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第三十七章 ザークラーイの会戦 Ⅷ

「攻めの手を緩めるな! 徹底的に攻めよ!」

 シァンドロスはザークラーイの固い守りを目の当たりにしても、攻撃を控えるようなことはしなかった。

 山を囲んで三日になる。日の出から日没に掛けて、数の利を生かし、ひたすらに攻めさせた。

 軍鼓管楽鳴り響き、それに交わる喚声。軽装の兵士は崖をよじのぼり。北面からは橋を増設して、どうにか壁を打ち破ろうとソケドキア軍は押し寄せた。

「うじゃうじゃと……。返り討ちにしてやれ!」

 ザークラーイ山に篭るリジェカ軍一万の主将であるジェスチネは叫んだ。

 天険を生かし、岩石を落とし、矢を雨のごとくあびせて。ソケドキア軍が押し寄せられるたびに返り討ちにしていた。

 ソケドキア軍も手を打つことは打っていた。絶壁を上りやすくするため、攻め上がりながらも手や足を掛けられる大釘を所々に打ち込み。それをつたって絶壁を登っていた。

 それでも、頂上から岩石が落とされ、油が落とされ火矢がはなたれ。

 ソケドキア兵は悲鳴をあげながら落下してゆく。

 北面でも、押し寄せるソケドキア軍を矢をもって追い返し。中には足元の石つぶてを放って、ソケドキア兵の顔面を打ち砕くこともあった。

 その防戦の甲斐あって、北面でも攻めあぐね。戦況は膠着状態になりつつあった。

「神雕王、敵もさるもの。攻めても攻めても、びくともしませぬ」

 ペーハスティルオーンは苦々しく進言した。このまま攻め続けても、損害が増えるだけだ。

 さすがのシァンドロスも不敵な笑みは消えて、忌々しそうにザークラーイ山を見据えて、舌打ちをする。

 その目には、憎悪の炎が燃え盛っていた。

 カンニバルカ別働隊は戦況の成り行きを見据えながら、戦場の周囲をまわっていた。

「守り手の士気は高くなっとるな」

 ぽそっとつぶやいた。

「ソケドキアなにするものぞ」

 ジェスチネをはじめとするリジェカ兵らは、天険を生かした戦いが功を奏していることで、その通り、士気は高かった。

「よく、戦っているものだ」

 モルテンセンも、うまく寄せ手を退けていることで、喜びをあらわにする。

 だがイヴァンシムは浮かぬ顔をしている。

「まだ油断はできませぬ。いかに寄せ手を退けるといえど、ソケドキア軍に壊滅的な打撃を与えるにはほど遠い」

 確かに、寄せ手をいかに退けようとも。総勢二十万の大軍である。山に篭り、寄せ手の兵をいかに退けようとも、二十万から一気にその数を減らすことは難しいものだ。なにより、山に篭ってソケドキア軍と戦うことが目的ではない。

「王よ、ご油断めされるな。危険を冒し、山に篭るはなんのため。それをゆめゆめお忘れなきよう」

「そうであった。喜ぶには、まだ早い」

 イヴァンシムの戒めを受け、モルテンセンは気をあらためて引き締めた。

 

 山から離れたところにあるドラゴン騎士団らは、戦況の報せを受けとりあえずは安堵した。

 寄せ手が優勢であるという。 

 だが、いまのところは、である。

 コヴァクスもニコレットも、気がかりなことがある。

 ふと、ニコレットはなにかを思い当たってか。

「そうだ」

 とつぶやき、伝令将校をリジェカドラゴン騎士団に遣った。

 伝令将校はリジェカドラゴン騎士団のコヴァクスと会い、ニコレットの伝言を伝えた。

 いわく。攻めあぐねたシァンドロス、ソケドキア軍はかならず国境付近の町や村落に手を出すかもしれない。リジェカ軍かオンガルリ軍のどちらかが、国境付近まで赴かねばならぬのではないか、と。

 それを聞いたコヴァクスは、

「もっともだ」

 と頷き。即断して、リジェカドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団一万五千が国境付近の町や村落を守るという旨を、伝令将校に伝えた。

「しかとお伝えいたします」 

 コヴァクスからの伝言を受け、伝令将校はかえってゆく。

 それを見送りながら。

「これより南下し、我らは国境付近の町や村落を守備する」

 コヴァクスは号令し、リジェカドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団一万五千は、行進をはじめた。

「お兄さまがゆくの」

 早い決断だ、と感心しながら。ニコレットは伝令将校からの言伝を受けて。労をねぎらい、伝令将校をさがらせた。

 色違いの瞳は、青い空を見据えていた。

 さて、自分たちはどうするべきか。このまま動かないのも、間抜けなような気がするが。攻めあぐね苛立ったソケドキア軍が襲うのは、南の国境付近の町や村落だけとも限らない。もっと奥に入って、手近な町などを襲うことも考えられる。

 自分たちはそのために、いまいるザークラーイの北方にいたほうがよいかもしれない。

 隙をうかがい夜襲なり奇襲なりしかけてもよいが、カンニバルカ率いる別働隊五万が周辺を警護するように回っているため、迂闊に手を出せないのがもどかしい。

 シァンドロスが思案して命じたのか、カンニバルカが思い至って進み出たのか。どちらにせよ、考えたものだ。

 ニコレットはさらに斥候の数を増やし、こまかにザークラーイ山の戦況をつぶさに調べさせ。己の率いるオンガルリドラゴン騎士団およびオンガルリ国軍三万五千がどうするべきか、思案に暮れたのであった。

 その間にも、コヴァクス率いるリジェカドラゴン騎士団およびリジェカ国軍に赤い兵団は大きく迂回しながらも国境付近へと南下して。

 こうして、ザークラーイ山攻防戦の開戦三日目は、日没を迎えた。

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