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第三十七章 ザークラーイの会戦 Ⅹ

 ドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団は、略奪に向かうソケドキア軍を待ちうけ。その前面に立ちはだかり、一丸となって立ち向かっていった。

「おのれ小癪な。憎たらしいドラゴンの牙をへし折ってやれ!」

 ペーハスティルオーンはドラゴン騎士団らが向かってくるのを見、自身も素早く抜剣し、

「かかれ!」

 と号令をくだした。

 両軍、喚声をあげて駆け。

 激突した。

「おおッ!」

 先頭のコヴァクスは槍斧ハルバードを振るい、ソケドキア兵を薙ぎ倒してゆく。

 コヴァクスに続けと、ドラゴン騎士団の騎士たちにリジェカ国軍の兵士たち、赤い兵団も勇戦しソケドキア軍と刃を交えた。

 だがソケドキア軍とて決して弱い軍隊ではない。ザークラーイ山を攻めあぐねているとはいえ、南方エラシア、旧ヴーゴスネア六ヵ国地域にタールコの西部まで版図を広げた。弱兵をもってできることではない。

 ザークラーイ山を攻めあぐねて、その鬱憤がたまっていたソケドキア軍の騎士や兵士たちは平地での真っ向勝負では引けをとらぬとこれも勇ましくリジェカ軍と当たった。

 また、楽しみの邪魔をされてたまるか、という気持ちもあった。先のベラードでの破壊と殺戮、その前でも随分と破壊と殺戮を繰り広げ、それがソケドキア軍になにか得体の知れない開放感を感じさせ、あらぬことに目覚めさせたのだった。

「薙ぎ払え! こやつらを倒さねば、楽しみにありつけぬぞ!」

 ペーハスティルオーンは剣を掲げながら軍兵を叱咤した。彼はコヴァクスのように先頭には立たず、軍の後方に身を置いていた。

 ソケドキア軍の騎士や兵士らも、言われるまでもないとよく戦った。

「腐っておるわ」

 ダラガナは戦いながら、叫んだ。

 ソケドキア軍の騎士や兵士らの目つき。血に餓えた獣そのものではないか。下っ端の兵士ならわからぬでもないが、立場ある騎士までがそうなのは、どうであろう。彼らもまた、シァンドロスの下で、あらぬ野心に目覚めてしまったのか。

「ソケドキア軍の破壊からリジェカを守れ!」

 ダラガナは再び叫んだ。

 ここで敗れれば、おめおめと破壊と殺戮を許すことになってしまう。決して負けるわけにはいかない戦いなのだ。

 セヴナも紅馬を駆けさせながら、矢を放ちソケドキア兵を倒してゆく。

 なにより、コヴァクスの奮戦目覚しいものがあった。

 ドラゴン騎士団としてソケドキア軍と戦うのはこれが初めてであった。かつては共にタールコと戦った仲だったが、それはシァンドロスがドラゴン騎士団やリジェカを利用したにすぎなかったことがわかり、袂を別たざるを得なかった。

 その怒りを爆発させたコヴァクスは、シァンドロスに拳を見舞った。

 それは決して眠ることのない怒りだった。

 先頭に立ち、槍斧を振るい、行く手を阻むソケドキア軍を薙ぎ払ってゆき。奥へ、奥へと突き進んでいった。

 数はソケドキア軍の方が五千ほど多かった。だがリジェカ軍は互角の戦いを繰り広げていた。

「突き進め!」

 コヴァクスは大喝した。

 リジェカ軍一丸となって、ソケドキア軍を分断するように、突き抜けようとしていた。

 龍菲ロンフェイといえば、コヴァクスのそばを離れず。三歩ほど後ろで自身も剣を振るい、ソケドキア軍を薙ぎ倒してゆく。

 奮戦するコヴァクスの背中を見て、彼女は笑顔だった。

 龍菲にとって、コヴァクスと一緒にいられることが、なによりも楽しく、嬉しいことだった。

 それは、セヴナに言ったような、恋というものだと、彼女は思っている。自身の恋心を、否定もせず照れもせず、素直に受け止めていた。

「数はこちらが多いのだぞ、取り囲んで、握りつぶせ!」

 ペーハスティルオーンは互角に持ち込まれて怒りをあらわにしながら号令をくだした。

 その号令どおり、ソケドキア軍はリジェカ軍を取り囲もうとする。しかしそれにお構いなく、コヴァクスは突き進み。ドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団はよくついていった。

 アトインビーの掲げる紅の龍牙旗は乱戦の中、勇姿を見せ付けるようにそびえ立ち、はためいている。他の龍牙旗も同じであった。

 ソケドキア軍はペーハスティルオーンの号令どおり、数の利を生かしてリジェカ軍を取り囲もうとする。

 それを察せぬコヴァクスらではなかった。

「小龍公に続け! 突破して活路を開くのだ!」

 ダラガナは叫ぶ。取り囲まれて握りつぶされてしまえば元も子もない。兵力を集中させて、ソケドキア軍を突っ切って、反転し再び突っ切る。そこから勝機をもぎとるのだ。

 リジェカ全軍は喚声をあげにあげて、得物を振るいに振るって、あらん限りに駆けて。ソケドキア軍を突破しようとする。

 その活路を開くのが、主将たるコヴァクスだった。

 その勇戦が、ペーハスティルオーンにも、見せ付けられる。

「忌々しいドラゴンめ。ここで神雕王に拳を見舞った借りを返させてやる」

 ペーハスティルオーンは馬を駆けさせ、一隊を引き連れてコヴァクスの方へと向かった。

「コヴァクス!」

「うん」

 龍菲に言われるまでもなく、ペーハスティルオーンが一隊を引き連れ自分に向かってきていることには気づいていた。

「ペーハスティルオーンの奴め。オレの首を獲ろうというか」

 受けて立つ、とコヴァクスは槍斧を掲げてペーハスティルオーン向かって愛馬グリフォンを駆けさせた。だが、それを龍菲が追い越し、乱戦の中、龍星号を駆けさせ。ペーハスティルオーン率いる一隊に向かっていった。

「女!」

 という声がするとともに、白刃が駆け抜けた。

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