打ちをするコヴァクスとペーハスティルオーンの周囲をぐるりと囲んだのだ。

 その間にも、槍斧と剣は激しくぶつかり合う。

 だが戦いはコヴァクス有利なようだった。もはやペーハスティルオーンは防戦一方。

 コヴァクスとペーハスティルオーンは旧知の仲であり、ともに旅をし、冒険をした仲ではあった。しかし、シァンドロスに利用された怒りで、そんなことにかまうことはなかった。

 もとより、ペーハスティルオーンにも旧知の仲という感慨などない。身の程知らずに報いを、という、殺意しかない。

 ペーハスティルオーンは、最初からコヴァクスを同等などと見ていなくて、見下していた。

 だからコヴァクスとしても、遠慮などなかった。

 出会ったころから、こんなことになるのではないかと、どこかで思っていた。所詮、コヴァクスとニコレット、シァンドロスは同じ道を歩めないのだ。同じ道を歩めない、ということは、こういうことなのだ。

 激しい金属音がしたとともに、太陽の光に反射しながら、刃が飛んだ。

 コヴァクスの槍斧を受け止めきれず、ペーハスティルオーンの剣が叩き折られたのだ。

「しまった」

 ペーハスティルオーンは狼狽し、急いで馬首を返してコヴァクスから逃げようとする。

 馬首を返すとともに、刃は地に落ち、突き刺さった。

「逃げるか!」

 コヴァクスは咄嗟にペーハスティルオーンの背中に鋭い一撃をはなったが、逃げ足早く、すんでのところで届かなかった。

「ソケドキアの主将は一騎打ちに敗れ逃げようとしているぞ。遠慮はいらん、かかれ!」

 ダラガナは瞬時に判断して、赤い兵団を率いペーハスティルオーンに向かっていったが。同時にソケドキア軍はペーハスティルオーンを救おうと喚声あげて、赤い兵団に立ち向かっていった。

 龍菲も咄嗟に馬を駆けさせ、赤い兵団を避けてソケドキア軍に突っ込んでゆく。

 赤い兵団はペーハスティルオーンを囲んだが、ソケドキア軍は主将を討たれてはかなわぬと、必死になって刃を振りかざしてくる。

 ペーハスティルオーンは丸腰になってしまい、狼狽してあちこち駆け回り、コヴァクスの追撃から逃げようとして。赤い兵団に囲まれ、恐慌をきたしていた。

「主将を助けよ!」

 ソケドキアの部将は叫び、赤い兵団の囲みを崩そうとする。

 そこへ、白い衣の女が飛び込み。白刃を振るって、駆け回った。ソケドキア軍は驚き、我知らずに散り散りになってゆく。

「なにをしている。たかが女一人!」

 部将は怒り、龍菲に槍を突き出す。しかし、槍はかわされて、風のように舞う剣が部将の頸部を斬り。

 ソケドキアの部将は無念のうなりをあげながら、血を頸部から噴き出しながら落馬し、絶命した。

 そこから、ソケドキア軍の一角が崩れだす。

 リジェカ軍も見事ソケドキア軍を突破し、分断させると。反転して、今度はコヴァクスや赤い兵団のいる方角へ向けて、喚声あげて突っ込んでゆく。

 ソケドキア軍は崩れだし。それは止まらなかった。

「おのれ、おのれぇー!」

 ペーハスティルオーンは赤い兵団の囲みの中をぐるぐる回って逃げ惑っていた。そこへコヴァクスが迫る。

「観念しろ、ペーハスティルオーン!」

 コヴァクスは槍斧をうならせ、迫ってくる。

 もはやペーハスティルオーンには、万に一つの奇跡的な勝利も脱出も叶わぬように見えた。

「……屈辱だ。こんな屈辱を受けて、おめおめと生き恥をさらせるものか。なにより、神雕王はお許しになるまい」

 ペーハスティルオーンはうなった。

 それから、意を決してコヴァクスに向かっていった。丸腰で。

「コヴァクス、オレを殺せ!」

 言われるまでもなく、コヴァクスは咄嗟に槍斧を振り上げ。ペーハスティルオーンの頭上へ振り下ろしていた。

 鈍い音がして、槍斧はペーハスティルオーンの兜を割り。さらに顎までを割った。

 馬上、むくろとなったペーハスティルオーンはもの言わず落馬し。地に横たわった。

「主将が討たれた!」

 ペーハスティルオーンが討たれ、崩れかけていたソケドキア軍の崩壊の度合いは加速し。騎士や兵士たちはもはや戦いにならぬと、散り散りに逃げ出していた。

「ソケドキア軍主将、ペーハスティルオーンを討ち取ったぞ!」

 コヴァクスは槍斧を掲げて叫んだ。

 それに続いて、ドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団は雄叫び上げて。

 敗残兵を追いたてた。

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